お知らせ 五日間(7月28日~8月1日)は 「レインボー・ループ」の 第1回から第5回めをUpしたいと思っております。 それは、献血の話を今よんでいただきたいからです。 8月2日からは『メリー!地蔵盆』がさらに続きます。 |
五、盂蘭盆(うらぼん)
49.登山
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カメラマン ふーちゃん
16日。いよいよ大文字の送り火の日である。
朝早く、雄二と池山はジョンさんのところへ行く。雄二はジョンさんの部屋の戸をたたく、ストンストンとにぶい音がする。
「ジョンさん、おるか」
「雄二と池山だよ」
「はいはい」
ドタバタと大きな音がしている。
「ジョンさん、早く早く」
「どうしました」
ジョンさんはドアを開けて顔をだしている。
「大文字山に登ろうよ」
「そうや、池山と登ろうと昨日決めたんや」
「ぼくの弟に見つかると子守しなあかん。早く、早く」
「はい、わかりました」
「サンダルじゃだめだよ」
「池山くん、子守しなくっていいのですか」
「ええわけないから、あせっているんや。妹の恭子が怒るんや」
「子守のかわりいるのですね」
「いるいる」
「登山靴か、大袈裟やね」
「かまへん、かまへん」
「水虫になるで」
「心配性やな。大丈夫やって」
吉田山を三人はそろって降りていく。
池山と雄二は夕涼みしているとき、池山がジョンさんを誘って大文字山に登ろうということを決めた。しかし、ふたりとも地図で調べたり計画をたてるなどということはしなかった。
「曽我のおばあさんから聞いたんやけど、大文字の火は一本の筆で書いたようにはないそうや。ぼくは大文字の火床みたいんやけど、ジョンさんは登ったことないから頂上まで行きたいやろ」
池山は歩きながら、ジョンさんに気軽に話しかけた。
「ええ、どちらも見たいです」
ジョンさんはいつもより生き生きした顔をしていた。
三人は早足で、右大文字山(如意岳)に登っていくと、送り火の場所には以前登ったときと違いたくさんの人がいた。
ロープもはられていたのが一部見えたので、文字の部分へ行くのはやめた。
三人は大文字が書かれた部分より東に行き、三角点の方へ歩いた。
三角点からの眺望はとても素晴らしい。三人はそろって大きく深呼吸した。それから、ジョンさんと雄二は景色を堪能(たんのう)していた。
頂上までには行かず、三角点のところから折り返した。
地図も見ないで登山する雄二たちは、迷ってはいけないので来た道を帰るのがいつもの行動パターンでもある。
「せっかく来たのに、大文字の字の部分に行きたいなあー」
池山は悔しそうに話した。
「うん、そうやねえー。行けるとこまで行こう」
「そうですね、ロープが張られていない部分には行ってもかまわないでしょう」
三人はまわりの様子を見ながら、大の字の部分に歩いていった。
ロープは一部分しか張られておらず、入ることができた。それに先ほどとちがって、沢山の人が並んでいなかった。
字の部分にも入ることができた。
「ここから、見たら大の字の大きさがよくわかります」
ジョンさんは喜んでいる。
大文字の「大」は第一画80メートル、第二画160メートル、第三画120メートルという巨大なものである。
「市電から、降りてもわかるで」
「市電からだと絵の額に入りそうですけど、ここでは見渡さないとわかりません」
「あの木を組んだのを燃やすのだろうなあー」
池山が指さしたところには、木が井の形に組んであり、いくつも積み重ねられていた。
立ち入り禁止のところから、作業着をきたおじさんが一休みしにきて、煙草を吸っていた。
「そうやで、遠くから見たら一筋にひかれた文字に見えるけど、こう、ぽこぽこと置かれた松明が燃えているんや。ああやって、木材を四角に組んであるのも、何か宗教的な意味合いがあるそうやけど、わしらに言わせたら、その方がよく松明が燃えますねん」
おじさんは煙管に煙草の葉をつめて、美味しそうに吸った。
「見晴らしもええ、空気も美味い。ジョンさん来て良かったやろ」
池山は石の椅子に坐って、にんまりとしている。しばらくすると、地蔵盆の準備があるのを思い出した。
「帰らな、幸江、怒るで」
「走って帰ろう」
「走ったら、危ない。山なめたらあかんよ」
おじさんの声が追っかけてくる。
「そうか」
雄二らは走るのを止めた。でも、だんだん早足になる。
「山を一つ越え、一つ登りました。疲れました。お腹、ぺこぺこです」
「吉田山こえ、大文字山に登った。ああ、しんど」
「何をしていたの」
幸江が共同炊事場の上のベランダから叫んだ。
ジョンさんは部屋に帰って行った。
「ジョンさんにいい思い出になるで……」
しばらく沈黙し
「ジョンさん、引っ越しするそうや」
と池山は真剣な眼差しを雄二に向けていた。
「ほんまか!」
「うん、そういう噂や」
「ほんまか、幸江、ジョンさん、いんようになるんか」
「……そんな、みんなで地蔵盆、楽しむよ」
下を向いてモジモジしている。
「ほんまか」
ジョンさんがタオルを首から下げて出てきた。
「ジョンさん、いなくなるんか」
「……いずれはそうなるでしょうが、地蔵盆、楽しみにしています」
といって、共同炊事場に入って行った。そして、顔を洗って出て来た。
閑話休題 大文字山登山は小学校でも行きました。 そのころは、山椒魚などもいました。 山椒魚といっても、天然記念物のあの大山椒魚ではありません。 小さくって手のひらにのるような、かわいい山椒魚でした。 吉田山よりもうっそうとした木々があり、 夏でも木陰は涼しいものでした。 大文字山登山で楽しい記事と写真をBlogで ふーちゃんがUpしてくれています。 何かこちらまで登山している気分になるBlogです。 それだけでなく、この話の舞台になる吉田山の写真もあります。 こんなふうに吉田山を見ることもできるんかと思う 写真でもあります。 |
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