goo blog サービス終了のお知らせ 

印刷図書館倶楽部ひろば

“印刷”に対する深い見識と愛着をお持ちの方々による広場です。語らいの輪に、ぜひご参加くださいませ。

『印刷の今とこれからを考える』 月例木曜会2013年6月まとめ

2013-06-24 16:06:26 | 月例会
6月20日(木)に、月例の木曜会集いがありました。
話の概要を早速まとめていただきましたのでご紹介いたします。


[印刷]の今とこれからを考える         
       (印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年6月度会合より)


●アメリカの印刷産業でも「市場は激変した」

 アメリカの印刷業界団体PIAが発表した最新の年次報告書(※文末参照)には、日本の印刷関係者からみても非常に参考になる今後の方向性が示されていて興味深い。統計的な数値については、この報告書をご覧いただくとして、アメリカの全印刷産業(印刷・同関連産業+印刷関連メディア産業)は、[2011年の時点で「市場が激変した」と分析されている。紙への印刷が中心ではあるが、次第に「情報伝達サービス業」に変化し、さらに「統合メディア業」のかたちをとるようになってきたとしている。経済・市場の拡大により、印刷のビジネス環境は確実に創出され、挑戦できるビジネス機会は拡大したものの、デジタルメディア(電子メディア)との熾烈な競争によって、その市場成長が押しとどめられているという背景があるからだ。


●前向きの未来を信じ、確固たる経営戦略をとろう

 売上高と収益性の間には、必ずしも正の相関関係はみられない。たんに売上高を上げれば収益が増えるという関係ではない。しばしば反対方向に作用することがある。売上げを追い求めるあまり、競争優位を可能する要因への注意を怠り、結果として収益性に悪影響を与えているのかも知れない。設備投資が収益を圧迫するといった場合だ。印刷方式は長期にわたって変更することが可能で、多くの企業ではデジタル印刷ができるように変化している。しかし、そのデジタル印刷による競争優位性は、しばらく持続し得たとしても、将来を見通すと低下するだろう。大切なのは、印刷製品と印刷ビジネスには長期的にみてポジティブな未来があることを信じ、印刷産業を取り巻く環境の変化に対応できる確固たる経営戦略と戦術をもつことである。


●自社の具体的なビジネスモデルを展望しよう

 それでは将来に向けて、どんな戦略と戦術をとったらよいのだろうか? PIAは重要課題として、①経済循環のなかで、印刷の景況がどんな位置づけで推移するのかを注視し、変化する状況を柔軟に確認すること、②自社製品のライフサイクルと印刷市場における競争環境を把握し、それが自社にとって何を意味するのかを知ること、③印刷製品と印刷付帯サービスの価格(料金)、原材料コストや人件費が、最終的な損益に影響を与える関係をよく理解すること、④情報伝達、販売促進、ロジスティックス別にみた自社の製品機能と付帯サービス、それらと自社のビジネスモデルとの関係において、具体的な戦略・戦術を展望すること――を挙げている。そして、何より「仕事に取り組む経営者と社員の姿勢が重要だ」と強調している。


●印刷製品のライフサイクルにおける位置づけは?

 印刷製品の全般的なライフサイクルは、成長期から成熟期へ、もしかしたら衰退期に移行しているのかも知れない。衰退期にあるにもかかわらず、成長期に留まっている生産方式、製品、機能がみられる。すべての印刷製品が競争性をもってはいるが、激しい競争のなかで、幾つかの製品については、際立って高かったり低かったりと評価が分かれる。ライフサイクルと競争の激しさの両方で評価すると、印刷産業には多くのビジネス機会が残っていることがわかる。成熟期あるいは衰退期にある印刷製品でさえ、パフォーマンスを改善することによって、長期にわたり順調に継続できるように仕向ける経営戦略と戦術がある。


●コンサルティングサービスで価格設定力を高める

 顧客のビジネスモデルと、入口から出口に至る幅広いニーズに関して、深くかつ詳細な知識をもち、コンサルティングサービスを提供することで顧客を囲い込む必要がある。特化した独自の市場領域、製品分野で、価格への影響力(価格設定力)を認めてもらえるようなサービスを提供すること。健全で強固な顧客関係性を構築できるなら、顧客が簡単に他企業に乗り替えできないような障壁が生まれる。それには、自社のブランド力と潜在能力を強化しなければならない。コスト見積り(価格競争)に依存しすぎてはいけない。


●「特化・多様化戦略」に取り組むときは今です!

