《労働情報895号》
◆ 防災名目 駐屯地で生徒訓練
教育と自衛隊危うい接近
戦後教育は「学校は民主主義の訓練場」として出発した。ところが今や「ファシズムの訓練場」になろうとしている。
日教組は「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンを掲げて教育課程の自主編成教育運動を推進してきたが、その中心に「平和教育」が位置づけられてきた。ところが今、教育現場では、正反対の軍事教育とも言える「戦争への教育」が密かに進行している。この状況に対して日教組や全教などの教育労働組合は抗議文などを出しているが実質的な闘いを行っていない。
安倍政権下では自衛隊からの退職が相次いでいると報道されている。中高校生の若い段階から国防に対する意識を注入し、揺るぎない意識を持った青年を本気で育成しようとしている。
◆ 閣議決定翌日、全国の高校生に
7月1日に集団的自衛権の閣議決定がされた。その翌日に、全国の高校3年生の自宅に自衛隊募集のパンフが送付された。
パンフは数種類あり、自衛隊の各地方本部によって異なるが、その一つを見てみると、戦車や戦艦などの重兵器や隊員の写真が勇ましく並んでいる。一方、その写真の下に「平和のために」と書かれている。相矛盾する写真と言葉がパンフの中で同居している。安倍首相の「積極的平和主義」の主張なのだろうが、受け取った高校生はこれをどのように感じとるだろうか。
しかし、ここで問題なのは、高校3年生の住所をどのように知ったかである。防衛省に問い合わせてみると、各地方本部で住民台帳を閲覧し、写し取っているのだという。膨大な時間と労働力を要する作業だが、一部の地域では行政の協力も報告されている。
民間企業のリクルート活動ではできない住民台帳の利用を、自衛隊だけ特別扱いで認めてよいものか、疑問だ。
「教え子を再び戦場に送るな」の教員活動の原則からすればこれは決して許せないことである。しかし、教組の積極的な反対運動は見られない状況となっている。教組の運動は組織率だけでなくその理念も劣化してしまっている。
◆ 「職場体験」と称して
小・中学生の自衛隊駐屯地での「職場体験」が行われるようになったのは2000年頃からであった。2001年11月17日付「朝日新聞」は、2000年に自衛隊体験校が全国で450校あったことを伝えている。そして今日までの累計は1万件を超えることが確実視されている。自衛隊の駐屯地は全国に156ヵ所(奈良県以外)が存在し、そこで生徒の職場体験が行われている。
全国各駐屯地のHPにはその様子がアップされている。中学生が戦車に乗ったり、格闘訓練をしている様子をうつした写真で溢れている。中には中学生が格闘訓練し、ゴム製のナイフで殺す訓練までやっている(抗議を受け最近この画面は閉鎖されたが)。これらの体験を通して子どもたちの中に自衛隊に対する美化された意識が注入されていく。
この自衛隊施設への「職場体験」は、各学校から自衛隊施設に申請して実施されている。教育現場の中で自衛隊体験を積極的に進める動きが存在している。それは平和教育を推進する教育運動とは真逆の勢力の運動であり、言うならば「戦争への教育」の推進である。現在、東京をはじめ全国の学校で、平和教育に関する授業や展示が規制されてきている。戦前に戦争への道へと推進させていった状況が現実に進行してきている。
◆ 都教委幹部も訓練に同席
2013年7月28日の自衛隊朝霞駐屯地でのことである。都立田無工業高校の生徒34人が、早朝5時30分にたたき起こされた。軍事訓練の「非常呼集」であった。空襲などに備えて武装して呼集場所に集合するとのことである。
都教委は2012年から全都立高校で宿泊を伴う防災訓練を実施した。多くの学校が消防庁などと連携し、自校の体育館などで宿泊し、カンパンなどの非常食を食べながら消防庁の講話を聞いたりした。そんな中、田無工業高校では8月に朝霞駐屯地で自衛隊訓練をして、2月にも2年生全員の自衛隊訓練を夢の島の東京スポーツ文化館(BUMB)で実施した。
しかし、朝霞駐屯地への申請用紙には「隊内体験」と書かれており、防災訓練の文字は見あたらない。「隊内体験」のプログラムは大学生などに向けた自衛隊基礎訓練のプログラムである。夢の島(BUMB)には2年生の127名が参加したが、12人の自衛隊員が来て訓練をした。防衛省では広報活動として位置づけられ文書処理が行われていた。
また、同時に都教委・金子指導部長をはじめ16人の都教委職員が参加した。これは異例のことで、この自衛隊訓練が都教委の特別な事業であることがわかる。
