尹大納言光忠卿、追儺の上卿を勤められけるに、洞院右大臣殿に次第を申し請けられければ、「又五郎男を師とするより外の才覚候はじ」とぞのたまひける。かの又五郎は、老いたる衛士の、よく公事に慣れたる者にてぞありける。
近衛殿著陣し給ひける時、軾を忘れて、外記を召されければ、火たきて候ひけるが、「先づ、軾を召さるべくや候ふらん」と忍びやかに呟きける、いとをかしかりけり。
<口語訳>
尹大納言光忠卿、追儺の上卿を勤められますに、洞院右大臣殿に次第を申し請けられませば、「又五郎男を師とするより外の才覚はないようで御座います」と、宣われた。その又五郎は、老いた衛士の、よく公事に慣れた者であった。
近衛殿着陣しました時、軾(ひざつき)を忘れて、外記を召されませば、火たいて御座いましたが、「まず、軾(ひざつき)を召されるべきでは御座いませんか」と忍びやかに呟きました、とてもおかしかった。
<意訳>
尹大納言の光忠卿、朝廷での鬼やらいの儀式の責任者に任命されました。
自信がなかったのか、洞院右大臣殿に儀式の次第について尋ねられましたところ。
「男 又五郎! これを師とする以外の手はないように思われます」
と右大臣は言う。
その又五郎。老いた門番であったが、宮中の儀式には良く慣れた男であった。
さて、儀式の日。
近衛殿が所定の位置に着座いたしましたので、光忠卿は、下働きをする下役人どもを呼び寄せます。しかし、下役人どもが控えるべきゴザが用意されていません。これでは下役人達は、庭の地面に直接ひかえねばなりません。
庭でたき火をしていた又五郎。光忠卿の側に寄ると、そっとつぶやきました。
「まずは、ゴザをご用意なさいませ」
なんだか可笑しかった。
<感想>
99段から、この102段までは連続した話だ。
99段と100段は、身分の高い貴族が、つまらない思い込みで、つまらない事を言ってしまった話。
101段と102段は、身分の低い役人が、経験と才覚で活躍する話。
兼好自身の感想は特にないので、だから、それがどうしたという話ではない。ただ兼行が自分の思考をまとめる為に、思いついた事を並べ立てて書いてみただけなのだろう。
偉い人は、常に偉いのか?
身分低い者は、常に馬鹿なのか?
そんな疑問を兼好は自分自身に投げかけている。
原作 兼行法師
近衛殿著陣し給ひける時、軾を忘れて、外記を召されければ、火たきて候ひけるが、「先づ、軾を召さるべくや候ふらん」と忍びやかに呟きける、いとをかしかりけり。
<口語訳>
尹大納言光忠卿、追儺の上卿を勤められますに、洞院右大臣殿に次第を申し請けられませば、「又五郎男を師とするより外の才覚はないようで御座います」と、宣われた。その又五郎は、老いた衛士の、よく公事に慣れた者であった。
近衛殿着陣しました時、軾(ひざつき)を忘れて、外記を召されませば、火たいて御座いましたが、「まず、軾(ひざつき)を召されるべきでは御座いませんか」と忍びやかに呟きました、とてもおかしかった。
<意訳>
尹大納言の光忠卿、朝廷での鬼やらいの儀式の責任者に任命されました。
自信がなかったのか、洞院右大臣殿に儀式の次第について尋ねられましたところ。
「男 又五郎! これを師とする以外の手はないように思われます」
と右大臣は言う。
その又五郎。老いた門番であったが、宮中の儀式には良く慣れた男であった。
さて、儀式の日。
近衛殿が所定の位置に着座いたしましたので、光忠卿は、下働きをする下役人どもを呼び寄せます。しかし、下役人どもが控えるべきゴザが用意されていません。これでは下役人達は、庭の地面に直接ひかえねばなりません。
庭でたき火をしていた又五郎。光忠卿の側に寄ると、そっとつぶやきました。
「まずは、ゴザをご用意なさいませ」
なんだか可笑しかった。
<感想>
99段から、この102段までは連続した話だ。
99段と100段は、身分の高い貴族が、つまらない思い込みで、つまらない事を言ってしまった話。
101段と102段は、身分の低い役人が、経験と才覚で活躍する話。
兼好自身の感想は特にないので、だから、それがどうしたという話ではない。ただ兼行が自分の思考をまとめる為に、思いついた事を並べ立てて書いてみただけなのだろう。
偉い人は、常に偉いのか?
身分低い者は、常に馬鹿なのか?
そんな疑問を兼好は自分自身に投げかけている。
原作 兼行法師
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