「話が、あるの・・・」
そう云って彼女は、そろそろ通いなれ始めた僕の部屋にやってきた。
付き合いだしてから三ヶ月、でも、その間二ヶ月半ほどは彼女の心には別の男がいた。
僕はとうとう、この日が来たのかと、半ば諦め気分のわざとらしい卑屈な笑顔をつくり、彼女を迎え入れた。
僕は彼女をキッチンのテーブル椅子に座らせ、いつもより時間をかけ、丁寧に二人ぶんのコーヒーを淹れた。
僕は無言で彼女の前に深い香りの漂う陶器のコーヒーカップを置いた。
「ありがとう」
彼女は一口、静かに啜り、いつもの、苦さを押し殺すような顔をした。
僕は少しだけ口元をほころばせ、ステッイックシュガーとミルクを差し出したが彼女は首を振り、また一口、苦味を口にした。
僕は彼女の真向かいに腰を下ろし、いつもは目を瞑って味わう最初の一口を今日は彼女をジッと見つめ続けながら、飲み込んだ。
彼女は僕の視線にハッとして、目を逸らした。
もう、間違いないだろう・・・。
僕はうつむき、コーヒーカップを所在無げに撫でていた。
すると彼女は唐突に、いや、ここまでの彼女の心の中では様々な想いが、繰り返し繰り返し、堂々巡りの中をもがき続け、今、ようやく、ここに辿り着いたのだろう・・・そう、思いたい。
「ワタシと・・・別れて、ください・・・」
予期していたこととはいえ、やはり直接その言葉を耳にすると、ダメだった。僕は数秒、いや、数十秒、数分か?身じろぎもせず、彼女を見つめ続けていた。
しかし、ほどなく、僕は首を縦に振ることが、できた。
理由なんて今更、訊く必要も無い。まして、考え直してくれ!などと、云うこともできない・・・。もう、ずいぶん永い間、僕らは苦しんできたんだ、それが、今日、ようやく、終わるんだ・・・。
僕がコーヒーを飲み終えると彼女は立ち上がり、カップを片付けようとした。
「いいよ」
自然に、自然に、云えた、はずだ・・・。投げやりでもなく、キツくもなく、少しはにかむくらいの笑顔の口元で、云えたはずだ。
でも、それがまずかった・・・。
僕はもう、気持ちを堪えるのに限界だった。
僕は彼女に背を向けたまま、キッチンに佇んでしまった。
「それじゃぁ、いくね・・・」
そんな僕の気持ちを察してくれたのか、彼女はバッグを手に取り、玄関に向かっていった。
見送る必要なんてないんだ。そう思いながらも、やはり僕は彼女を追いかけてしまう。そう、最後の最後まで・・・。
僕は何も云えずに、ただ、うつむいているだけだった。ともすれば涙が溢れ出しそうな僕は、もう彼女の顔さえ、まともに見れず、壁にうな垂れている。
彼女は靴を履くため、一瞬屈み込んだ。
そのとき、フッと僕の視界に彼女の顔が映りこんできた。
そのまま、彼女の顔が近づいてきて、ソッと僕にキスした。
ほんの二、三秒の、別れのキス。
「それじゃあ」
彼女は今まで僕が見た中で一番綺麗な笑顔を浮かべ、去っていった。
呆然とするしかない僕であったが、そのとき気付いたことは、今まで彼女と数え切れないくらいのキスをしてきたけど、彼女のほうからしてきたキスは、これが最初で最後だったんだ・・・。
僕はそのまま、玄関で声を殺し、泣き崩れた。
そう云って彼女は、そろそろ通いなれ始めた僕の部屋にやってきた。
付き合いだしてから三ヶ月、でも、その間二ヶ月半ほどは彼女の心には別の男がいた。
僕はとうとう、この日が来たのかと、半ば諦め気分のわざとらしい卑屈な笑顔をつくり、彼女を迎え入れた。
僕は彼女をキッチンのテーブル椅子に座らせ、いつもより時間をかけ、丁寧に二人ぶんのコーヒーを淹れた。
僕は無言で彼女の前に深い香りの漂う陶器のコーヒーカップを置いた。
「ありがとう」
彼女は一口、静かに啜り、いつもの、苦さを押し殺すような顔をした。
僕は少しだけ口元をほころばせ、ステッイックシュガーとミルクを差し出したが彼女は首を振り、また一口、苦味を口にした。
僕は彼女の真向かいに腰を下ろし、いつもは目を瞑って味わう最初の一口を今日は彼女をジッと見つめ続けながら、飲み込んだ。
彼女は僕の視線にハッとして、目を逸らした。
もう、間違いないだろう・・・。
僕はうつむき、コーヒーカップを所在無げに撫でていた。
すると彼女は唐突に、いや、ここまでの彼女の心の中では様々な想いが、繰り返し繰り返し、堂々巡りの中をもがき続け、今、ようやく、ここに辿り着いたのだろう・・・そう、思いたい。
「ワタシと・・・別れて、ください・・・」
予期していたこととはいえ、やはり直接その言葉を耳にすると、ダメだった。僕は数秒、いや、数十秒、数分か?身じろぎもせず、彼女を見つめ続けていた。
しかし、ほどなく、僕は首を縦に振ることが、できた。
理由なんて今更、訊く必要も無い。まして、考え直してくれ!などと、云うこともできない・・・。もう、ずいぶん永い間、僕らは苦しんできたんだ、それが、今日、ようやく、終わるんだ・・・。
僕がコーヒーを飲み終えると彼女は立ち上がり、カップを片付けようとした。
「いいよ」
自然に、自然に、云えた、はずだ・・・。投げやりでもなく、キツくもなく、少しはにかむくらいの笑顔の口元で、云えたはずだ。
でも、それがまずかった・・・。
僕はもう、気持ちを堪えるのに限界だった。
僕は彼女に背を向けたまま、キッチンに佇んでしまった。
「それじゃぁ、いくね・・・」
そんな僕の気持ちを察してくれたのか、彼女はバッグを手に取り、玄関に向かっていった。
見送る必要なんてないんだ。そう思いながらも、やはり僕は彼女を追いかけてしまう。そう、最後の最後まで・・・。
僕は何も云えずに、ただ、うつむいているだけだった。ともすれば涙が溢れ出しそうな僕は、もう彼女の顔さえ、まともに見れず、壁にうな垂れている。
彼女は靴を履くため、一瞬屈み込んだ。
そのとき、フッと僕の視界に彼女の顔が映りこんできた。
そのまま、彼女の顔が近づいてきて、ソッと僕にキスした。
ほんの二、三秒の、別れのキス。
「それじゃあ」
彼女は今まで僕が見た中で一番綺麗な笑顔を浮かべ、去っていった。
呆然とするしかない僕であったが、そのとき気付いたことは、今まで彼女と数え切れないくらいのキスをしてきたけど、彼女のほうからしてきたキスは、これが最初で最後だったんだ・・・。
僕はそのまま、玄関で声を殺し、泣き崩れた。