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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 憲法28条が息を吹き返した日

2025年04月03日 | 格差社会

 ☆ 「関生事件」京都地裁無罪判決の衝撃 (週刊金曜日)

竹信三恵子(たけのぶみえこ・ジャーナリスト、和光大学名誉教授)

 生コン業界のミキサー車運転手らの組合、「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)」をめぐる「関生事件」で2月26日、京都地裁(裁判長:川上宏)は検察側の主張をことごとく退け、湯川裕司委員長と武建一前委員長の完全無罪とも言える判決を言い渡した。
 検察側は3月12日、控訴したが、この判決が映し出したのは、「産業別労働組合を知らない社会」を背景にした逮捕・起訴の強引さであり、労働基本権を保障した憲法28条の空洞化だった。

「憲法聡条で認められた労働基本権に則(のっと)った活動がなぜ刑事事件になるのかと、何度訴えてもわかってもらえなかった。それが認められたことは素直にうれしい」。

 判決後の地裁で湯川委員長はこう言った。

 ☆ 「憶測にすぎない」

 関生事件は、「関生支部」の組合員のべ81人が、大阪・京都・滋賀・和歌山の2府2県の警察によって逮捕され、66人が起訴され、39人が無罪を争い、11人の無罪が確定している。
 今回、このうち京都での四つの事件について湯川委員長(事件当時は副委員長)ら2人が無罪となり、無罪はのべ19人に達し、有罪率99%とされるこの社会では異例の展開となった。

 労組の活動は憲法28条労働組合法で保護され、原則として刑事事件とはされない
 ところが、京都事件では、暴力団事件を担当する組織犯罪対策課が乗り出して、「ストライキなどで畏怖させて解決金を取ったのは恐喝」などと「反社集団」のように扱われ、指示したとされた湯川委員長らに殺人並みの懲役10年が求刑されていた。

 これに対し判決は、冒頭で関生支部を産業別労働組合(産別労組)と認め、検察側が主張するような「威圧的な言動」はなかったとし、その主張の一部については「証拠に基づかない憶測にすぎないというほかない」とまで述べた。

 検察側は、組合員の雇用保障を求めるストライキについて、経営側が以前から関生支部をこわがっていたことを利用した金銭要求が目的と主張してきた。
 だが、判決は「そもそもストライキをはじめとする争議行為は、その性質上、労働組合が使用者に一定の圧力をかけ、その主張を貫徹することを目的とする行為」であり使用者側が避けたいと考えるのは当然の前提と述べ、組合側の要求行為が「脅迫」とは言えない、としている。

 また、ストの対象となった「京都生コンクリート協同組合(京都協組)」は生コン会社の組合であって直接的な使用者ではないという主張も、実質的に使用者として機能していたとして退け、
 組合員による交渉での言動などについても、大きな組織を統括し、現場にもいなかった湯川委員長らが具体的に指示を出せたとは考えられないと述べた。

 検察側は、組合員の雇用保障や、子どもが保育園に通うための就労証明書の要求などまでが金品を求める脅しの材料のようにみなし、事件化してきた。
 それらを具体的な事実にもとづき、覆した判決だった。


 ☆ 組合員を「組員」

 「刑事事件のように扱われてきた行為を、労組としては当たり前と認めたまっとうな判決」(弁護団の永嶋靖久弁護士)が、「画期的」と受け止められたのは、それまでの有罪判決が、「労組とは企業のなかだけで賃金交渉するもの」とする企業別労組のイメージにもとつくものだったからだ。

 欧米では、企業を超えて活動し、業界全体の改善を通じて労働条件を引き上げる産別労組が主流だ。
 日本でも産別労組は合法だが、9割が企業別労組の日本の土壌では「社員がいない会社に押しかけて無理難題を言うかのように錯覚されがちだ。こうした土壌の中で、大津地裁では、組合員らが建設現場を回って違法行為や危険な状態の是正を求める「コンプライアンス(法令順守)活動」を「恐喝」などとし、湯川委員長に「懲役4年」の実刑を言い渡した。
 そこでは「労働組合のろの字も出ず」(湯川委員長)、裁判長が「組合員」を「組員」、団結権を「団体権」と言い間違えている。
 これらを「ささいな言い間違い」と笑い飛ばせないのは、そんな労組への知識不足が、検察側の主張の鵜呑(うの)みにつながった可能性が高いからだ。

 だが、中小零細企業が大半を占め、大手セメント会社やゼネコンの意向に左右される生コン業界では、会社を超えて業界が結束し、過当競争による乱売を食い止めて価格維持をはからなければ賃上げは難しい。そんな中で関生支部は産別労組の形を生かして改革派の企業と連携し、乱売を防ぐ活動も主導してきた。
 また、労働条件の改善を求めると、偽装倒産や非正規の雇い止めで逃げ切ろうとする会社も多く、業界の実態に合った現実的な要請から企業を超えた労組の形が選択された。
 有罪判決との分かれ目は、「産別労組」についての正確な理解の有無だったことを、京都地裁判決は浮かび上がらせた。


