絶版プラモデルやじ馬考古学・ボックスアート美術館(なつかしき50~60年代アメリカプラモの世界)

古き良き時代の絶版プラモを発掘する、インターネット考古学。現在、・ボックスアート美術館にてエレール特別展を開催中!

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

特別講座 『あのボックスアートは、ナゼ傑作なのか』

2008年12月20日 | プラモデル


プラモデルやじ馬考古学

特別講座

『あのボックスアートは、ナゼ傑作なのか』

                                                                       


やじ馬大学所有の88ミリ砲でっせ。

‥‥じよ、冗談がきつい‥‥


いまさら説明の必要がないほど、超有名キットですね。
1972年のリリースで、当時の定価は1000円。
ボックスアートが気に入ったので、発売と同時に即購入したのですが
30数年の時間の経過で、白い背景がセピア色になってしまいました。

88㎜砲の発売で、こんなエピソードがあったのを、ご存じでしょうか。
じつは、当初予定していた発売日には発売されなかったのです。
その理由というのが、タミヤの工場で火事があり、88㎜砲の金型が溶けて
しまったから…というのですから、大変です。
ウソかホントか、事実はわかりませんが、そんなうわさが流れたことで、
慌てた人も多かったという話を聞いたことがあります。

確かに、発売が遅れたのは事実です。
私も発売日当日に、行きつけの模型店に行ったところ、
「何かの事情で発売が遅れているので、もう少し待ってくれ」と、店主に
言われました。
火事の話は、それから少したって聞いたのですが、その後購入したキットを
見て、「そういえば…」と思うところがありました。
それは、付属のオートバイ兵の人形です。
プラの回りが悪くて、身体全体がうろこ状のスジでいっぱいだったのです。
たまたま、そのキットだけがそんな状態だったのか、と思っていましたが、
友人が買ったキットも同じ状態で、ミステリーです。

金型は本当に、溶けたのでしょうか。
…ナゾはナゾとして、そのままにしておきましょう。

さて、ボックスアートの解剖です。


「88mmGunFlak36/37」、この文字もボックスアートの一部です。
この堂々とした書体。
これ無くして、ボックスアートを語ることはできません。
あまり注目されない部分かもしれませんが、タミヤはこの文字にも
しっかり配慮して制作しています。
この力強い書体と重厚で落ち着いた文字の色は、比類なき最強の伝説「88」を
象徴しています。
これがボックスアートを、より印象強いものにするのに役だっているわけです。

ちなみに……

書体というのは、ボックスアートを引き立てるのに重要な役割があります。
一例として、書体をいくつか変えてみると、キットのイメージもかなり違ってきます。
たとえば、

堂々としていて、重厚な雰囲気が、いかにもドイツっぽくて、いいですね。
でも、20世紀の兵器をイメージする書体としては、ちょっと古すぎます。
それに、普段読み慣れていない書体なので、「Gun」の「G」や「Flak」の「F」など判読
しにくいという欠点もあります。


これは、上記の古風なドイツ文字とはだいぶ雰囲気が違います。
どちらかというと、自由でお気軽なイメージなので、スケールモデルというよりは、
玩具的要素の強いプラモデル、下手をするとオモチャだと判断されてしまいます。



これはもう兵器をイメージするものではありません。
パリ市内にある高級ブティックのノリです。
いくら無敵の「88」でも、これでは台無しです。

以上のことから、「88」がもつ力強いイメージと書体の見やすさ、安定性、現代性、
という観点から総合的に判断すると、このボックスアートに採用された書体がベスト
の選択だった、ということができます。
タミヤのデザイナーは、なかなかいいセンスをもっているといえますね。

ちなみに他のMMシリーズも、「88」と同様の書体で統一されています。
書体を使って、キットのイメージを全面に打ち出しているのですね。



このボックアートの特徴は、なんといっても88ミリ砲と兵士とをうまく融合させており、
絶妙なバランス感覚を伴った一体感で統一しているところです。
88ミリ砲は兵士の一部であり、兵士は88ミリ砲の一部です。そのどちらかが
欠けても、このボックスアートは成立しないのです。

