印刷図書館倶楽部ひろば

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印刷図書館倶楽部 月例会報告 2015/4月度

2015-04-22 09:16:52 | 月例会


[印刷]の今とこれからを考える 

      「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成27年4月度会合より)

●印刷料金の見積もりはつねに悩ましい問題…

 印刷価格(料金)をどう見積もりし顧客に請求するか――印刷会社が長年にわたって抱えてきた悩ましい課題だが、アメリカの印刷業界団体であるPIAがコスト(経費)、プライシング(料金設定)、プロフィット(利益)の関係からこの問題を考察したレポートを公表、さまざまな切り口から適切な答えを導く思考プロセスに、経営者自ら関わるべきだと提起している。このレポートでは、幾多の切り口のうち主要と思われる3つの異なる見解を読者に提供している。どの見解がベストなのかと考えるのは不適切で、むしろ全ての捉え方が正しく、実務的にも価値があるとしている。自社の能力を完全に利用することを前提に、あらゆる意見を考慮することこそがビジネスにとって重要なのだという。

●見積もりプログラムには無数のルールがある

 印刷会社に価格の決め方を尋ねると、少なくとも3点以上の答えが返ってくるそうだ。一部の印刷会社は「コスト」を拠りどころとし、他の印刷会社は「需要」に着目して価格を決めている。新規顧客、新規受注の価格は、通常、固定客からの受注価格とは大きく異なっている。それは、基本的に印刷業が受注産業であり、受注するたびに見積もり作業を繰り返していることに起因する。マーケティング視点での戦略的な料金設定を含め、見積もりプログラムには無数の基本ルールがあることがわかる。


●固定費を吸収して初めて利益は生まれる

 印刷業は個別の受注生産ビジネスでありながら、コストシートによる原価計算に疑いもせず頼ってきたのが現実である。変動費としての原材料費、直接費に当たる製造コストはもとより、固定費(間接費)としての一般管理費、機械設備の減価償却費なども含めて総原価とし、それに期待する利益相当額を載せて見積額としてきた。しかし、製造コストで算出した売上総利益と、さらに販売費や一般管理費を差し引いた営業利益とは異なる性質をもち、固定費の枠を超えたときに初めて利益は生まれる。利益を最大化したいのなら、売上総利益=付加価値額を高める努力をしなければならない。たんに変動費を上回るだけの見積額では、利益を得ることはできない。それは料金の引き上げか生産量の増加によって達成できると、このレポートは強調する。生産能力の完全活用(フル操業)が売上総利益の最大化に重要な役割を果たすわけだが、これを可能にするには柔軟な料金政策で受注を勝ち取らなければならない。顧客が印刷製品のために支払いを厭わない金額と同じレベルの印刷料金を請求するよう注力する必要がある。


●自社独自の効果的な料金設定戦略を導入しよう

 効果的な料金設定戦略を考案することは、印刷ビジネスを存続させるためにもっとも重要な要素の一つである。多くの印刷会社は、簡易な料金設定アプローチを利用しているが、コストをカバーしビジネスを維持して競争に打ち勝ち抜くために、適切な独自の設定戦略を定式化しているわけではない。この点、マーケットリーダーとなっている印刷会社は、より革新的な戦略を実践している傾向がある。それは、収入を最大化してより高い収益を得、成長を育んで高度な株主価値を生み出すことを意識したものである。短期用、長期用など個別の処理を意図した戦術を使い分けているのである。例えば、①コストプラス(マークアップ)法、②上済み吸収(初期高値)価格政策、③市場浸透(初期安値)価格政策、④バージョニング(製品仕様変更)価格政策、⑤顧客需要対応価格政策、⑥認知獲得価格政策――などがある。顧客価値を熟知しないまま機械的に料金を設定する①のコストプラス方法では、企業の競争力・成長力を高められずマーケットリーダーにはなれない。これに対して⑥の認知獲得価格政策は、支払いを厭わない金額に応える高度な印刷製品・サービスを提供することで、顧客に自らの潜在ニーズを納得させて高額の印刷料金を設定できる強みがある。印刷経営者は、これら多くの異なる価格政策を理解し、長期的、短期的に自社に適した戦略を採用する必要がある。


