龍の声

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「イチロー引退会見に学ぶ超一流の確固たる心得」

2019-03-31 06:04:15 | 日本

◎「人より頑張ってきたとは言えない」の真意

「いちばん印象に残っているシーンは?」と聞かれたイチロー選手は、「この後、時間がたったら、今日(の試合)がいちばん、真っ先に浮かぶことは間違いないと思います。それを除くとすれば、『今までいろいろな記録に立ち向かってきましたが、そういうものは自分にとってたいしたことではない』というか、それを目指してやってきましたが、『いずれ後輩たちが抜いていくので、それほど大きな意味はない』というか、今日の瞬間を体験すると、すごく小さく見えてしまいます」とコメントしました。

さらに、「引退の決断に後悔や思い残しはない?」と聞かれたイチロー選手は、「今日の球場での出来事……あんなものを見せられたら後悔などあろうはずがありません。もちろん、もっとできたことはあると思いますし、結果を残すために、自分なりに重ねてきたことはありますが、『人よりも頑張ってきた』とはとても言えないし、そんなことはまったくないですけど、『自分なりに頑張ってきた』ということはハッキリ言えるので、『重ねることでしか、後悔を生まないということは
できないのではないか』と思います」とコメントしました。

「いずれ後輩が抜く記録はたいしたことではない」「人より頑張ってきたとは言えない」。どちらのコメントも、「イチロー選手がいかに他人と比べず、自分の仕事に集中していたか」を物語っています。

「生きざまでファンの方に伝えられたことは?」と聞かれたイチロー選手は、「生きざまでというのはよくわかりませんが、“生き方”と考えるならば、あくまで“はかり”は自分の中にあって、『自分なりに“はかり”を使って限界を見ながら、ちょっと超えていく』ということを繰り返していく。そうすると、『いつの日からか、こんな自分になっているんだ』という状態になって。だから少しずつの積み重ねでしか自分を超えていけないと思うんですよね」とコメントしました。


◎イチローらしい進化のプロセス

さらに、「『一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて続けられない』と僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではなく、後退もしながら、あるときは後退しかしない時期もあると思いますが、自分が『やる』と決めたことを信じてやっていく。それが正解とは限らないし、間違ったことを続けてしまうこともあるんですけど、『そうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えない』という気がしています」と穏やかながら熱っぽく語りました。

「『最低50歳まで現役』と公言していたが、日本に戻ってプレーする選択肢はなかったか?」と聞かれたイチロー選手は、「なかったです。理由はここでは言えないですね。ただ、『最低50歳まで』と本当に思っていました。それはかなわず有言不実行の男になってしまいましたけど、『その表現をしてこなかったら、ここまでできなかったかな』という思いもあります。だから難しいかもしれませんが、『言葉にして表現することは、目標に近づく1つの方法ではないか』と思っています」とコメントしました。

イチロー選手は「プロで成功したことは?」と聞かれたときも、「『成功かどうか』はよくわからないですし、まったく僕には判断ができません。だから僕は成功という言葉が嫌いなんですけど。『メジャーリーグに挑戦する』ということは大変な勇気だと思いますが、『成功すると思うからやってみたい、それができないと思うから行かない』という判断基準では後悔を生みますし、やってみたいなら挑戦すればいい。そのときにどんな結果が出ようとも後悔はないし、基本的にはやりたいと思ったことに向かっていったほうがいいですよね」とコメントしました。


◎「成功」という言葉に振り回されなかった

「ファンの存在とは?」と聞かれたイチロー選手は、「何となく日本の方は『表現することが苦手』という印象がありましたが、(今回の2試合で)完全に覆りましたね。内側に持っている熱い思いが確実にあって、それを表現したときの迫力はとても今まで想像できませんでした」とコメントしました。

さらに、「あるときまでは、『自分のためにプレーすることがチームのためになるし、見ている人も喜んでくれる』と思っていましたが、ニューヨーク(ヤンキース)に行ったあとぐらいから、『人に喜んでもらうことがいちばんの喜び』に変わりました。その点で、『ファンの方々の存在なくしては、自分のエネルギーがまったく生まれない』と言っていいと思います」と続けたのです。

2つの共通点は、「あっさりと自分の変化を認めている」こと。イチロー選手は、「野球の求道者」などと言われ、変わらないことを美徳としているように思われがちですが、実際は自分の変化をサラッと認めてしまう人物でした。プロ野球選手に限らず、立場や役職が上の人や、実績を残した人が、このような変化を公言することで、懐の深さを感じさせることができます。
また、「引退して何になるのか?」と聞かれたときも、「そもそも、カタカナのイチローってどうなるのか……“元イチロー”になるのかな。どうしよっか。何になるか……監督は絶対無理っすよ。これは“絶対”がつきます。本当に人望がないので。それくらいの判断能力は備えています」とコメントしました。


◎回答を断っても愛される人柄

「(新加入の後輩)菊池雄星投手と抱擁の際にどんな会話を交わしたのか?」と聞かれたイチロー選手は、「それはプライベートなので。雄星が伝えることは構いませんが、僕が伝えることではないですね。それはそうでしょう、だって2人の会話だから。しかも、僕から声をかけているわけで、それをここで僕から『こんなことを言いました』と話したらバカですよね。そんな人間は絶対に信頼されないもんね。それはダメです」とコメントしました。


◎「誤解を恐れない」ポジネガ・ネガポジ変換

「野球が楽しくなる瞬間はあったか?」というポジティブな質問にもかかわらずイチロー選手は、「やはり力以上の評価をされるのは、とても苦しい。もちろんやりがいがあって、達成感を味わうこと、満足感を味わうことはたくさんありました。しかし、『楽しいか』というと、それとは違います」とネガティブなコメントを返しました。

また、「選手生活の中で得られたものは?」というポジティブな質問に対しても、「『まあ、こんなものかな』という感覚ですね。200本(年間安打)をもっと打ちたかったですし、できると思ったし、メジャーに行って1年目にチームは116勝して、次の2年間も93勝して、『勝つのってそんなに難しいことじゃないな』と思っていたんですけど、勝利するのは大変なことです。この感覚を得たのは大きかったかもしれないですね」とネガティブなコメントを返しました。

その一方で、「かつて『孤独感を感じてプレーしている』と言っていたが、ずっとそうだったか?」というネガティブな質問に対しては、「現在それはまったくないですね。アメリカでは、僕は外国人ですから。外国人になったことで人の心をおもんぱかったり、痛みがわかったり、今までなかった自分が現れたんですよね。体験しないと自分の中からは生まれないので、孤独を感じて苦しんだことは多々ありましたが、『この体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだよ』と今は思います」とポジティブなコメントを返しました。


◎ビジネスの大半は団体競技であり個人競技

最後に、ぜひ紹介しておきたい名言を2つ挙げておきましょう。
イチロー選手は、「苦しい時間を過ごしてきて、『将来は、また楽しい野球をやりたいな』と思うようになりました。これは皮肉なもので、『プロ野球選手になりたい』という夢がかなったあとに、あるときから、またそうではない野球を夢見ている自分が存在しました」「『プロ野球でそれなりに苦しんだ人間でないと、草野球を楽しむことはできない』と思っていたので、これからはそんな野球をやってみたいと思います」と語っていました。

もう1つの名言は、「野球の魅力はどんなところか」と聞かれたときの「団体競技なんですけど、個人競技だというところ。『チームが勝てばそれでいいか』というと、全然そんなことはないですよね。個人としても結果を残さないと生きていくことができません。その厳しさが魅力であることは間違いないかなと」というコメント。