ドル全面安はどういう意味なのか?
昨日はドルの全面安で円高が進みました。円高は日本の株式市場にとってマイナス要因といえますが、ドル安になった理由から考えますと米国の景気状況を市場関係者がどう見ているのかが見えてきます。詳しくはレポートをご覧ください。
震災後のG7協調介入から円安傾向となっていた為替市場ですが、急速に円高傾向となりました。4月7日には1ドル=85円台まで円安が進みましたので、2週間で4円程度も円高が進んだことになります。
円高となりますと、輸出企業が多い日本の株式市場にとってマイナスと考えるのが一般的です。市況解説でも「円高を嫌気」と解説されます。したがって、急速な円高というニュースを見ると、日本の株式市場が大きく下がる要因と連想してしまいます。
しかしながら、円高というよりはドル安で、ドルの全面高の影響によって1ドル=81円台まで円高が進んでいます。背景にあるのは先日の米国債引き下げ報道がヒントになります。
今週初めに米格付け会社大手のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の中期的な見通しを「安定的」から「格下げ方向(ネガティブ)」に引き下げました。正式に格付けを下げたわけではありませんので、「警告」ということになります。
格付会社のS&Pは今回の「ネガティブ」の発表について、今後2年以内に3分の1の確率で格下げを実施する可能性を示していると説明しています。つまり、米国の財政赤字がこのままの状態だったら、最上位(トリプルA)の格付けはあげられませんという警告を出したということです。サッカーでいえば「イエローカード」ですので、財政再建をしないと「レッドカード(格下げ実施)」ということです。
この「警告」が何を意味するのかといえば、米国が財政再建のために大幅に歳出を削減したり増税をして、財政赤字を削減する政策を取る可能性があるということになります。そうなると、FRBの金融緩和路線が長期化する可能性もあると投資家が考えて、米国の金利が低下するとの思惑でドル売りの流れが復活したといえます。
年初から米国の経済指標が堅調だったため、景気回復にともなって金融緩和を止めるのではないかという思惑でドル高傾向が見られた時期もありました。しかし、ここにきて財政問題が蒸し返されたわけです。
ただし、このまま円高、ドル安が進むのかといいますと、それほど単純ではないと思われます。なぜなら、日本も財政不安は大きく、さらに震災復興でお金が必要で金利が上げる政策は考えられないからです。さらに1ドル=80円割れの円高水準まで急速にドル売りが進むようであれば、G7協調が再度行われることもあります。
したがって、目先的に円高が急激に進んで、日本株が大きく下がるシナリオは考えにくいと思われます。直近の相場でも、円高が進んでいる中で上昇する銘柄は輸出関連の方が多く、為替に関係のない銀行株などの方が売られるという傾向が出ています。
むしろ現在の為替市場は「売り材料探し」の様相になっていることがポイントではないかと思います。米国の財政問題はドル売りとなりますが、先日はギリシャ・ポルトガルの財政不安が表面化してユーロ売りの材料となりました。
どこかの国の景気が好調でその国の通貨が買われるという流れではなく、ドル、ユーロ、円のいずれかが売られて、その他の通貨が相対的に高くなるということが起きやすい環境のようです。ユーロが売られて円高、ドル高、ドルが売られて円高、ユーロ高ということが繰り返されています。
その国の通貨を売る材料は、基本的にその国の金利が下がる材料といっしょのことが多いといえます。したがって、日米欧の通貨を売る材料が多いということは、しばらく低金利で流動性の高い環境が続く可能性もあるといえます。
したがって、株式市場が流動性に支えられて下がりにくいことも考えられます。しかしながら、株の価値を決めるのは企業の業績です。お金が余っているからといって、業績に見合わない価値まで買うということは「バブル」だと思います。
世界の株価は高く、震災の影響もあって日本株は出遅れています。しかし、世界の株価が高いのが流動性に支えられているということになりますと、流動性があるうちに景気回復路線にならないと、高い株価水準を保てなくなる可能性も高いといえます。
米国景気と金融政策を考える上で、ドル安がどうなるかは大きなバロメーターだと思います。リスクが取りやすい環境でドル安が進んだということもありますが、今後も一方的にドル安が急速に進むようであれば、米国が「金融緩和を続ける=財政赤字を削減する政策を積極的に取る」と市場関係者が想定している可能性も高いことになります。
そうなると緊縮財政で米国の景気回復が遅れるというシナリオが浮上する可能性が考えられます。単純に円高で考えるのではなくて、ドル安として為替市場を考えますと、米国の景気がどう動いているかが見えてくると思います。
レポート担当 : ケンミレ株式情報 市原 義明