 今こそ「戦略」をチェックすべき時だ。特殊な加工技術を発揮できる製品分野あるいは市場領域に絞り込み、そこに自社独自の付帯サービスを提供する「特化・多様化戦略」は、特化によってコストを低減し多様化によって価格設定力を強め、結果として収益性を高めるのに有効である。“何でも屋”を強いられる従来どおりの一般的な業態から、特化戦略→多様化戦略→特化・多様化戦略をとるに従い、だんだんと収益が増えてくることがわかっている。サービスの多様化に力を注いでいくにつれ、①印刷製品の生産から②印刷付帯サービスの提供、③顧客が抱える課題の解決策の提供(コミュニケーション・ソリューションプロバイダー)、④プリントマネジメントサービスの提供――へと高めていくことができる。これは、顧客価値の転移のレベルが上がることを意味している。PIAは「従来型の一般的な業態から早く脱却すべきだ」と指導する。


●特化したニッチ市場で多様な付帯サービスを提供

 PIAは、印刷業のビジネスモデルを①製品ニッチ、バーチカル(垂直)ニッチをめざす特化戦略、②コミュニケーションプロバイダーなどをめざす多様化戦略――に分けてとらえている。他社からの攻撃が少ない優位なポジショニングをめざすのがニッチ戦略で、自社にとってうま味のある領域に印刷製品や付帯サービスを特化していこうというもの。製品ニッチ戦略は、特定の印刷物の加工などに絞り込んでいくこと、またバーチカル戦略は、特定の産業の市場領域を対象にしていくことを指し、いずれも高付加価値化が可能になる。一方、多様化戦略におけるコミュニケーションプロバイダーとは、顧客の課題を解決するためのコミュニケーション手段として、たんに印刷製品だけでなく、印刷の前後工程にあたる付帯サービスも提供していく業態をいう。印刷製品を核としながら、生産する前の工程や納品後の工程を一連のバリューチェーンと捉えて、顧客ニーズに見合った多様な関連サービス、代替サービスを提供するのがコツである。


●印刷業として生き残る“進歩の過程”を踏もう

 成長可能なビジネスモデルをめざすには、第1ステップで、市場領域を特化することで収益性を改善し、次の第2ステップで、付帯サービスの拡充によってワンストップ・フルフィルメントを実現して、顧客との関係性を強化する。そして第3ステップでは、顧客のバリューチェーンに合わせて独自のソリューション提供やマーケティング支援をおこなうコミュニケーションプロバイダーとなる。その究極のかたちが第4ステップのプリントマネジメントサービスで、顧客の印刷業務をすべて引き受けて一括管理していく。これこそ印刷業が生き残る進歩の過程である。


●経営者として社員として取り組む姿勢が問われる

 自社の市場領域、設備内容、顧客基盤がどうであれ、社長としての経営姿勢(事業観)、および経営管理チームと社員の組織としての姿勢(仕事観)が非常に重要である。企業にとってきわめて困難な現実は無視できないとしても、そんなときでも積極思考型の展望が欠かせない。社員教育への投資を惜しんではならない。経営者として原価管理を維持する必要はあるとしても、「一文知らずの百文知らず」(Penny wise, Pound foolish)になってはいけない。


※本稿は、資料として提出されたPIAの特別報告書 [Charting the Path for 2013-2014]を下地にして作成しています。

「印刷の今とこれからを考える」 月例会2013年5月 

2013-05-22 16:01:48 | 月例会
毎月第3木曜日の午後、当印刷会館内にて、有志による「印刷の今とこれからを考える」会を開いています。今月も、5月16日に熱い談が繰り広げられました。その内容を、いつものようにK氏がまとめてくださいましたので、紹介いたします。



[印刷]の今とこれからを考える 
「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年5月度会合より)


●紙に定められた規格寸法から何を感じる?

