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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

孤立 命絶った教師

2010年08月06日 | 格差社会
 《いま、先生は》 苦悩24歳 同僚は救えず
 ◆ 孤立 命絶った教師


 愛娘の計報が入ったのは、午前6時前だった。「百合子さんはいますか。車はありますか」
 警察の電話を受け、木村和子さん(56)は家の近くの公営駐車場に走った。見慣れたベージュの軽自動車は中が焼け焦げ、運転席で娘の百合子さんが亡くなっていた。
 24歳。遺書はなかった。

 5月、東京・神田駿河台の明治大学。「教師の苦悩と挫折から、希望と再生の回路を求めて」という題で開かれた集会で、静岡県の中学校の男性教師(53)がマイクを握った。「もう少し話を聞けていたら……」
 男性教師は、生前にボランティア活動を共にしていた百合子さんのことを語り始めた。その死は2004年9月29日。春に同県磐田市の市立小学校に採用されて、半年後のことだった。
 百合子さんは子どもの頃から先生が大好きだった。学生時代から取り組んだボうンティアでは、東南アジアのストリートチルドレンの支援にかかわったこともある。
 そして、教師に。32人の4年生のクラス担任を任された百合子さんは、実践記録に思いを残している。
 4・1 とても緊張した。責任の重さを感じると同時に、子どもたちを愛していこう、全力を尽くそうと心に誓った。
 しかし、ほどなく問題が多発する。母親に抱っこされて登校し、いすに座れない子。カンニングを注意されるとパニックになる子。鉛筆や下敷きなどの物隠しも続いた。
 5・7 いじわるをされ仕返しがこわくて何も言えない子や、円形脱毛症になりかけている子がいると、家庭訪問した親の話をきいて初めて知った。
 5・31 授業が下手だから…教室内の重い空気になんともいえない息苦しさを感じる。子どもを愛すること、できているのかな

 さらに苦しんだのが、他の教師たちとの関係だった。
 7月17日には、こんなメールを知人に送っている。

 「悪いのは子どもじゃない、おまえだ。おまえの授業が悪いから荒れるーーと言われ、生きる気力がなくなりそうに感じました。苦しくて。苦しくて。苦しくて。
 2学期に入った9月22日、教室でチャンバラごっこをしていた子の差し歯が傷ついた。翌日、百合子さんは泣きながら家で母に訴えたという。
 「同じ教室にいてなんで止められないんだ、問題ぱっかり起こしやがって、って言われた」「何回も学年会で助けてほしいと言っているけど、言ったときに来るだけで後がないんだよ」
 死の前日の9月28日。
 夜、百合子さんに変わった様子はなかった。母の手料理を食べ、テレビ番組を笑いながら見た後、車で出かけた。しばらくして帰宅し、畳に突っ伏した。
 それが、家族の見た最後の姿だ。車で出かけた時に灯油とライターを買っていたことは、後になって知った。
 学校はどう向き合っていたのか。
 百合子さんの父は、公務災害の認定を求める訴訟を起こしている。市の教育委員会を通じて当時の管理職らに取材を申し込むと「裁判には誠実に対応したいが、取材には応じられない」という答えが返ってきた。
 ただ、地方公務員災害補償基金の県支部の聴取に同僚らが語った記録などは残っている。
 「とにかく心配していた」「最初はみな同じ、と励ました」「自分の教室に行く前、百合子さんの学級の前を通り、様子をみることにしていた」
 百合子さんが発書を書き残している教師たちは、それぞれ反論している。
 例えば、「悪いのはおまえだと言われた」とメールに書かれた教師は「自分が書ったのは、悪いのは子どもばかりじゃない、子どもを変えたけれは自分が変わらなければ、ということ」と述べた。
 「誰も助けてくれない」と感じていた百合子さんと、他の教師たちとの大きな落差
 明治大学の集会で発言した男性中学教師は、そこにこそ命を絶った原因があると思っている。「学校は悩みをどこまで聴き、苦しさに共感していたのか」
 この教師の妻も中学教師で、やはり同僚の新人の女性が苦しんでいた。キレる男子に手を焼き、先輩教師から「女は使えねえ」と書われ続けた。立ちくらみがし、髪の毛が抜け、登校しようとすると心臓が痛んだ。4階建ての校舎を見上げて「あそこから飛び降りたら死ねるかな」とも思ったという。
 周囲が異変に気付き、夕食会を開いてじっくり語を聴いてことなきを得たが、例えばそんな具体的な支えが百合子さんにあっただろうか。
 男性教師の職揚では昨年、新人に加え、50代のベテラン教師が辞めていった。
 「今の学校は失敗しながら伸びていくゆとりがない。教師を育てられない学校が、子どもを育てられるだろうか
 教師が苦しんでいる。荒れる学級、保護者の苦情、終わりのない事務作業……。社会からの絶対的な信頼が過去のものになるなか、悩む姿を通して、いまの学校を見つめた。
『朝日新聞』(2010/7/19)

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