絶版プラモデルやじ馬考古学・ボックスアート美術館(なつかしき50~60年代アメリカプラモの世界)

古き良き時代の絶版プラモを発掘する、インターネット考古学。現在、・ボックスアート美術館にてエレール特別展を開催中!

世界最初のプラモは何だ・フロッグペンギンシリーズボックスアート・インスト集

2010年09月30日 | プラモデル

驚き!世界最初のプラモ
フロッグ・ペンギンシリーズ
ボックスアート・インスト集



初期トレードマークの
カラーバージョンだが、
カエルが簡略化されていて
キモさがなくなっている。

世界最初の本格的プラモデルは、1936年
フロッグによって発売されたペンギンシリーズがそれ。
この「ペンギン」の由来だが、当時の航空機模型といえば
ゴム動力で空を飛ぶものが主流だった。しかし、プラモデルは飛べないので
飛べない鳥「ペンギン」をシリーズ名にした…というウソみたいな
話がある。イギリス人特有のユーモアなのだろうか。

今回は、この元祖プラモデルをいくつか
ご紹介したい。
以下、1936年にリリースされた世界最初のプラモ。
すべて自国機となっている。

ちなみに、この1936年(昭和11年)は
スペイン内乱が勃発した年だ。
第二次世界大戦の前哨戦として、ソ連の
支援を受けた人民戦線政府と、ドイツ・イタリアが
支援する反乱軍が血みどろの戦いを展開した。

一方、日本では陸軍の青年将校らが決起し、
クーデターを企てた2・26事件が発生。
同年11月にはドイツと日独防共協定を締結、
のちの日独伊三国同盟の足がかりとなった。

航空機の世界では、スピットファイアの試作機が
初飛行に成功。
ライバルのBf109は、同年末から本格的に生産を
開始しており、第一線部隊への配備が進められていた。
航空機の世界では複葉機から全金属製単葉機へと
移行していた時期で、複葉機は完全に過去のものに
なっていた。

なお、これらのキットは当時の日本へは輸入されていないようだ。


一応カラー印刷が施されているが、ボックスアート
自体はモノクロという、おそろしく地味なデザインだ。
絵(写真?)の上に、「NON-FLYING」とシッカリ表示
してあるのがオモシロい。これが「ペンギンシリーズ」の
名前の由来というのだから、笑ってしまう。
当時、ヒコーキの模型といえば空を飛ぶのが当たり前
…とされていたのが、よくわかる。





この精密な三面図は、ペンギンシリーズが
ただのオモチャではないことを示している。
スケールモデルとして、きわめて真剣な
取り組みをしているのが、この図からわかる。


パーツを見ると、いまのプラモとそれほど変わらない。
破損しないようにパーツを台紙に固定するなど、消費者に
やさしい配慮をしているのが素晴らしい。
デカールや小部品類は、半透明の紙製袋入りとなっている。
内容としては、昭和40年代の1/72前後の国産ヒコーキプラモを
想像してもらえれば、だいたいイメージできるのではないだろうか。
1936年製とはいえ、それほど内容に遜色があるわけではない。
意外とよくできているのに驚いてしまう。
デカールもチャンと付属しているし、接着剤もシッカリあるのが
うれしい。プラモの基本的構成は、このときにもう確立されているのが
わかる。

接着剤はいまのようなチューブ入りではなく、小さなガラスビンに
入れられており、コルク栓で封がされている。
多分プラモ用接着剤は、市販されていなかったと思うので、
貴重な存在だっただろう。


プラモの完成品写真っぽい感じの
ボックスアートだが…




左下の枠の中を見ると、この三面図はホーカー社から
提供を受けた…みたいな文面がある。
縮尺が1/72というのも興味深い。

また、当時はプラモデル的な名称がなかったためか
プラスチック製モデルでありながら「ソリッドスケールモデル」と
表示されている。









1940年に発売された、イギリスの敵


インストの「ドルニエDo.215」の表示の上に、「ENEMY(敵)」という文字が見える。
1940年といえば、ドイツがフランスに侵攻し勝利した年であり、
「バトル・オブ・ブリテン」が開始された年でもある。
憎むべきドルニエ機への敵愾心みたいなものが、ヒシヒシと感じられる。