砕いた植物繊維を抄いてつくる「紙」が発明されたのは、中国・後漢時代のことだったが、1900年も前の英知は、長い年月をかけシルクロード沿いにヨーロッパに伝わっていった。そのような歴史をもつ紙のサイズが決まったのは、果していつ頃だったのだろうか? どこかで繋がったのだろうか、B系列、A系列というサイズは今、東洋と西洋の間にあった“カベ”を乗り越えて世界共通のものとなっている。A0判(A倍判)は1m×1m、B0判(B倍判)はその1.5倍の1m×1.5mを基本面積とし、それぞれ4:6(正確には1:ルート2)の黄金比でタテヨコの長さに割り振って、それを規格寸法としている。1mの長さは、メートル法によって赤道から北極までの子午線の1千万分の1と定められたが、それがなぜ紙のサイズを規定した寸法と一致するのか。まさに“紙の世界”だと感じる。


●印刷への高い関心を若い世代が示してくれた

印刷専門学校に入学してきた新入生向けのオリエンテーリングで、「印刷」をイメージして連想できるものをアンケート形式で聞いたところ、もっとも多かったのが「情報」、2番目は「紙」、3番目は「本」という順序だった。これまでは、紙や本、文字やカラーといった常識的な項目が挙げられていたことから考えると、若い人が「印刷」に寄せる関心は大きく様変わりしているようだ。「印刷」と結びつかないとみられてきた「情報」がトップにきた事実は、それなりに意味のあることと受け止めるべきである。


●日本人は自然と共生しながら生活してきた

地球上の陸地面積のうち、日本はたった0.25%でしかない。有史以来発生したマグニチュード6以上の地震の実に20%が、そんな狭い地域で起こっている。日本人は、自然災害に逆らわず融和させながら、小さな土地で根気よく暮らしてきた。自然崇拝を通して忍耐力を養ってきたといえる。人間は自然界をどんどん破壊しているが、破壊すればするほど、洪水や渇水などのしっぺ返しを受けるようになる。自然界と人間界の境に、里山をつくったのは日本人である。植林や森林保全によって、自然との共生をはかってきた。江戸がかつて世界最大の都市だったのは、上下水道の整備によって水の管理を徹底させたことが土台にある。現代につながるエコシステムを確立させたのである。環境保護を考えるときのヒントになるだろう。


●広い視野で見つめることの大切さを知ろう

現在、市場に出回っている紙の60%を占める「再生紙」が初めてつくられたのは、実は日本なのだが、この事実はあまり知られていない。間伐材を利用してきたヨーロッパでは、つい最近まで再生紙という発想自体がなく、環境にやさしくないという考え方がずっと続いてきた。再生紙というと、包装用のクラフト紙くらいしか想い起こされないのが実情で、印刷関係者でさえ、紙をたんなる印刷素材としか考えてこなかったところがある。印刷業界には“井の中の蛙”的な部分があり、周囲のことをあまり知ろうとしない。狭い世界だけで捉えようとせず、あらゆることに、もっと大きな関心を寄せる必要があるだろう。広い視野でビジネス環境や市場性などを見ていくことが重要である。


●印刷メディアは人間の手がかかってこそ

音声入力システムの開発が進み、欧米では翻訳までおこなわせようとしている。識字率、雑音処理、修正の手間など多くの問題があり、費用対効果を考えると、普及させるまでには相当の難題が伴うだろう。99%まで読みこなせるようになったOCRでさえ、残る1%の誤認をチェックする手間の方が大変なのが実情である。書籍のような高度な印刷メディアをつくるときは、結局のところ人間の手による文字入力と編集の方がメリットが大きい。スーパーコンピュータはビッグデータを作成できたとしても、書物用の生きた日本文を書けるわけではない。


●印刷は“ローテク”で生きていく道を探れ

このことは、印刷はどうやって“ローテク”で生きていくのかという命題に結びついてくる。デジタル化によって大量処理、ネットワーク化で大量移動が可能にはなったが、印刷ビジネスに不可欠な付加価値は、正確な文字入力、原稿修正、編集、情報加工などからもたらされる。たんなるデータ変換では得られない。文字は永遠に残るし、したがって文字処理の仕事は最後まで残るはずである。文字に関しては、音楽のようにハイテク処理しようとしないで、ローテクでこなしていった方がよい。有能な次世代型「エディター」が出現してほしい。印刷会社にも、そうした新しい雇用を生み出せるビジネスモデルをつくってほしい。