●需要サイドの顧客ニーズをよく把握したうえで

 プライシングはマネジメントにおけるもっとも重要な意思決定の一つで、理想的には取引コスト、需要と価格の弾力性、さらには競合とのダイナミクスを反映させたものにする必要がある。コストの見積りは確かに重要だが、その一方で「マーケットが負担してくれそうな料金」を調べるべきである。顧客(買い手)の強さとニーズ、顧客自身のマーケット力、顧客の要望の取り込みなど、顧客の事情を十分に考慮しなければならない。そうした需要を見積る方法としては、競合の動向を確実に把握したたうえで、①顧客ニーズと需要に対する精通度、②顧客のビジネス戦略における印刷製品の重要度、③パッケージ化された付帯サービスによる貢献度――をそれぞれ向上させることが重要となる。見積りソフトでコストを積算しようとする前に、需要サイドを的確に評価することに全力を注がなければならない。
=参考資料;Dr. Ronnie H. Davis, FLASH REPORT Vol.7, Dec. 2014, PIA=


●戦略計画に取り組むことの重要性を認識したい

 売上高増大と収益性向上との間には、統計的に正の相関関係がある。戦略的な経営計画と収益性との間には、それ以上に強い相関関係がみられる。戦略計画に関する立案プロセスを独自に開発し、関連情報を収集・分析し、計画の進捗状況を追跡している印刷会社は、そうしなかった企業よりも高い収益性を示している。プロフィットリーダーは、差別化できる要素が何であるかを学び、実践に力を注いでいる。そうすることが、利益を確保し成長を持続させるカギであることを知っている。プロフィットリーダーは「経営のトップが戦略計画を主導する」という経営慣行を重視している。これこそが、プロフィットリーダーがプロフィットリーダーたる所以である。戦略的計画はより強い印刷業をもたらす。印刷会社が戦略計画に率先して取り組むなら、その結果として強い印刷業を営めるだろう。印刷産業のなかで、知識武装したプロフィットリーダーになることを望みたい。 =参考資料;2014 Strategic Planning Report (PDF), PIA=


●売上増より利益額の増加の方が重要である
 利益とは、受注価格から製造に直接掛かった費用と間接費を差し引いた金額であり、そう考えると、PIAのこの資料が示すように価格を1%上げる方が、製造コストを1%下げるより、また間接費を1%下げるより、利益を引き上げるというのも自然と頷ける。印刷業の多くは、事業計画の目標設定で売上額増大が主となっているようだが、他の多くの業界ではかなり前から利益額を主たる目標にするよう変えてきている。売上げ増加で利益額を増やすという政策から、利益額を上げるにはどうするかという政策に変わってきているのだ。高効率で優れた事業運営であることを証明するために利益率を重視し、目標の利益額を達成していこうという方向にある。


●顧客にとっての価値の創造を土台に置いて

利益を高めるには、値上げで売上高を増やすのが一番早道だが、成約料金は、製品のQCD(品質・費用・納期)だけでなく、顧客にとっての価値がプラスアルファーとして加わって決定される。たんに売上げ増加を狙って安値で受注できたとしても、それで顧客の価値を満足させることができるのか、利益の増加につながるのか、よく考えなければいけない。ここはやはり、顧客にとっての価値を見出し、競合に勝る価値の創造、提供によって値上げを実現し、利益率を向上させ、結果として利益額を増強する方向が望ましい。料金を引き上げ、なおかつ成約するには、社内の意識や取り組み方にどんな課題があり、それをどう解決するのか、何より効果的な受注活動を展開するにはどのような営業方針、営業戦略でいくべきかについてよく検討してほしい。

以上
 

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