毎月、第3木曜日に開いている月例会 ≪印刷の今とこれからを考える≫ が、
今月も3月20日に集われました。
年度末のため、印刷会館の会議室が満室状態で、この日は、
午後2時から3時半までの一時間半しか時間がとれませんでしたが、
内容は下記の通り濃いものです。
ご紹介いたします。
[印刷]の今とこれからを考える 「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年3月度会合より)
●経済の回復基調に印刷業の景気はついて行けない
アメリカの経済は大不況(リーマンショック)から脱したが、回復の速度はここ半世紀でもっとも遅いものとなっている。来年にかけても、これまでと同様“生ぬるい成長”が続くとみられている。そのような経済シナリオは、印刷市場にどのような影響を与えているのだろうか。経済成長(GDP)に牽引されているはずの印刷業の出荷高は、それを1~2%下回るレベルでしか回復していない。印刷業の出荷高は一般に、景気循環の後退期には先行し、回復期には遅行して変動する。回復後の成熟期はベストな状態(スイートスポット)となる。この4年来の展開で成熟した回復段階にあるといえるのだが、実態は依然としてきわめて弱含みの状態に止まっている。2014年から2015年という単年度、いってみれば現時点の動向は、印刷産業全体で現状維持、安定して推移するものと予測されている。経済が回復し成熟に向かう変化は、印刷業の現状をいくらかは“持ち上げて”くれることだろう。ただし、新聞、定期刊行物、書籍などを担う印刷関連メディア業に限れば、今後1年間で約2%の減少となるという。
●デジタル印刷、付帯サービスは堅調に推移するが……
印刷の生産方式別に売上成長性をみると、デジタル・トナーとデジタル・インクジェット、加えて付帯サービスの売上げが、印刷産業の成長を押し上げる要因となっている。印刷産業全体の成長率に対する貢献度は、堅調に伸びるデジタル印刷と付帯サービスが+1.94%であるのに対し、全体の70%を占める伝統的なインキオンペーパーは落ち幅が大きく-2.24%と、足を引っ張る格好となっている。また印刷物の機能別分類でみても、①情報伝達用(雑誌、定期刊行物、書籍、有価証券、報告書、ビジネスフォーム、グリーティングカードなど)はデジタル・コミュニケ―ションにシフトするにつれて減少傾向に、②販促用(一般商業印刷物、クイック印刷、ダイレクトメール、サイン/サイネージなど)は、販売促進のエンジンという強みを発揮しながら経済回復に伴って僅かながらも拡大し、③ロジスティックス用(仕上げ加工、ラベル、パッケージなど)は、経済と密接に関連しているがゆえに、相対的にもっとも高い成長を保つ――と分析されている。とくにロジスティック用はデジタル印刷との競合に直面することもなく、今後2年間にわたって実質GDPと同じ成長率で進展するものとみられている。
●品目別の将来動向を当の印刷会社が予測してみた
印刷物の品目別にみたミクロ市場分析では、需要指数(増企業比率-減企業比率)をもとに、以下のような3つのセグメント名称で将来動向を予測している。
①ホット市場=Web to Print、Web開発、統合マーケティング、メディア・マーケテイング、サイン/サイネージ、フルフィルメント、飲食物関連ラベル、データベース管理、特殊印刷、クイック印刷
②ウォーム市場=郵送サービス、化粧品/処方ラベル、ダイレクトメール、個人情報保護用ラベル、パッケージ印刷、名刺、個人用ラベル加工、グラフィックデザイン/写真、家庭用品ラベル、パンフレット、カタログ
③コールド市場=グリーティングカード、折込チラシ、書籍、回覧/回報、有価証券報告書、事務用印刷、カタログ/名簿、新聞、雑誌、定期刊行物、ビジネスフォーム
●「利益」に着目して、ビジネス戦略のアクションプランを
