五、盂蘭盆(うらぼん)
41.大文字さん
ベランダで、地蔵盆について相談しあっている。するとベランダの前の本館の離れから、曽我のおばあさんが出てきて、隣の川田さんの玄関の前に立った。
「もしもし、川田さん」
ガラガラと戸をあけて川田さんは顔をだした。
曽我のおばあさんと川田さんと話しをしはじめた。
「この文章を読んで、もし賛同してくれはったら、署名捺印してください」
曽我のおばあさんは回覧板についた紙を川田さんに見せていた。
雄二たちは、ベランダで地蔵盆について語り合っている。
「やっぱり、暑いな。ジョンさん、まだ、冷やし飴つくってこないのかな」
「それにしても、ジョンさん、じゃいけん弱いな」
幸江がうれしそうに笑った。
鉄の階段をのぼって、ジョンさんは冷やし飴を持ってきた。
雄二は、ひやし飴を飲みながら、
「曽我のおばあさんは、やっぱり地獄耳や」
と話していると、
「だれが地獄耳やて」
と大きな声が聞こえた。
雄二はびっくりして、後ろを見ると曽我のおばあさんのおっかない顔があった。
「この反戦・平和運動に署名捺印してくださいなあー」
曽我のおばあさんはジョンさんにお願いしていた。
「雄二、若いのに耳が遠いのかいな」
曽我のおばあさんは大笑いした。
「おおぼけ、こぼけ~」
池山が囃した。
「曽我のおばあさんが平和運動かいな」
雄二はそっちのほうに驚いた。
曽我のおばあさんはにこにこしている。
「はい、文章を読みました。署名はできますが、わたし、判子もっていません。どうしましょう」
ジョンさんは頭を悩ませていた。
「そうですね、サインでもいいでしゃろ。外国の人やから」
「署名は英語でサインでしょう」
頑固なジョンさんは困っている。
「判子のまねして書いてくださいよ」
曽我のおばあさんは無理な注文をする。
「難しいです」
ジョンさんは悩んでいる。
「適当でええですよ」
雄二と池山はジョンさんと曽我のおばあさんのやりとりが漫才みたいやなと話していた。
「池山と雄二ほどじゃないわい」
曽我のおばあさんは言い返してきた。
池山と雄二は、聞こえてないと思っていたのに、
「やっぱり、地獄耳や」
と驚いた。
「そうやで、どこで悪口いっても聞こえるで!」
曽我のおばあさんは両手をお化けのようにたらしていた。
「おお怖~」
雄二と池山は震え上がった。
曽我のおばあさんたちは雄二らを見て笑った。
ジョンさんの署名とサインが終わった。
曽我のおばあさんは、
「ジョンさん、あそこの大文字山が見えまっか」
回覧板を抱きしめていた。
「ええ、見えます」
ジョンさんはうれしそうだ。
「南側から、あの鳥居の形をしているのは曼陀羅山。あの大の字をしているのが大北山。船の形をしているのが妙見山。“妙法”は松ケ崎。ここからは見えませんけど、東側にある大の字は如意岳と言います」
「それら、五つをあわせて、大文字五山と言います」
幸江が横から口を出した。
「そうやね」
曽我のおばあさんは笑った。
「俺でも知っているわ」
池山もうれしそうだ。
「そうか、じゃ、なんで大文字の送り火がはじまったか知っているか」
曽我のおばあさんは質問してきた。
「知らん」
三人は返事した。
「はい。いろんな説はありますが、有力な説は応仁の大乱で死んだ人たちの霊を癒すためです」
「その通りや。ジョンさん、日本人より日本人やな」
「応仁の大乱って何なの」
「わしはこれから、署名活動や。ジョンさんに教えてもらい」
曽我のおばあさんは腰を叩きながら本館のほうへ行った。
「やっぱり地獄耳やったな」
池山は驚いていた。
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