注目すべきことは、兵士の配置です。
88ミリ砲の左右に兵士を配置することで、絵に比類なき安定感を与えています。
キーマンは3人。
中央に描かれた指揮官。左端の測距儀をもつ兵士。そして、右端のオートバイ兵。
これら3人のバランスのよい配置により、左右に安定的な広がりをもたせることに
成功しているのです。

おそらく、作者の大西先生はレイアウトを決めるにあたり、ラフスケッチを何枚も
描いては、構想を練っていったのでしょう。

キーマン①


ボックスアートに登場する人物で、いちばん目につく人は、この指揮官。
中央に位置し、その抜群の注目度で、ボックスアート全体を引き締める
役割を果たしています。いわば、キーマンです。
前傾姿勢で目標を見つめる指揮官。右手に双眼鏡を持ち、左手で部下に
合図するポーズから、現場の緊迫感がうかがえます。
あと何分後かに砲撃が開始され、88ミリ砲の圧倒的な強さが発揮される
というハラハラドキドキの期待感みたいなものが、いやがうえにも高まります。
しかも、彼の軍装がWWⅡ初期に見られた一番手の込んだ仕立てのもので、
ドイツ第三帝国の絶頂期の姿を再現しているのが、とてもいいですね。
この軍装にも、圧倒的な強さを感じてしまいます。
やはり、彼抜きではダメです。彼には、88ミリ砲と同等の存在感が感じられます。

★余談(どうでもいい話)★★★★★★★★★★★★★★★★

ところで双眼鏡といえば‥‥(なにやら、脱線の気配が‥)
戦前戦中のドイツでは、双眼鏡は指揮官のシンボルであったらしく、
レ二・リーフェンシュタール監督の映画『意志の勝利』の中では、SSの
閲兵の際、ヒムラー長官はわざわざ首から双眼鏡をぶらさげて式に臨んで
います。
このシーンは、映画の後半部分での見せ場のひとつで、ニュールンベルク
の中央広場前に車で乗り付けたヒトラー総統の前で、盛大なる閲兵行進が
行われる様子を記録したもので、ナチス関連のドキュメンタリー番組でよく
この行進の映像が使われるほど、超有名な部分です。

突撃隊を先頭に、ナチス各組織や陸軍部隊の行進が延々と続き、
最後に、ヒムラー長官に率いられたSS部隊が登場します。
このとき、彼は双眼鏡を首からぶらさげており、車上の総統とともに部隊の
閲兵を行うのです。
当初、なぜ双眼鏡を持参しての閲兵なのか奇異に思えたのですが、何かの
本に、双眼鏡は指揮官のシンボルである‥と書いてあったので、ナルホド
納得しました。「オレは、SSのボスなんだ」‥そんな自負心があったのかも
しれません。(終)

キーマン②


測距儀を手にした兵士も、指揮官同様このボックスアートのキーマンです。

発売当時、この測距儀というのは新鮮なる驚きでした。
砲兵がこんな装備をもっているなんて、このボックスアートで初めて知りました。
ある意味「アハ体験」をしたようなものです。

砲撃戦というと、どうしても見た目がハデな射手や装填手に目を向けがちです。
しかし、一見地味ではあるけれど、敵との距離を測定する兵士も、
きわめて重要なメンバーなんですよ‥‥というメッセージがこの絵にこめられて
います。
その重要性を訴えるため、測距儀を砲兵の象徴として描いているのです。

ところで、この兵士はドッシリとした安定感に満ちています。いわば「静」の状態。
かたや、右端のオートバイ兵は「動」の状態。これら「静」と「動」が対の状態に
なることによって、安定感と躍動感の両方を表現しています。

キーマン③


ボックスアートに動きを与えているのが、このオートバイ兵。
愛車にヒラリとまたがり、キックスターターでエンジンを始動させると、
爆音をとどろかせて、猛スピードで走り去る。
まさに、そのスタート寸前の一瞬をそのまま封じ込めた構図は、
オートバイがもつ強烈なスピード感を暗示させ、見る者に躍動感を与えます。

このオートバイ兵は、単なるオマケではありません。
彼とオートバイが存在することで、ボックスアートに限りないインパクトを与えている
のです。
しかも、彼は他の兵士と異なりSS兵です。
ボックスアート全体が、国防軍の保守的なカラーで染まることを打ち砕くキーマン
なのです。それは、活動的なオートバイ兵の象徴でもあるのです。

