印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

「東北の空に鷺(イーグルス)が舞う」 久保野和行

2013-11-11 16:20:46 | エッセー・コラム
「東北の空に鷲(イーグルス)が舞う」  久保野 和行





久し振りにテレビ桟敷席にかぶりつきした。プロ野球の一大イベントでもあるが、今年こそ、こんなに盛り上がった試合はなかった。球団創設9年での偉業であり、日本一になった東北楽天ゴールデンイーグルスに、仙台から東北全体に熱気が広がっていった。
セ・リーグの覇者であり、同時に名門老舗の伝統ある読売ジャイアンツを破っての達成であるから、楽天ファンにとっては感無量の思いでしょう。

闘将と呼ばれた星野監督が就任した。その年の3月11日に東日本大震災に被災にあった。その年の開幕試合での、楽天、嶋選手のメッセージは感動的でした。キーワードは「見せましょう□□底力!!」に力強い声に、多くの人々の気持をひとつにしてくれた。それはいつか「絆」という輪を作り、本来、日本人が持っている人間の琴線に触れたことで、楽天ゴールデンイーグルスも夢物語が現実のものとなった。



もつ1つの話題は、地味であるが海外のコレクターによってもたらせた。3月から9月末までの期間に、仙台を振り出しに、岩手県、福島県を巡回する江戸絵画の傑作100点が公開された。仕掛け人は、世界屈指のコレクター、アメリカ人のジョー・プライスさん(83歳)が、“伊藤若冲”をもって、「被災した人々に少しでも幸せを取り戻してほしい」との思いが、復興支援の画期的なプロジェクトを実現させた。この試みはNHK番組でも取り上げられ話題なった。

狩野派の絵師からスタートした伊藤若冲は、その後独自の境地を開き、ジョー・プライスさんと同じ年齢に近い84歳まで活動している。伊藤若冲は実物写生の境地を開き、特に鶏の絵を得意として、美しい色彩と綿密な描写が特徴で、若冲独特の感覚で捉えられた色彩・形態が「写生された物」を通じて展開される。


≪白像群獣図≫18世紀 伊藤若冲

その中でも代表作の「白像群獣図」は、正対する白象を中央に配し、周囲に様々な種類の獣を描く、製作過程は極めて手が込んでいる。画面に薄墨で9mm間隔で方眼を作り、その上から全体に薄く胡粉を塗る。そうして出来上がった碁盤目を淡い灰色で彩り、さらに灰色の正方形すべてに4分の1よりやや大きな正方形を、先程より濃い墨で、必ず方眼の上辺と左辺に接するように塗り分かる。

ここまでが下地作りで、その上に動物達を淡彩を用いて、隈取を施しながらグラデーションで描くという、得異な技法からなる。この描き方は「桝目描き」と呼ばれる。京都生まれの若冲が、西陣織の下絵から着想を得て、織物の質感を絵画に表現しようとしたと考えられる。ここに至ると、なんと印刷の網点の考え方と同じ志向になるから面白い。


印刷の歴史も600年以上が経過している。色々な場面で人々を助け、助けられたきたもかもしれない、そう思うと絵と文字のコミュニケーションは、永遠に人類がある限りのツールともいえる。と言えることは、年寄りの頑固さでいえば、間違いなく印刷業界は衰退産業というカテゴリーには入らず。印刷が持っている本来の底力を発揮するためにも、イノベーションを興す転換期かもしれない。(終)