●サービス機能の充実が顧客創造につながる

印刷工程は本来、文字組版から製版、印刷まで、逆戻りすることのできない垂直分業で成り立ってきたが、デジタル化に伴って水平分業が可能になった。データさえあれば、70点~80点の印刷物が誰でもどこででもつくれるようになった。それを90点、100点に高めるのがサービス機能であり、各企業が発揮すべき差別化要素だ。品質保証できなかったから他社に任せようとせず、自社内にあらゆる生産設備を設置してきたという経緯がある。それらを満たし切れない稼働率の低下が問題視されているが、それを安易にネット受注で埋めたとしても、安値なら付加価値を確保したということにはならない。営業力や市場開拓力が落ち、顧客密着もできなくなりかねない。印刷ビジネスの将来に大きな不安を感じる。


●成熟産業としてのテーマを根本的に考え直そう

印刷技術は、さまざまな基礎技術を寄せ集めて確立した“雑学”の典型みたいなものだ。グーテンベルク以降、本当の意味でのイノベーションは起こっていない。高品質な印刷物を大量に速くつくれるように技術は進歩したが、原理原則は少しも変わっていない。心理的な側面である「工芸」をからめながら、文化的に優れた印刷物をつくってきたのだが、デジタル化の進展でそれさえすっ飛ばされてしまった。すでに成熟産業になっていることを真正面から見据え、「印刷とは何か」という根本的なテーマについて、もっと真剣に考え直してもいいと思う。


●強烈な覇気でもっと斬新に!もっと果敢に!

 印刷産業が成熟化したなかで、個々の印刷企業はどうしたら自社を成長させられるかをよく考えなければいけない。残念ながら、後追いのビジネスが目立つようだ。斬新性がなく、覇気とか男気が感じられない。過去の統計データを将来に向かって延長させた予測に従うのではなく、自ら業態を変えて新しい経営環境、市場環境を創造すべく、もっと果敢になれといいたい。印刷という故郷の“山河”は、いつまでも美しくあってほしい。



2013年4月≪月例木曜会≫まとめ

2013-04-22 16:34:34 | 月例会
毎月第三木曜日の午後に開いている≪月例木曜会≫を、先週18日に開催いたしました。
早速、K氏がまとめてくださいましたのでご報告させていただきます。



[印刷]の今とこれからを考える
          「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年4月度会合より)



●価値観に品性や感性を取り入れよう 
ロンドンの大学にはポスター類が整然と展示されていたり、アメリカでは最初にできた印刷会社のモデルが、大切に保存されたりしている。グラフィックアーツに対する価値観が、日本とは根本的に違っている。産業として厳しい状況にないからだろうか、印刷業に関して大きな自負をもっている。日本でもかつては、印刷をたんなる「技術」ではなく「品性」と幅広く捉えて、発展させていこうという理念や気概があったように思う。昨今、「感性」を土台にすべきだと提唱されているが、当時と相通じるものがある。業界の総意として継続的に進めていってほしい。


●工芸がもっている意味を再認識したい 
「工芸とはベレー帽を被った芸術家がやるものだ」という固定観念がある。技術と工芸との関係を理解していない人が多過ぎる。最近、活版印刷が一種のブームになっていて、名刺やハガキなどを自分でつくろうとする人が多い。高い印圧をかけて厚紙に凸版印刷する“イミテーション”であっても、そこには温か味が感じられ、工芸品となっている。活版には活版本来の良さがあるのであり、そこをどう評価するかが問われている。木版印刷、石版印刷、コロタイプ印刷はほとんど姿を消してしまったが、版画やリトグラフにみられるような工芸的な感覚を、工業のなかにどれだけ採り入れていくか。印刷工業のサービス化の一つに工芸をからめていく意義は大きい。デジタル加工に関心がいきがちだが、こうした面からの取り組みも重要だろう。


●アドバンテージを生かさない手はない
 
文字・画像データがマルチメディアに対応できるといっても、何の機能のために出力するのかをよく考えなければいけない。そこに、工芸の感覚も入ってくる。美しさとか親しみやすさとか、たんなる“読みやすさ”以上の何かが求められているが、それを、物理量と心理量の相対が伴った「工芸」というのだと思う。印刷物の機能を考えながら、高度な印刷技術で伝統的な工芸を表現することだ。データが情報、知識、知恵となっていく過程には、人間の学習能力や創造性が介在している。デジタルデータを取り扱う前に、このようなソフトな付加価値をいかに組み合わせて、顧客に還元するかを考える必要がある。紙メディアをもっている印刷業は、一番大きなアドバンテージをもっているはずである。


