五、盂蘭盆(うらぼん)
39.ジョンさん参百円
ジョンさんが古ぼけた鍋をもって共同炊事場から出てきた。鍋のなかは犬のジョンの大好物の竹輪が入った雑炊である。湯気はたっていないから、以前につくっておいたのだろう。犬のジョンは猫舌でもあった。
ジョンさんはジョンの前に鍋をおいた。ジョンは尾をふり、鼻をキュンキュンならしてから、ジョンさんを上目づかいで見つめてから食べはじめた。
「ジョンさん、ジョンと友達になれたんやね」
雄二もハッピーな気持ちになった。
ジョンさんは膝をかかえながら、こっちを見て、
「やっと成りました。神様、見いだしました」
と、うれしそうだった。
「犬と仲良くなれたら、神様見いだしたの。変なの」
雄二はあきれていた。
「アシジの聖フランシスコを覚えていますか。聖フランシスコは猛獣にさえ、布教したという伝説が書いてあります。おもしろい話です」
「ジョンさん、ジョンに布教していたの」
雄二は驚いて質問した。犬までに神様の素晴らしさを教えるなんて。
「いいえ、わたし、聖人様じゃありません。でも仲良しはいいものです」
ジョンさんは頭をかいていた。
ジョンはジョンさんに頭をなでられて、目を細めて喜んでいた。
「さぁ、さぁ。今年も貼りだすぞ」
管理人のおじさんの声だ。
管理人さんは模造紙をもってきて、画鋲(がびょう)で板べいにとめた。
「あっ、地蔵盆の寄付だ。家は伍(ご)百円か」
雄二は一番前で大きな声で字を読んだ。
「やっぱり、ホステスさんは一杯してはるね」
雄二の後ろで幸江の声がした。
「寄付ですか」
ジョンさんは頭をかいた。
「かまいませんよ。ジョンさんは大学院の留学生なんやし。それに子どもの面倒をよくみてくれてはりまっから」
管理人さんは頭を下げていた。
ジョンさんは財布から、百円札を三枚だした。頑固なジョンさんはお金を寄付してしまった。漢字ばかりのところにジョンさん、参百円と書かれた。
「ラフカディオ・ハーンのように日本名が欲しいですね」
「小泉八雲ですね。それだったら、ジョンさん、日本の女性と結婚しないとね」
管理人さんは大きな目をしていた。
「それは、まだ早いです」
ジョンさんは照れていた。
いつのまにか、幸江がいなくなっていた。
「今年の地蔵盆は楽しみです。幸江が人形劇を習って来たのです」
管理人さんはジョンさんと話していた。幸江が人形劇をするのか、楽しみだなーと雄二は思った。
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