クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ
2004年 96分 劇場映画シリーズ第12作目
しんちゃんのTV番組が始まったのは子どもが幼稚園の時だから、ずいぶんな長寿シリーズになる。マンガはずーっと買っていた。今は買ってないが、あれば読むし、TVも見る。映画は、子どもを連れても見に行ってはない。タイトルから考えてバカバカしいドタバタ的内容だと決めていた。目が覚めたのはTVで『オトナ帝国の逆襲』を見てからだった。
ものすごく驚いた。衝撃だった。しんちゃん映画ってこんなにすごいのかと言葉を失った。たぶん一般的には最高傑作として次作の『戦国大合戦』をあげるんだろうと思う。実際立派な賞も獲っているし、最近には実写版でリメイクもされた。しかし私はあれをそんなに評価してない。見た時に感じた。「これ、昔の映画のアイデア(スジ)を使っているやん。」
私にとっては、黒澤の『乱』や、他の映画のアイデア(スジ)を寄せ集めて(パロって)作った映画に感じられた。それがなぜ文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞をはじめとするたくさんの受賞になるのか。いい作品なのだろうが、私には新鮮味がなかった。
しかしオトナ帝国は違う。あれ、私のように昭和30年代末~40年代~50年代初頭の記憶を持つ人間にとって、恐ろしいまでに胸に迫る映画だった。表面的には家族愛とかをあげるのだろうが、あれは昭和から平成にかけて生きていた我々全員の心の叫びだったように思う。あんな映画、アニメとか実写とか3DCGとか、どっかの国の大資本の作った鳴り物入り映画であっても、絶対に勝てない&二度と作れない傑作だと思っている。
この映画は、それに匹敵するぐらいの大傑作と感じた。素晴らしい作品だった。
最初のシーンは鬼ごっこから始まる。しんちゃんたち五人は、タッチされたら鬼の変わる「妙にリアルな設定の鬼ごっこ」をしていた。そのうち、ビルの隙間の道を通って一軒の潰れた映画館の前に出る。好奇心のあるしんのすけは中に入ろうとする。5人は、誰もいない映画館でピンぼけの西部劇の荒野が映されているのを見つける。みんなで見ていたのだが、しんのすけがトイレにたち、帰ってみると4人がいなくなっていた。「自分だけ置いて帰られた」と帰宅したしんのすけだったが、実は4人はまだ帰ってなかった。心配した野原一家がその映画館に行くとやはり荒野が映し出されている。スクリーンを見るうち、なぜか自分たちがその荒野に立っていた。訳が分からないまま町を目指す4人。頭上の太陽は動かず、時の流れが止まっているようだった。
町に着くと、それは西部劇に出てくるままの町だった。ここはどこで、一体どうなっているのかを訊こうと酒場に入ったヒロシは、因縁を付けられ乱闘になってしまう。そこに制止に来た保安隊のトップは風間君だった。必死に話すしんのすけだが、風間君は知らないと言い、捕まえようとする。
逃げ出した一家を救ってくれたのはつばきという少女だった。つばきもこの場所が何なのかはわからないが、「帰りたいという気持ちが強いのなら、その気持ちを忘れずに持ち続けてください」と一家にアドバイスする。
やがて色々な人に出会っていくが、多くの人たちは野原一家と同じく映画館で映像を見ているうちにこの町に来てしまった春日部の住人らしい。だが、ここに長く住んでいる間に家族や職業のことなど、以前の記憶がどんどん失われていくと分かった。しんのすけもぶりぶりざえもんの絵が描けなくなっていた・・。
しんのすけはまさお君やねねちゃん、ボーちゃんなどかすかべ防衛隊メンバーを発見していき、帰ろうと説得する。しかし、そこの生活を気に入っている人もいてなかなか心が一つにならない。
酒場で歌うみさえ、強制労働させられるヒロシ、そんな中で出会った人たちと考え、「ここは映画の中の世界だ。だがこの映画は途中で止まっている。だから映画が終われば(終わらせられたら)春日部に戻れる。」と分かってくる。西部劇の終わりは「悪役を倒して町に平和が戻る」ハッピーエンド。それを我々がやればいい。そう気づくと太陽が動き出した。止まっていた映画が動き始めたのだ。いつも馬で引きずりまわされていたオケガワ博士は、私の研究欲はこのためだったと、ヒーローになるパンツ5枚を完成させた。これを穿くのは誰か。それはかすかべ防衛隊の5人だが、まだ心は通い合ってなかった。博士は、心が一つになれば大きな力が出るという。反乱を起こした町人たちは行ってはならない地区へ行こうとする。何かの封印があるらしい。手引きしてくれるつばき、阻止しようとするジャスティス知事、手助けをしてくれる荒野の七人、汽車の進む先には・・・。
映画の中で、しんちゃんの性格が「女の人が好き。ただし高校生以上(笑)」と繰り返し出てくるのだが、つばきは14歳らしい。たぶん初めてしんちゃんが好きになった子どものおねえさん。服装がいかにも「春日部から来たおとなしく内気な(派手でチャラチャラした人でない)いいとこの女の子」みたいなので、最後にもそんなシーンが出てくるんだろうと思ったのだが、予想通りには行かなかった。でもこの子、たぶん見ている全ての人が好きになるような子。それなのにあぁなるのはとても悲しい。まぁ見てください。
荒野の七人をパロって出演させ、解説は水野晴郎(本人に無断で少し変えたキャラで使ったらしい)、数々の小ネタをちりばめ、非常によく作ってある。見始めてすぐ「これは傑作だ」と思ったが、見終わった今でもそれは変わらない。
しんちゃん映画は奥が深いと何度も書いたが、本当に素晴らしい。最近見たアニメ映画の中で、間違いなく最高の作品であり、まさに「群を抜いている」大傑作だ。
ランク:これ以上なにを求めますか。
暴力シーンやみさえをバカにして蔑むシーンなどあり、子どもが見る映画じゃ無いと思う。R-12指定にしたらと書いている人もいたが、私はR-40かR-45がいいと思う。荒野の七人のパロがわかる人が20代にいるとは思わない。オトナのための、それも少し年取った人のための映画だと思う。
さて、これからしばらくは寝る間もないぐらい忙しい日が続く。しばらくはネットに出られないだろう。一週間後には目鼻がついているかな。なでしこも見たいし、U-17もみたい。BSのバットマンも見たいが、それよりは1分でも早く(長く)寝たいと思うだろうな。