●現場ならではの感覚を顧客に伝えよう 
上流(前工程)から下流(後工程)への仕事の流れを、逆に下流から上流へ情報をフィードバックできるようにすれば、現在、上流とされている前工程よりさらに上(顧客サイド)に立てることになる。印刷現場の中から印刷物がもっている美しさ、心地良さ、メディアによるコミュニケーション力を、上流にフィードバックできると、顧客が抱えている課題の解決に大きな役割を果たせるようになる。現場と営業が共通の言葉で意思疎通できなくなっているのが実状だが、一定のテーマと期間を定めたうえで“社内留学”(人事交流)させることも必要だろう。

●成果に結びつく実務教育が大切だ
 
江戸時代の寺子屋が教育に果たした貢献度は非常に大きかった。外国でも教会が学校の役割を果たしていた。教会の日曜学校に通って英語を勉強し、組版を職場で習った結果「読み書きなら学者に負けない」と自負する職人(組版工)が大勢育っていった。日本においても、印刷会社で日本語の文章や句読法を勉強したという印刷人は多い。基本的な勉強が仕事そのものに役立つような実務教育に、もう一度目を向ける必要があるのではないか。


●営業マンの努力に正当な評価を

印刷営業マンにいま一番求められているのは、自分の会社の印刷製品だけでなく、関連するさまざまな分野の知識を身に付け、顧客に提供できるサービスの幅を拡げることである。しかし残念なことに、このような個人的な学習の成果を正しく評価するシステムが、現在の印刷会社にはみられない。顧客からどのような課題をもらってきたかを、仕事上の評価基準に加えるべきである。質のよい宿題をもってくる営業マンは必ず伸びる。企画能力を高めることができるよう、仕事の環境を整えると同時に、積極的に取り組んでもらえるためのインセンティブを、どう与えるかを考慮に入れた効果的な評価システムを開発してほしい。


●特化と多様化を視野に入れた印刷経営を
 
印刷会社は、企画提案から製造工程を経てデリバリーに至るバリューチェーン(バーチカルセグメント)のいずれかに力点を置くとともに、特化した製品領域、市場領域で付加価値を確保するようにすべきだ。ただし、知識(ノウハウ)は入口から出口まで、かつ間口を広くもっていなくてはならない。そうすることによって多様化が可能となり、コミュニケーション支援のためのさまざまな代替サービスや付帯サービスができるようになる。顧客にトータルソリューションを提案する的確なコンサルティングが可能になる。顧客までバリューチェーンに巻き込みながら、付帯サービスの提供によって付加価値がとれるビジネスモデル(仕組み)をつくり、メディアを活かした仕事をプロデュース(仕掛け)すること。特定の顧客に専門特化して受注できるになれば、継続した取引関係を築ける。特化でコストダウン、多様化で価格向上が実現できる。結果的な売上高ではなく、獲得をめざす付加価値を基準に経営していくことが重要である。


●ニーズの首根っこを押さえた方が勝ち
印刷業界が今まで取り組んできた仕事の枠を超えたところで、隣接の異業種と市場の獲得競争が始まっている。どの事業を主力としているかが異なるだけで、めざしているビジネスの方向は印刷業界でもIT業界でもメディア業界でも同じだ。入口と出口の約束事を守りさえすれば、どこでも顧客ニーズに対応できる平等の立場にある。凝り固まったきれいごとの発想では皆つぶされてしまう。印刷業の究極の理想像は、二つに分化している上流と下流をうまく組み合わせたうえで、川上の要の部分をいち早く押さえることにある。そして、他の業界に需要がシフトしていかないよう障壁をつくること。デジタルデータと紙メディアの両方を扱える印刷業は、最大の力を発揮できるだろう。それだけの“蝶つがい”(インターフェイス機能)をたくさん備えていることに自信をもってほしい。


●各社それぞれのポジショニングこそ
演繹的にアタマから考えると、最大公約数的な総合印刷業のかたちしか思い浮かんでこない。しかし見方を変えて、各社それぞれのポジショニングを定めてから帰納的に集約すれば、印刷産業の全体像がみえてくる。印刷会社の経営者は感覚的に製造業でいたい気持をもっているようだが、印刷業としての価値を高めるには何をしたらよいかを考え、自社のポジション(事業基盤)を決めることが望ましい。それには、メディアの機能を分析しながら、情報伝達用、販売促進用、ロジックス用といった具合に、印刷物を機能別に分けて考える必要がある。プロでなければできないもの、アマチュアでもできるものを明確に区分けするのはもちろん、これまでのような品目別な捉え方も止めた方がよい。