このような市場動向分析のもとで、印刷企業はどのようなアクションプランを立てる必要があるか。最重要のあるべき課題は「売上高」にはなく、「利益」に着目しなければならないとしている。収益性とは①売上げ②コスト③料金の3つの関数から成り立っているので、それぞれについて考えていくと解りやすい。まず売上げ増のためには、①特殊な市場セグメントに特化し工程の垂直統合をはかる、②付加価値の高い付帯サービスを含めた多様化をめざす、③デジタル方式を加えたハイブリット印刷によってプロセスの優位性を確立する、④印刷製品とサービスの提供に努める――ことが重要となる。
●印刷料金をスマートに設定できる力を身につけよう
次にコストを減らすためには、①重要なコスト項目に関して産業界の指標をベンチマークし遵守する、②パートタイマーや契約社員を減らして変動費を低い位置で固定する、③労働生産性(売上高人件費比率、労働分配率)をベンチマークして人員削減に努める―こと。また高い料金設定を“スマート”におこなうために、①労働装備率(社員1人当たり設備投資額)を高める、②市場領域、印刷製品の特化によって料金設定力を強める、③顧客ニーズに対し深く詳しい知識をもつ、④付帯サービスの多様化をはかり価値を高める、⑤企業ブランドを強化する、⑥営業報奨金を伴う売上補償制度を開発する――などが重要だとしている。印刷料金の設定は需要によって牽引されるべきで、決してコストからの判断であってはならないという。
※本稿は、下記の資料を参考に作成しています。
「The Economy and Print Markets in 2014-2015」(The Magazine Vol.6 Issue 1, Jan. 2014)
Dr. Ronnie H. Davis ; Senior Vice President and Chief Economist, PIA
●キリシタン版で使われた国字活字製造の謎を追う
《平成25年8月度/26年1月度記事参照》 天正遣欧少年使節団によって1590年にもたらされた金属活字による日本最初の活版印刷術――問題は、漢字・仮名混じりの国字を金属活字として鋳造し活版印刷をおこなったのは、果たして誰なのかである。使節団が帰国したあと、ローマ派遣を計画したヴァリニャーノが日本にいる宣教師たちを集めて協議会を開催している。その時、日本文字の木版印刷に関わる日本人を召集したという記録がある。彼ら(10名の日本人神弟)が国字活字の製造に当たったのではないかとする説には、信憑性があり納得できる。そうはいっても、木版の整版印刷に従事していた神弟たちが、いきなり金属活字の鋳造技術を理解して対応できたであろうか? 時間的に無理があり、この点についてはなお疑問が残る。国字活字を使節団が持ち帰ったという説もあるが、船載品のなかに含まれていた形跡はない。使節団に同行してヨーロッパで活版印刷術を会得してきたとされるドラードたちだが、どの程度の印刷実技を身につけることができたのであろうか? 使節たちの従者であり通訳も兼ねていたことから、不可能に近い。帰国した日本人の印刷工の能力だけで、短期間のうちに国字活字をつくることはきわめて難しいのである。
●印刷界から有識者が加わり、説得力のある研究を
ヴァリニャーノは印刷技術に詳しかったに違いない。日本人は識字率が高いので、印刷物をつくれば布教しやすくなると考えたはずである。印刷に関心をもち、自ら出版企画を立てて原稿も書いている。印刷活字の手配も自分でおこなった人物である。布教のための印刷物の重要性を考え、使節団を派遣する前から、グーテンベルグの金属活版印刷術を日本に導入したいと企画していたのではないだろうか。国字の版下づくりに必要な人材(木版経験者)の手配を、キリシタン大名であった大友宗麟に依頼しておいて、帰国と同時に鋳造に取り掛かったと考えられる。当時の宣教師たちも印刷技術を理解して、国字以外の印刷設備一式をもってきている。帰国前にすでに国内で、活字づくりの作業が始まっていたのではないかとみる方が自然だろう。諸説の内容をみると、活字製造の専門的な工程をあまりにも簡単に考え、結論づけている点が気になるところだ。ここはやはり、印刷界から金属活字の製造に詳しい専門家が登場されることを待ちたいと思う。印刷畑からの説得力ある研究が進められることを願っている。
