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徒然草 第百三十段

2005-11-16 20:08:22 | 徒然草
 物に争はず、己れを枉げて人に従ひ、我が身を後にして、人を先にするには及かず。
 万の遊びにも、勝負を好む人は、勝ちて興あらんためなり。己れが芸のまさりたる事を喜ぶ。されば、負けて興なく覚ゆべき事、また知られたり。我負けて人を喜ばしめんと思はば、更に遊びの興なかるべし。人に本意なく思はせて我が心を慰めん事、徳に背けり。睦しき中に戯るるも、人に計り欺きて、己れが智のまさりたる事を興とす。これまた、礼にあらず。されば、始め興宴より起りて、長き恨みを結ぶ類多し。これみな、争ひを好む失なり。
 人にまさらん事を思はば、ただ学問して、その智を人に増さんと思ふべし。道を学ぶとならば、善に伐らず、輩に争ふべからずといふ事を知るべき故なり。大きなる職をも辞し、利をも捨つるは、ただ、学問の力なり。

<口語訳>
 物に争わなく、己をまげて人に従い、我が身を後にして、人を先にするには及ばない。
 万の遊びにも、勝負を好む人は、勝って興あるためだ。己が芸の勝っている事を喜ぶ。されば、負けて興なく覚えるべき事、また知れてる。我負けて人を喜ばそうと思えば、さらに遊びの興ないはず。人に本意ない思いをさせて我が心を慰める事、徳に背く。睦まじいなかに戯れるも、人に計り欺いて、己が智の勝っている事を興とする。これまた、礼にない。されば、始め宴より起って、長い恨みを結ぶたぐい多い。これみな、争いを好む過失だ。
 人に勝っている事を思えば、ただ学問して、その智を人にまさらんと思うべき。道を学ぶとなれば、善にほこらず、同輩と争うべきでないという事を知るはずだからだ。大きな職をも辞し、利をも捨てるは、ただ、学問の力なり。

<意訳>
 人と争わず、自分を曲げてまでも人に従い、我が身を後にして人に先をゆずる。こんなことが処世術とでもいうものだろうか。
 人が集まり遊びだすと、博打をはじめる連中が必ずいる。博打の楽しみは人を打ち負かすことだろうか。勝つと楽しいもんな、負けたら溝上さんじゃないけどつまんない。
 誰も、自分が負けてまで、人を喜ばそうとなどと考えて博打は打たない。みんな自分が勝とうと必死だ。
 でもさ、人を負かして悔しがらせて楽しむのは、徳に背いてるよ。
 またさ、親しい人間に対して、策略をめぐらたうえに欺き落し入れるのって、礼儀がないよね。
 だから、飲んだ上の賭け事がもとで、長年の恨みにまでなることも多い。こんな事は、賭博を好む以上は当然の過失だけどね。
 他人に勝ちたいだけなら、賭け事なんかじゃなく、勉強でもして頭の良さでも誇ればいいんじゃないの。学問の道なら、他人との勝ち負けも争いも(受験勉強でないなら)、とりあえず関係ない。
 また、利益や目先の出世にとらわれない生き方ができるのも学問の力だ。

原作 兼好法師


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