(以上)

 

月例木曜会まとめ (2013年3月21日開催)

2013-03-25 16:48:59 | 月例会
[印刷]の今とこれからを考える

        「印刷図書館クラブ」月例会報告(平成25年3月度会合より)


●改行・1字下げから気づくことは何か

 文章表現に関して、組版ルール上ぜひ確認してほしいのは、例えば小学校の作文の授業で行を替えるとき、文章のアタマを1字下げることを誰が教え始めたのかということである。手紙の場合でも、美的感覚で無意識に「拝啓」を1字下げて書いてしまうが、本当のところは誰も教えてくれない。行替えして段落を分けたとき、文章が表している場面や状況が変わるのが一般的だ。表音文字を使う欧文では、ひと目で理解しやすいように1行あけて書くことが多い。表意文字からなる日本文でも、アタマを1字下げずに、1行あけた方が尚更わかりやすい。書き手の意思を表現したいときにきわめて有効なのだから、もう一度考え直してみたらいかがだろうか?


●句読法を勉強し直して、正しい組版を

「?」や「!」を使ったときに、その後の文字との間をあけることを教えられたが、どちらも「。」や「、」とは異なる変形であり、字間を詰めて組版するのは基本的に間違いなのだ。その昔、英文タイプライターを使っていた頃、誰もが自然にスペーシングをしていたのに、いつの間にか忘れ去られてしまった。句読法について、きちんと教えていかないといけないと思う。和文における1字送りなど、英文と同化させて採り入れる能力、しかも、明治初期の数年で印刷物に採用してしまえる“瞬発力”を、日本人はもっている。原点に戻って再考したいものだ。


●「大福帳」から学べる一覧性の強み

 印刷は空気や水と同じように当たり前の存在になった。なくなったら大変だという意識が希薄になっている。人類史上、最大の発明は印刷といわれているにも関わらず、その点は残念に思う。コンピュータ関係者は、かつて日本の商店で使われていた「大福帳」に注目しているという。取引の結果を時系列的に書いていくのが特徴なのだが、ひと目で経過を想い起こすことのできる効果が再認識されている。そこには生活の知恵がある。聖書や仏典などの印刷物は布教に欠かせないツールとなってきたが、2段組でわかりやすく読ませるグーテンベルクの「42行聖書」をはじめ、印刷物がもっている一覧性という特徴は、デジタルメディアにはない強みだろう。


●デジタル技術で工芸を表現してみたい

 昔からの伝統技術と今の最新技術を、高いレベルで組み合せることを考えてほしい。例えば、インクジェットプリンタを捺染分野に用いて製作した、安価な柄ものの繊維が市場にたくさん出回っている。当初は、高級品をつくるために導入したはずなのに、技術的に簡単につくれるという便利さが優先されてしまった。手工業でつくったものと遜色のない最高品質の製品を、少数でもいいから丁寧に複製できたらと思う。伝統的な捺染の工芸をインクジェットプリンタで表現できないものだろうか? どこまで肉薄できるか、ぜひ見てみたい。


●固定観念を打破しデジタル印刷機を使う

 印刷会社が既存のオフセット印刷機と併用するかたちでデジタル印刷機を導入すると、どうしてもデジタル印刷機の方を下にみてしまいがちだ。伝統的な印刷会社の場合、デジタル印刷部門をつくっても、なかなか成功しにくい傾向がある。従来のオフセット印刷部門をボリュームゾーンとしているからで、デジタル印刷と使い分けるときも、たんに刷り部数が基準になってしまう。その点、新規に印刷業界に参入してきた企業は、顧客ニーズに合わせてデジタル印刷機を活かそうと懸命に工夫している。デジタル印刷機を活かして成功を収めたいと考えるなら、どうしても顧客志向のマーケティング戦略を採り入れた取り組みが必要になるだろう。