(以上)
今月も3月20日に集われました。
年度末のため、印刷会館の会議室が満室状態で、この日は、
午後2時から3時半までの一時間半しか時間がとれませんでしたが、
内容は下記の通り濃いものです。
ご紹介いたします。
[印刷]の今とこれからを考える 「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成26年3月度会合より)
●経済の回復基調に印刷業の景気はついて行けない
アメリカの経済は大不況(リーマンショック)から脱したが、回復の速度はここ半世紀でもっとも遅いものとなっている。来年にかけても、これまでと同様“生ぬるい成長”が続くとみられている。そのような経済シナリオは、印刷市場にどのような影響を与えているのだろうか。経済成長(GDP)に牽引されているはずの印刷業の出荷高は、それを1~2%下回るレベルでしか回復していない。印刷業の出荷高は一般に、景気循環の後退期には先行し、回復期には遅行して変動する。回復後の成熟期はベストな状態(スイートスポット)となる。この4年来の展開で成熟した回復段階にあるといえるのだが、実態は依然としてきわめて弱含みの状態に止まっている。2014年から2015年という単年度、いってみれば現時点の動向は、印刷産業全体で現状維持、安定して推移するものと予測されている。経済が回復し成熟に向かう変化は、印刷業の現状をいくらかは“持ち上げて”くれることだろう。ただし、新聞、定期刊行物、書籍などを担う印刷関連メディア業に限れば、今後1年間で約2%の減少となるという。
●デジタル印刷、付帯サービスは堅調に推移するが……
印刷の生産方式別に売上成長性をみると、デジタル・トナーとデジタル・インクジェット、加えて付帯サービスの売上げが、印刷産業の成長を押し上げる要因となっている。印刷産業全体の成長率に対する貢献度は、堅調に伸びるデジタル印刷と付帯サービスが+1.94%であるのに対し、全体の70%を占める伝統的なインキオンペーパーは落ち幅が大きく-2.24%と、足を引っ張る格好となっている。また印刷物の機能別分類でみても、①情報伝達用(雑誌、定期刊行物、書籍、有価証券、報告書、ビジネスフォーム、グリーティングカードなど)はデジタル・コミュニケ―ションにシフトするにつれて減少傾向に、②販促用(一般商業印刷物、クイック印刷、ダイレクトメール、サイン/サイネージなど)は、販売促進のエンジンという強みを発揮しながら経済回復に伴って僅かながらも拡大し、③ロジスティックス用(仕上げ加工、ラベル、パッケージなど)は、経済と密接に関連しているがゆえに、相対的にもっとも高い成長を保つ――と分析されている。とくにロジスティック用はデジタル印刷との競合に直面することもなく、今後2年間にわたって実質GDPと同じ成長率で進展するものとみられている。
●品目別の将来動向を当の印刷会社が予測してみた
印刷物の品目別にみたミクロ市場分析では、需要指数(増企業比率-減企業比率)をもとに、以下のような3つのセグメント名称で将来動向を予測している。
①ホット市場=Web to Print、Web開発、統合マーケティング、メディア・マーケテイング、サイン/サイネージ、フルフィルメント、飲食物関連ラベル、データベース管理、特殊印刷、クイック印刷
②ウォーム市場=郵送サービス、化粧品/処方ラベル、ダイレクトメール、個人情報保護用ラベル、パッケージ印刷、名刺、個人用ラベル加工、グラフィックデザイン/写真、家庭用品ラベル、パンフレット、カタログ
③コールド市場=グリーティングカード、折込チラシ、書籍、回覧/回報、有価証券報告書、事務用印刷、カタログ/名簿、新聞、雑誌、定期刊行物、ビジネスフォーム
●「利益」に着目して、ビジネス戦略のアクションプランを
