助手:博士〜! 一体どこに行ってたんですか?
博士:貧乏暇なしじゃよ。細々したことに関わっておるとあっという間に一週間が過ぎてしまったわい。
助手:ただでさえ出番がグッと少なくなってきたのに、そんなにトロトロしていると忘れられちゃいますよ〜
博士:すまんのう〜
助手:ところで2013年に出た、キャピトル編集盤をCD化したボックス・セット、The U.S. Albumの中のThe Beatles Second Albumなるものを久々に聴いてみたんですが、ふと疑問に思えたことがあって…
博士:このボックス・セットはキャピトル編集盤と言っても、実際のところ60年代当時のキャピトル編集盤のミックスを全て使っている訳ではなく、かなり特徴のあるRemix音源を除けば、2009年に英EMIが主導して作られたRemaster音源に置き換えられたのじゃよ。
各復刻CDには、Hey Judeのアルバムを除けばモノ音源とステレオ音源の両方が収録されていて聴き比べが出来るのじゃが、大半が2009年のRemaster音源に置き換えられている観点からすれば、聴き比べはそれほど意味のあることとは思えない気がしてのう〜
助手:なるほど、このボックス・セットの価値って、音源よりもむしろキャピトル編集時代のジャケのミニチュア・サイズでの復刻を楽しむことにかなり重きが置かれているって事ですね。
(オリジナルLPのデザインに準拠)
博士:そんなところじゃ。
助手:疑問に思ったのは、The Beatles Second Albumのモノ音源からステレオ音源まで通しで聴いて、ステレオ・ミックスと表記があるのに音源として収録されていた最後の2曲、I’ll Get YouとShe Loves Youはモノ音源に差し替えられているのに気がついたのです。
(2曲はモノ・レコーディングとなっている)
博士:それはじゃな、 She Loves YouとShe Loves YouのシングルB面のI’ll Get Youには正式なステレオ・ミックスが存在しなかったので、この2曲に関しては仕方なしにモノ音源が使われているのじゃ。
助手:しかし、オリジナルのレコードや2004年に出たボックス・セット、The Capitol Albums Vol.1のステレオ編集盤には、疑似ステレオ・ミックスによるI’ll Get YouとShe Loves Youをアメリカ独自に作成し収録されていますが…
(悪名高きコーピー・コントロールCDで当時定価1万円とはボッタクリ以外の何物でもない!)
(紙ジャケもオリジナルに正確に準拠していない手抜き!)
博士:当時、アメリカ・マーケットでは2チャンネル・ステレオという新しい規格を早く定着させよういう考えだったからのう。
疑似ステレオ(Duophonic)、すなわち左右から出てくるモノ音源に異なったフィルターやディレイなどを加えて音の定位を調整し、2台のスピーカーの出力でなんとか立体感を出そうと試みたのじゃった。
助手:なるほど。
博士: ところで、She Loves Youには別の疑似ステレオ・ミックスがある事を知っておるかの〜? 1966年にイギリス編集で発売されたコンピ・アルバム、A Collection Of Beatles Oldiesに収録されたバージョンで、ステレオ盤のA Collection Of Beatles Oldiesを制作するため、ステレオ・マスターのない曲はモノ音源から疑似ステレオ・バージョンを作成したのじゃ。
(廃盤のため、中古レコードかロシア製?のブート紙ジャケCDでしかお目にかかれなくなった)
左チャンネルには高域をカットしたモノ音源、 右チャンネルには低域をカットしたモノ音源を配置し独自にミックスしたらしい…
助手:甲高いビートルズの歌声は斜め右から、低域を含む演奏は斜め左から聴こえてきますね〜
博士:しかしA Collection Of Beatles Oldiesは廃盤となり、この英編集のステレオ音源も今や存在しなくなった。
それにCD化の際ビートルズの曲を一括管理するため、 The U.S. Albumの発売を機に60年代の米編集の疑似ステレオなどのミックスは邪道とだと考え、一部の例外を除いて今後正規盤には収録されない措置がとられたのじゃよ。
助手:現在はShe Loves Youは全てモノ・ミックスで統一されたって事ですか?
博士:その通りじゃ。ただ専門家の話によると、モノ音源もリマスターのされる毎に微細ではあるが音源が修正加工された事から、いくつものモノ・ミックスの別バージョンが存在するらしいのう〜
それはさておき、 The Beatles Second Albumのステレオ・ミックスには全体にリバーブ(残響音効果)が施され、あたかも風呂場での歌唱したような反響音があり、ワシとしてはこれはこれでなかなか趣があるように感じたのじゃがのう….
知っている人は知ってるし、また知らなかったとしても何お得にもならない瑣末な事。
貧乏暇有りのお話でした。