この三面図は、ドルニエ社から提供を受けたものではない。
1939年9月のドイツ軍によるポーランド侵攻で、イギリスはドイツに
宣戦布告をしているが、それ以前から英独関係は悪化しており、資料を
ドイツ側から入手するのは、現実的にはムリだっただろう。
そうなると、どうやって資料を集めたのだろうか。
三面図の左下囲みの中に、イギリスの文献から収集した…
みたいな文面があるので、当時の航空雑誌か何かに紹介されて
いた図面を使ったのかもしれない。
また、ドイツ側が公開したプロパガンダ写真(細部は相当修正されていると
思うのだが…)も参考にしたのだろう。
それに、イギリス軍関係者にコネがあったのかもしれない。
もともと敵味方識別用航空機模型を製作していた同社は、
ドイツ機に関して軍から資料提供を受けていたと考えられるので
ある程度正確な図面なり、写真なりはもっていたのだろう。
情報源を隠匿するために、文献から収集したといっているのかもしれない。
ともかく戦時中に、敵国の航空機をモデル化して、発売するというのはスゴイ話だ。

敵味方識別用航空機模型参考資料

モノが不鮮明でわかりにくいのだが、天井からつり下げられている模型飛行機が
それで、航空機の敵味方識別の訓練等に使われた。
当初は木材を加工して作っていたのだが、その後生産がしやすいプラスチック製が
主流を占めるようになってきた。。
模型自体は一体成形となっている。色は黒に近いグレー(?)で
なによりもシルエットが重要なので、細部は省略しつつも外形は正確に
作られていた。

1946年に発売された、イギリスの敵

驚くべきことに、きわめて正確に実機をとらえている。
1944年に登場したD型だが、1946年にこれだけのものが
モデル化できたというのは、フロッグが的確な資料をもっていた
ということを意味する。
軍から提供を受けたのだろうか。
おそらく、敵味方識別用航空機模型製作の関係で、
資料提供を受けていたとみるのが自然だろう。

いろいろな情報が交錯して出来上がった架空MIG19みたいに
ならなかったのが、メチャすばらしい。

1940年発行のフロッグ・カタログ



これが1940年に発行されたカタログでなければ、つい見過ごしてしまうのだが、
何と敵国ドイツの航空機が掲載されている!
しかも、そのアイテムたるやHe111、Do215、Bf110、Bf109といった当時の新鋭機
であり、現実にイギリスを爆撃している主犯と共犯者どもである。
これらを早々とリリースしているのだから、フロッグの手回しのよさには驚いてしまう。

1938年発行のカタログ。

格納庫や牽引車、救急車、それに高射砲、探照灯、聴音機などの
航空機周辺アクセサリーまでちゃんとモデル化している。
いまでは、別にどうって話ではないが、1938年にこんなことまで手がけて
いたとは!驚きで言葉も出ない。

次回の更新は、10月10日夜の予定。


号外 あのギロチンが帰ってきた!

2010年09月30日 | プラモデル

「皇帝陛下!
 アメリカは、例のモノを輸出しようと
 たくらんでおります」


「うろたえるでない。
 奴らは、ドル安を武器に
 輸出攻勢をかけているのだ。
 ただちに輸入禁止の措置をとれ」

そんなことをすれば
 わが国にアメリカ海兵隊が突入してきます。
 しかも、奴らは核兵器を装備しているのですゾ」



馬鹿者!
 核兵器など、ただの花火にすぎぬ。
 クソ喰らえだ。
 オバマによく伝えておけ」


「…余の辞書に、敗走という文字は……」

号外
あのギロチンが帰ってきた!

オーロラの超レアアイテム、ギロチンがポーラーライツから
復刻される。
パッケージもリニューアルされ、現代風のデザインが新鮮だ。
このブログが出るころには、店頭にも並んでいると思うので
お金を握りしめて模型店に行こう…なんちゃってネ。






過去に発売されたときのパッケージ(ポーラーライツ版)。
メーカーのロゴ以外は、オーロラ時代のものと同一だ。



オーロラの広告。
何とも凄まじい。



特別資料
絵画で見るギロチンあれこれ。









画像はすべてWikipediaより

ギロチン以外のリリースは…



魔女本体以外に、さまざまな魔女グッズ(大釜、ほうき、調理道具、
スープ材料のカエル・コウモリなど)がアクセサリーとして
加えられていて、非常に楽しいキットだ。
モンスターシリーズ最大のパーツ数を誇る。




コワッ!

暗い場所だと、せむしチャンもけっこう怖い。
オペラ座の怪人と同様、生身の人間なのだが
見た目がキモいので、本人の意に反して
モンスターの仲間入りをしてしまった可哀想なオジサンでもある。
背中の傷跡が痛々しい。

最後に!