●プリントマネジメントにしっかりと対応しよう

 顧客企業の側に立って、印刷発注管理のすべてを引き受けるプリントマネージャー。欧米では成り立っているが、日本では難しい状況にある。欧米のように日本でもコンテンツの一元的活用が重視される時代が来て、印刷物の発注についても専門的なマネジメントが必要になるはずといわれてきたが、実態はなかなかそうなっていない。ワンストップでサービスが可能な統一したプラットフォームがないからだろう。印刷会社サイドでも不思議なことに、例えばインキの仕入れは工場長が権限をもち、紙については営業部が“勝手に”手配したりしている。しかし、この仕組みがいったん確立されると、品質や納期、料金を守ることを要求され、印刷会社が生産の下請け化を余儀なくされる。中小印刷会社の場合は営業力を阻害されてしまう恐れがある。


●気概をもった社員を人材に育てよう

 日本人は部分最適を得意としているが、残念ながら全体最適をプロデュースする力に欠けている。どういう理念のもとでどんな製品をつくりたいのかという目的をもった人が少ない。奇想天外な考え方をもった人が必要なのだが、そういう人材はなぜか社内から“蹴飛ばされて”しまう。日本の企業は平均値的にみれば上位にあるのだろうが、気概をもった社員の足を引っ張ってしまうところがあり、もう一歩上に行けない。いい意味での“変人”を使いこなせる経営トップがいるかどうかで、企業の事業能力は決まってしまう。心したいところである。


●経営トップにはビジョンを示す責任がある

 蟻や蜂などのコロニーをみると、働いて群れを引っ張る層、中心で群れを形成している層、群れに寄り掛かっている層が3:4:3の割合で構成されている。人間がつくる企業もほとんど変わりはない。当然、リーダーシップを執る層が重要で、欧米ではこの層を重視しているが、日本では真ん中の組織維持層を大切にする。しかし、中心の多数派が企業にイノベーションをもたらすことはない。日本ではどうしても中庸を重んじるので、企業が思いどおり伸びない状況になってしまう。経営ミッションが社内に行き渡っていれば成長できるのだが、トップが最初から諦めて打ち出そうとしない。未来を破壊するくらいの発想が必要になる。よく言われる2:6:2は衰退、そして1:8:1は消滅の道を辿るとされる。これを3:4:3以上に引き上げることを組織改革という。


●新しい協業のあり方を探っていくべきだ

 産業界には、提案営業に始まる入口から製造工程、さらにデリバリーする出口まで、一気通貫に統合させた受発注の仕組みをつくろうという動きがある。資材の調達先はもちろん、発注サイドである顧客まで巻き込んで、従来の業界の枠組みを超えた広域なバリューチェーンを構築しようとしている。印刷でいうなら、広告、出版といったこれまで顧客とみてきた業界とも対等な関係で連携し、顧客価値創造のビジネスネットワークを築いていくという方向である。デジタル情報が自在に行き交うIT時代に相応しい新しい協業のあり方、ITを活用しながら付加価値を生み出していける仕組み、印刷会社として生き延びられる方法を考え直す必要があるだろう。


●これからはマーケティングが欠かせない

 現状を何とかしたかったら、ビジネスのかたちを変えるしかない。日本の印刷会社にはマーケティングがないといわれる。御用聞きに終始し、モノとしての印刷物を製造することに拘っている。広告やデザインなどマーケティング提案できる川上業界に、有利な立場に立たれてしまっている。伝統的な技能はこれまで強力な財産だったが、デジタル情報、ソフト・サービスの時代ではむしろマイナスに作用してしまう。強みである工業と工芸を上手に融和させたうえで、顧客のビジネス課題を解決できる有益な印刷メディアを的確に提供していくことが求められる。




月例≪木曜会≫報告 2013年2月

2013-02-22 15:07:20 | 月例会
印刷図書館倶楽部では一年ほど前から有志の方々に集っていただき、第三木曜日の午後自由参加による月例会を開いております。

印刷業界の有識者の方々による集いですので、中身は大変深く濃い内容だったにも関わらず、残念ながら記録して参りませんでした。その場限りではあまりにもったいないことですので、今月からは要旨をブログ上に報告することに致しました。
テーマ等は特に設けず、その時の自由発言による展開です。つきましては、今月の木曜会が昨日行われましたので下記の通りご報告させていただきます。




≪[印刷]の今とこれからを考える≫ (2013年2月21日(木)月例会より)   


