おかめと言うと忘れられないことがある。
子どもの頃だった。TVで一度だけ見たことがある。新人の歌手だった。
「憬れの歌手になってついにデビューと言うことになって、その時に事務所の社長に、『おまえオカメに似てるな』って言われてこの名前になりました。」
その若い女の子はけなげにも笑いながらそう言ってました。
「でもいいんです。オカメって元々美人の顔だったのだそうですから…。」
いやそんなことはないだろう。夢に見た芸能界でのデビューでこんな名前を付けられて、ただのさらしもんじゃないか。芸能界って厳しいんじゃなくてただ弱い人間をバカにしてあざけっているだけじゃないか。ひどい人間ばかりだ。
自分が子どもで無理解だったのか、その頃にありがちな正義感か、それとも真実か、私はこの「紅屋おかめ」と言う人を見てそう思った。そのデビュー曲は「泣くなおかめちゃん」。
♪泣くな 負けるな おかめちゃん あぁああっあぁ おかめちゃん~♪
かわいらしい顔をした子だった。言われればオカメに似ていた気もする。そう言うメイクもしていたのだろう。
インパクトのある名前と歌だったから話題にはなったと思う。歌も売れたのかも知れない。少なくともB盤コレクションなら上位に入ると思う。
それはわかるけど、やはり私にはこの命名は許せない。たとえ本人が話題作りにと望んだとしても、どうしても私には許せない。今でもオカメを見るたびにその気持ちがわき上がってくる。胸が痛くなる。本人の気持ちがどうかは知らないけれど。