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徒然草 第二百七段

2006-01-29 09:36:46 | 徒然草
 亀山殿建てられんとて地を引かれけるに、大きなる蛇、数も知らず凝り集りたる塚ありけり。「この所の神なり」と言ひて、事の由を申しければ、「いかがあるべき」と勅問ありけるに、「古くよりこの地を占めたる物ならば、さうなく掘り捨てられ難し」と皆人申されけるに、この大臣、一人、「王土にをらん虫、皇居を建てられんに、何の祟りをかなすべき。鬼神はよこしまなし。咎むべからず。ただ、皆掘り捨つべし」と申されたりければ、塚を崩して、蛇をば大井川に流してげり。
 さらに祟りなかりけり。

<口語訳>
 亀山殿建てられようとして地を引かれたら、大きな蛇、数も知らず凝り集る塚あった。「この所の神である」と言って、事の次第を申したらば、「いかがあるべき」と勅問あったのに、「古くよりこの地を占めたものならば、たやすく掘り捨てられ難い」と皆人申されたが、この大臣、一人、「王土におる虫、皇居を建てられるのに、何の祟りをなすはずか。鬼神はよこしまなし。とがめるべきでない。ただ、皆掘り捨てるべき」と申されれば、塚を崩して、その蛇を大井川に流してしまった。
 まったく祟りなかった。

<意訳>
 亀山殿の建設中の時。
 人夫達が建設地の地ならしをしていると、大きな蛇が数も知らず寄り集っている塚が見つかった。
 建設を管理する役人は「この蛇は、この地の神である」として工事を中止。
 さっそく事の次第を後嵯峨院に報告すると、逆に「いかがするべきであるのか」と院に質問された。
 
「古くよりこの地にいる者達ですから、たやすくは掘り捨てられません」

 人は皆そのように言ったが、建設の監督をしていた大臣だけが、ただ一人それに反対した。

「皇国に住む蛇が、皇居を建てられるのに何の祟りをなそう。鬼神は道理に背く事をしない。気にせず、ただ皆掘り捨てるべきである」

 大臣がそう言うので、塚を崩し蛇を大井川に流してしまったそうであるが、まったく祟りはなかった。

<感想>
 206段に出てくる「父の相国」と、この207段に出てくる「この大臣」は同じ人、太政大臣の藤原実基のことである。開明精神の持ち主で、決断力もある人だったそうだが、この人は兼好が生まれる前に亡くなっている。兼好は人から聞いた話を書いているようだ。
 会議場で牛がねそべって反芻していたり、建設現場でヘビ塚が見つかったりしたら、昔の人でなくても、現代人だって驚く。迷信深い昔の人なら尚更だ。何か悪い事の起こる予兆だと疑ったり、祟りを怖れたりするのは当然である。
 だが、この2段の主役である藤原実基は違う。そんな事は気にしないで、合理的に事態の収拾をはかっている。
 下らない迷信を嫌う兼好は、そんな実基の話に共感を抱いてこの二つの段を書いたのだろう。

原作 兼好法師


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