●地産地消型の印刷ビジネスへ
 インクジェットプリンタなど安価なシステムが普及したことにより、ちょっとした印刷物なら誰でも簡単に作成できる時代になった。それによって、印刷業界がどういうかたちになるのかは解らないが、ヨーロッパの街中に見られるような“地産地消”型の印刷会社が増える方向に戻っていくのではないか。今は、その端緒なのかも知れない。校正に関してもデジタルシステムでおこなわれ、しかも紙に出力しないで、画像データを通信で飛ばして確認をとるまでになった。地域密着型の事業展開がしやすくなったといえる。


●アート的な価値が再び見直される
パソコンからプリントアウトできることは、年賀状をはじめどんな印刷物でもアマチュアの人がつくれるということを意味している。謄写版の原理を使ったパーソナル用の簡易印刷機は、パソコンの普及とともに急速に姿を消した。印刷会社のドル箱だった年賀状印刷も、メールに移行して急減した。ネットからはさまざまな画像が自由にダウンロードできる。それでも、いずれは飽きられるかも知れない。やはり、印刷でしか表現できないようなアート的な価値が再認識されるのではないか。


●感性と個性に応える本物の印刷を
衣類に繊維印刷する例では、東京の山手線を一周する間に同じ絵柄に出会ってしまうほどだった。あまりにも多いので、それ以上は量産しないという方針を決めた経緯がある。顧客にハーフメイドのデザインを提供するような“囲い込み”型の印刷は、感性が尊ばれて個性化した現在の市場では壁にぶつかってしまうだろう。
「単純な名刺」があったらいいと思う。どんなに優れたデザインであっても、字が小さ過ぎて読めなければ有効ではない。デザイン文字は本当に読みにくい。その点、ユニバーサルフォントにすると、小さい文字でも抵抗なく読むことができる。高齢者層からは逆に、活字による文字が欲しがられているほどだ。


●文字表現のあり方を提唱しよう
芥川賞を受賞した作品に、平仮名だけの文章を横書きした小説があった。読者にとっては、頭のなかで平仮名の漢字に変換しなければならないので、非常に読みにくい。組版ルールには沿っているが、版面まで他のページと異なるようにみえる。作者にしてみれば、コンテクスト(行間、文脈)を読んでもらいたいという狙いがあるのだと思うが、文芸作品であっても可読性は大切だ。作者が問題提起したのだから、印刷業界の方からも、文字表現の好ましいあり方を提唱すべきではないだろうか。


●印刷の用途や機能を考えてほしい
ポスターなどの印刷物をグラフィックデザイナーに依頼すると、文字を極端に小さくしてしまう。ユニバーサルフォントは読みやすいのに、出版社の編集者にはなかなか理解してもらえない。デザイナーや編集者は見る人、読む人の立場に立ちながら、その印刷物の用途とか機能を考慮に入れてほしい。人間工学から設計されたのが印刷用の書体であったはずで、現に内容は同じであっても、活字書体を使った本の方がデザインフォントの本より売れたという例がある。デジタル技術で容易になったのだから、印刷物の種類によって使い分けるべきだと思う。


●顧客と一緒にイノベーションを起こす
印刷業界は、いってみれば水の温度が20℃から50℃に変わるような範囲の中に留まっているようだ。本当のイノベーションは、凍結して氷になるか、気化して水蒸気になるかというくらいでないといけない。グーテンベルク時代から何世紀にもわたってイノベーションを起こしていないのは、印刷業界だけだといわれている。これまでにも技術的な革新はあったが、それは印刷物をつくるための進歩であって、根本的なところが変わったわけではない。
 今でも「クライアントの要望が優先」といっているが、よく考えると間違っていると思う。全ての産業から下に見られている現状を、逆に上から見るような関係に変えなければいけない。顧客を対等なパートナーとみなして、お互いによくなろうと取り組んでいくなかで、必ずイノベーションを起こせるはずだ。


●素晴らしい産業として自立すべきだ
印刷業界は、全産業とつながっている他に例のない素晴らしい業界だと思う。印刷の仕事は楽しいはずなのに、自ら卑下しているところがある。技術開発にしても“島国根性”で中途半端に終わらせてしまう。ビジネス上のリスクも自分で背負い込んでいる。著作物の隣接権(編集著作権)も、出版社などに渡さないで印刷会社自身が保持していなければいけない。
 印刷業界は長い間“低空飛行”を続けてきてしまったが、明治時代には、近代化と文化を創造してきたエリート集団だったはず。今こそ、産業として自立できるよう自己主張すべきだ。あらゆる面で委縮してしまっているので、気宇壮大な人材を育てる必要がある。