このような市場動向分析のもとで、印刷企業はどのようなアクションプランを立てる必要があるか。最重要のあるべき課題は「売上高」にはなく、「利益」に着目しなければならないとしている。収益性とは①売上げ②コスト③料金の3つの関数から成り立っているので、それぞれについて考えていくと解りやすい。まず売上げ増のためには、①特殊な市場セグメントに特化し工程の垂直統合をはかる、②付加価値の高い付帯サービスを含めた多様化をめざす、③デジタル方式を加えたハイブリット印刷によってプロセスの優位性を確立する、④印刷製品とサービスの提供に努める――ことが重要となる。
●印刷料金をスマートに設定できる力を身につけよう
次にコストを減らすためには、①重要なコスト項目に関して産業界の指標をベンチマークし遵守する、②パートタイマーや契約社員を減らして変動費を低い位置で固定する、③労働生産性(売上高人件費比率、労働分配率)をベンチマークして人員削減に努める―こと。また高い料金設定を“スマート”におこなうために、①労働装備率(社員1人当たり設備投資額)を高める、②市場領域、印刷製品の特化によって料金設定力を強める、③顧客ニーズに対し深く詳しい知識をもつ、④付帯サービスの多様化をはかり価値を高める、⑤企業ブランドを強化する、⑥営業報奨金を伴う売上補償制度を開発する――などが重要だとしている。印刷料金の設定は需要によって牽引されるべきで、決してコストからの判断であってはならないという。
※本稿は、下記の資料を参考に作成しています。
「The Economy and Print Markets in 2014-2015」(The Magazine Vol.6 Issue 1, Jan. 2014)
Dr. Ronnie H. Davis ; Senior Vice President and Chief Economist, PIA
●キリシタン版で使われた国字活字製造の謎を追う
《平成25年8月度/26年1月度記事参照》 天正遣欧少年使節団によって1590年にもたらされた金属活字による日本最初の活版印刷術――問題は、漢字・仮名混じりの国字を金属活字として鋳造し活版印刷をおこなったのは、果たして誰なのかである。使節団が帰国したあと、ローマ派遣を計画したヴァリニャーノが日本にいる宣教師たちを集めて協議会を開催している。その時、日本文字の木版印刷に関わる日本人を召集したという記録がある。彼ら(10名の日本人神弟)が国字活字の製造に当たったのではないかとする説には、信憑性があり納得できる。そうはいっても、木版の整版印刷に従事していた神弟たちが、いきなり金属活字の鋳造技術を理解して対応できたであろうか? 時間的に無理があり、この点についてはなお疑問が残る。国字活字を使節団が持ち帰ったという説もあるが、船載品のなかに含まれていた形跡はない。使節団に同行してヨーロッパで活版印刷術を会得してきたとされるドラードたちだが、どの程度の印刷実技を身につけることができたのであろうか? 使節たちの従者であり通訳も兼ねていたことから、不可能に近い。帰国した日本人の印刷工の能力だけで、短期間のうちに国字活字をつくることはきわめて難しいのである。
●印刷界から有識者が加わり、説得力のある研究を
ヴァリニャーノは印刷技術に詳しかったに違いない。日本人は識字率が高いので、印刷物をつくれば布教しやすくなると考えたはずである。印刷に関心をもち、自ら出版企画を立てて原稿も書いている。印刷活字の手配も自分でおこなった人物である。布教のための印刷物の重要性を考え、使節団を派遣する前から、グーテンベルグの金属活版印刷術を日本に導入したいと企画していたのではないだろうか。国字の版下づくりに必要な人材(木版経験者)の手配を、キリシタン大名であった大友宗麟に依頼しておいて、帰国と同時に鋳造に取り掛かったと考えられる。当時の宣教師たちも印刷技術を理解して、国字以外の印刷設備一式をもってきている。帰国前にすでに国内で、活字づくりの作業が始まっていたのではないかとみる方が自然だろう。諸説の内容をみると、活字製造の専門的な工程をあまりにも簡単に考え、結論づけている点が気になるところだ。ここはやはり、印刷界から金属活字の製造に詳しい専門家が登場されることを待ちたいと思う。印刷畑からの説得力ある研究が進められることを願っている。
(以上)