それから、軍用オートバイのファンなら、このKS750のイラストも
気になるところ。
KS750を真横から描いているので、オートバイのむき出しのメカを
余すところなく、しっかりと再現しているのが素晴らしい。
ムダを一切省いた、いかにもドイツ的な質実剛健なデザインを楽しま
せてくれます。

ところで、このKS750(BMW R75もそうですが)、ドイツ軍用バイクの
各種写真集を見ても、サイドカー仕様のものばかりで、ソロで使われている
ところを撮影したものは、皆無の状態でした。
考えてみれば、アウトバーンのような舗装された道路を、高速走行するのには
このような大型バイクは安定性もよく、使い勝手もいいのですが、戦場では
むしろ不整地が多く、路面の状態もよくない場合が多いと考えられますので、
逆にソロの大型バイクは使いにくいのではないか、と思います。
伝令などは、DKW NZ350のような中型バイクがよく使われており、ナナハンクラス
はもっぱらサイドカーとして、兵員輸送の足として使用されていたようです。

なぜ、ここにソロのKS750が描かれているのでしょうか。
このボックスアートも本来であれば、NZ350あたりの中型バイクを描く
べきところなのでしょうが、おそらく下記の理由でKS750になったのでしょう。

NZ350は、1/35スケールですと見た目が小ぶりで、とても繊細なイメージになって
しまうため、車体が大きく、シリンダーヘッドが真横にボコッと飛び出した迫力のある
水平対向エンジンを装備したボリュームのあるKS750を、意図的に選んだのだと
思います。R75は、すでにサイドカーとして発売されていましたから、88ミリ砲の
キットに入れる訳にはいかない(マンネリといわれそうだから)、そうなればR75と
双璧をなすKS750をモデル化しようと思うのは、自然の成り行きです。
それに、R75の側車を流用すれば、KS750サイドカーが楽しめますしネ。



突き出たゴツイ砲身。この圧倒的な存在感。もう、たまりませんね。
砲身のキルマークが、この88が歴戦の勇者であることを語りかけます。
色を少しづつ変化させて、兵器の無機質的質感を表現する方法は、
大西先生の独壇場です。
これに、兵士たちの躍動感や緊迫感が加わることによって、
よりリアルなボックスアートが完成していくのです。

参考資料‥‥


同じ88ミリ砲でも、こちらは北アフリカバージョン。
兵士の様子から判断すると、砲の配置も完了して
やれやれ、ひと段落ついたな‥‥そんな雰囲気が
漂っています。

ところで、このボックスアートを見ていると
真夏の太陽のまぶしいようなギラギラ感と、異常な暑さを感じませんか。

たとえば、地面と影。
従来のMMシリーズでは、地面は描かれていませんでした。
しかし、ここでは乾ききった地面を描き、影を加えることで、
北アフリカのギラギラと照りつける強烈な日差しを印象づけることに
成功しています。

さらに兵士の体にも注目してみましょう。
体の陽のあたる部分、あたらない部分のコントラストを見ていると
これまた強烈な日差しを感じます。この表現技術は、まさに神技です。

現地の過酷な自然環境を、このボックスアートに凝縮した大西先生の
技たるや、驚嘆に値します。

オマケ・ドイツ軍用バイク各種写真集

資料の紹介をします‥‥といいながら、そのままになってしまいました。
近いうちに特集を組みたいと考えていますので、お楽しみに!

ちなみに、写真集は洋書がほとんどで、日本で出版されたのは
戦車マガジン別冊『戦場を駆けるオートバイとドイツ兵たち』が唯一の
ものではないかと思います。
洋書は、やはり本家のドイツで出版されたものが多く(当然か‥)、
日本では知られていない、珍しいオートバイの写真も掲載されています。
たとえば、オーストリアのプフ(Puch)というメーカーのオートバイがあったりで、
けっこう楽しめます。

※プフなんて、相当なオタクじゃないと、知らないはずです。ホント


KS750(ホンモノ) 出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
見てください。
このデカくて、ゴツくて、頑丈そうなスタイル。
バイクといえども、軍用車は造りが違います。

次回のチラチラリズム
                                                       



注目新春第一発目は、レベルの大作M48架橋戦車!!



このM48架橋戦車を描いたJohn Steel先生の
特集もあるでヨー!

コメント