本日の夜は、
『絶版プラモデルやじ馬考古学』の更新があるので
お楽しみに。
内容を少し紹介すると…


世界最初のプラモデル・ペンギンシリーズをリリースしたフロッグ。
どんなキットだったのか、見たいと思わない?…ということで、
やじ馬考古学ボックスアート美術館が、ドーンとお見せしちゃいます。
これがけっこうサプライズの連続なんだよネ。


じつにシンプルなボックスアート。
現代のガレージキット的な雰囲気をもつ絵だ。


インストに掲載された三面図。
意外とシッカリした図で、「プラモは立派なホビーである」と
アピールしているようだ。


そしてパーツ類は…
それは、見てのお楽しみ。

最後の最後、もうひとつオマケ。
英独がドンパチやっている最中の
1940年版カタログ。


それでは、○時間後にまた会おう!

フロッグ・枢軸国機ボックスアートギャラリー

2010年09月15日 | プラモデル

フロッグ・枢軸国機
ボックスアートギャラリー


私のブログを見てくださっている方から、フロッグを
取り上げてほしいというリクエストがありました。
ありがとうございます。
うれしい反響です。

ケロケロケロヨーン、初期のトレードマーク。
ホントにカエルが描かれている!
FROGという文字に、いつわりはなかった。
絵がリアルで、チョッとキモい。


逃げろ、逃げろ!
突然の敵機襲来で、逃げまどう整備員たち。
彼らの表情には恐怖があふれる。。
確かに戦争絵画として見れば秀逸だが、ボックスアートでは
はたして…
「ドイツ憎し」が満ち満ちている。
でも、イギリス側から見てJu88は斬られ役なんだ、と割り切ってしまえば、
オモシロい絵ではある。
どうせ買うのはイギリス人なんだし、ドイツは敵なんだ、
敵がやられるボックスアートのどこがイカンのだ、という声が聞こえてきそうだ。


これも、「逃げろ、逃げろ!」的ボックスアート。
突如爆撃を受け、滑走路に閃光が走る。
その中で、He219の機首が浮き上がるという構図は
なんとも印象的だ。
このような構図は、非常に珍しい。
お客さんに強いインパクトを与えるのは確実だ。
優れたイラストレーターだと思う。


別バージョンのボックスアート。
こちらの方が、機体の存在が強調されていて相当インパクトのある絵に
仕上がっている。


夕焼け(日の出?)を背景に飛行するメッサー。
地上や空が、イイ感じに表現されている秀逸な絵だ。
明るい背景の中に、機体が浮き出るように描いて
あり、これまた印象的だ。


イギリス製でありながら、デカールにカギ十字が
シッカリ入っている。
カギ十字を排除しているエアフィックスとは、きわめて
対照的だ。
ナチスに対する憎悪はあるのだろうが、それはそれで
歴史的事実と割り切っているのだろうか。


あの「アフリカの星」マルセイユ機を、優れた構図で
描ききっている。
不時着する敵機と、その上空を飛行するメッサー。
敗者と勝者を象徴的に表現しており、マルセイユ伝説を
強烈にアピールしている。

しかも、不時着したという事実から敵機のパイロットは負傷は
していても、死んではいないだろう。
あまり殺伐とした雰囲気がしないのも、いいところだ。

※「敗者」と「勝者」参考資料

画像では見にくいが、不時着した敵機の機首近くにパイロットが
立ち、フォッカーを見上げる。
フォッカーのパイロットは、敵機のパイロットを無言で見下ろす。
このまま手を振り挨拶を交わして、飛び去るのだろうか。
いまでは消滅した「騎士道精神」を見るようだ、
この構図がすばらしい。
ボックスアートの域を超え、戦争絵画の雰囲気をかもし出している。
Leynnwood先生の傑作のひとつだ。


小林源文先生の戦争劇画を彷彿させるイイ絵だ。
もっとも、やられているのがソ連軍だからこれだけの
絵が描けた…といえなくもない。


同じ絵をトリミングしているが、こちらの方が迫力がある。













本来はスピットファイアーのオマケであるV1だが、発売当時V1の
まともなキットはホークの1/48しかなく、それとて入手困難だったので、
貴重な存在だった。ハセガワ・フロッグ提携品が発売されたときは、
メチャ喜んでしまった。
映画「クロスボー作戦」の冒頭、V1のテスト飛行場面があり、
カタパルトからモーレツな白煙(本当は水蒸気なんだろうけど…)を
巻き上げ、打ち出されるV1にシビレテしまったゾ。






次回もフロッグをやっちゃいます。9月30日夜更新予定。
※「ドイツ軍によるボックスアート輸送大作戦」は、9月は
 お休み。別にネタ切れというわけではないゾ。