 ☆ 無罪判決に「評価が違う」

 26日の判決の翌週の3月7日東京地裁で開かれた国家賠償請求訴訟の法廷では、こうした産別労組に対する警察と検察側の無知と無関心が露呈した。
 この訴訟は、組合員たちが逮捕・長期勾留などによる人権侵害への補償を求めて起こし、7日は取り調べ中に組合脱退を強要したとされる検察官など4人が、証人として出廷した。

 その一人である警察官は、和歌山県広域生コンクリート協同組合(和歌山広域協組)の理事長が元暴力団員とされる男性を関生支部の事務所周辺に俳徊(はいかい)させ、抗議のため出向いた組合員らが威力業務妨害などで逮捕された「和歌山事件」を担当。
 供述書で「和歌山広域協組には関生支部の組合員はおらず、雇用関係がないのに交渉に出かけるのは本来の労働組合活動とは言えない」という趣旨を述べていた。
 法廷で原告側代理人から、「取り調べ当時は労働運動とは言えないと思っていたのか」と聞かれ、この警察官は、「はい」と答えた後、「今はいろいろ勉強している」と述べた。

 和歌山、大津の各事件(図表)を担当した検察官たちはいずれも、「関生支部が産別労組だということは知っていた」「その活動は労組としての活動だった」と述べた。
 だが、和歌山事件の検察官は、関生支部を産別労組と認めてこの事件を逆転無罪とした大阪高裁の判決について「評価が違う」と突っぱねた。

 また、組合員を取り調べる際、「あなただけでなく、どんどん削っていく」と言ったとされる大津事件の検察官は、「組合員を削るという意味ではなく、人が困るような行為は削ってよりよい組合になってほしいという意味だった」と弁明。

 また、「社会に戻った時にこうした活動を続けていくのか」など組合脱退要求と思われる発言をしたとされる大津事件の検察官も、「今後も活動を続けることの正当性を考えてほしかっただけで、脱退を求めたわけではない」と釈明し、いずれも「悪いことをしたとは思わない」と述べている。

 ポイントになる質問には「記憶にない」という言葉も頻出した。産別労組とは何かについての熟考も定見もないまま大量逮捕・起訴に踏み切り、組合脱退を求めた姿がそこから垣間見える。


 ☆ 「企業利益と政治」優先に

 それらは個人の無知だけによるものではない。そこには、戦前から続いてきた排除が「産別労組」についての記憶を社会から消し去っていった歩みがあるからだ。
 詳細は、新刊の拙著『増補版賃金破壊』(旬報社)に譲るが、戦前の内務省がストを企業別労組だけに認める政策を取り、1981年の大槻文平(おおつきぶんぺい)・日経連会長(当時)の発言でもこれは引き継がれた。
 同会長は「組合運動の範囲を超え」た組合があって、セメントの不買運動なども行なわれており、こうした動きは十分注意しなければならない」とし、「関生型運動に箱根の山を越えさせるな」と業界紙で危機感を表明しているからだ。
 そうした経済界の意志が、憲法や労働組合法を飛び越えて浸透し、「産別労組を知らない社会」につながっていく。
 だが、非正規労働者が4割近くに達した社会で、企業内だけの労組で働き手を守ることは難しい
 「賃下げニッポン」はこうしてできた。

 関生支部は、これらの動きをよそに、生コン価格の下落を防いで利益を回復させ、正社員化や賃上げの土壌をつくった。そこを見舞ったのが、今回の事件だった。
 第2次安倍政権の下で警察官僚が力を持ち、右派は何をやっても許されるという空気の中、組合についてのフェイク情報がSNSを通じて大量に拡散され、長期勾留による組合脱退の強要が行なわれた。
 関生事件は、兵庫県知事選や「人質司法」など、コロナ禍後に一般化した被害の予兆でもあった。

 過当競争の抑制で膨らんだ企業の利益は、事件を機に「労働者の賃金」に回らなくなり、阪神・オリックスの優勝パレードの際の大阪府への高額寄付など、「大阪維新の会」の下での政治へと回りつつある。
 関生事件は、その意味で、「労働者から企業、政治へ」資金の流れの変化を目指したものだった、とも見ることができる。
 こうした流れを反転させるカギとして、今回の判決の衝撃は小さくない。

 それは、忘れられていた「労働者の権利を保障した憲法28条」の存在を私たちに思い出させ、その息を吹き返させる第一歩となるからだ。

※たけのぶみえこ・ジャーナリスト、和光大学名誉教授。最新刊に『増補版賃金破壊一(旬報社)。

『週刊金曜日 1513号』(2025年3月21日)

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