今年は、大島高校が11月に神奈川県の武山駐屯地で自衛隊訓練を実施することが予定されている。
自衛隊と連携し、自校で講演を実施した学校は、今年既に4校にも達しており、2学期以降、更に拡大することが確実だ。
都教委は、教育ビジョンの中で6日間の「防災訓練」を計画しており、防災を中心とした学校の体制を構想している。それは同時に、管理と統制の教育への移行を意味している。戦前の国家体制を支えた教育現場が現実化しつつあるのだ。
『労働情報895号』(2014/9/15)
◆ 防災名目 駐屯地で生徒訓練
教育と自衛隊危うい接近
永井栄俊(「日の丸・君が代」強制反対・予防訴訟をひきつぐ会共同代表)
戦後教育は「学校は民主主義の訓練場」として出発した。ところが今や「ファシズムの訓練場」になろうとしている。
日教組は「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンを掲げて教育課程の自主編成教育運動を推進してきたが、その中心に「平和教育」が位置づけられてきた。ところが今、教育現場では、正反対の軍事教育とも言える「戦争への教育」が密かに進行している。この状況に対して日教組や全教などの教育労働組合は抗議文などを出しているが実質的な闘いを行っていない。
安倍政権下では自衛隊からの退職が相次いでいると報道されている。中高校生の若い段階から国防に対する意識を注入し、揺るぎない意識を持った青年を本気で育成しようとしている。
◆ 閣議決定翌日、全国の高校生に
7月1日に集団的自衛権の閣議決定がされた。その翌日に、全国の高校3年生の自宅に自衛隊募集のパンフが送付された。
パンフは数種類あり、自衛隊の各地方本部によって異なるが、その一つを見てみると、戦車や戦艦などの重兵器や隊員の写真が勇ましく並んでいる。一方、その写真の下に「平和のために」と書かれている。相矛盾する写真と言葉がパンフの中で同居している。安倍首相の「積極的平和主義」の主張なのだろうが、受け取った高校生はこれをどのように感じとるだろうか。
しかし、ここで問題なのは、高校3年生の住所をどのように知ったかである。防衛省に問い合わせてみると、各地方本部で住民台帳を閲覧し、写し取っているのだという。膨大な時間と労働力を要する作業だが、一部の地域では行政の協力も報告されている。
民間企業のリクルート活動ではできない住民台帳の利用を、自衛隊だけ特別扱いで認めてよいものか、疑問だ。
「教え子を再び戦場に送るな」の教員活動の原則からすればこれは決して許せないことである。しかし、教組の積極的な反対運動は見られない状況となっている。教組の運動は組織率だけでなくその理念も劣化してしまっている。
◆ 「職場体験」と称して
小・中学生の自衛隊駐屯地での「職場体験」が行われるようになったのは2000年頃からであった。2001年11月17日付「朝日新聞」は、2000年に自衛隊体験校が全国で450校あったことを伝えている。そして今日までの累計は1万件を超えることが確実視されている。自衛隊の駐屯地は全国に156ヵ所(奈良県以外)が存在し、そこで生徒の職場体験が行われている。
全国各駐屯地のHPにはその様子がアップされている。中学生が戦車に乗ったり、格闘訓練をしている様子をうつした写真で溢れている。中には中学生が格闘訓練し、ゴム製のナイフで殺す訓練までやっている(抗議を受け最近この画面は閉鎖されたが)。これらの体験を通して子どもたちの中に自衛隊に対する美化された意識が注入されていく。
この自衛隊施設への「職場体験」は、各学校から自衛隊施設に申請して実施されている。教育現場の中で自衛隊体験を積極的に進める動きが存在している。それは平和教育を推進する教育運動とは真逆の勢力の運動であり、言うならば「戦争への教育」の推進である。現在、東京をはじめ全国の学校で、平和教育に関する授業や展示が規制されてきている。戦前に戦争への道へと推進させていった状況が現実に進行してきている。
◆ 都教委幹部も訓練に同席
2013年7月28日の自衛隊朝霞駐屯地でのことである。都立田無工業高校の生徒34人が、早朝5時30分にたたき起こされた。軍事訓練の「非常呼集」であった。空襲などに備えて武装して呼集場所に集合するとのことである。
都教委は2012年から全都立高校で宿泊を伴う防災訓練を実施した。多くの学校が消防庁などと連携し、自校の体育館などで宿泊し、カンパンなどの非常食を食べながら消防庁の講話を聞いたりした。そんな中、田無工業高校では8月に朝霞駐屯地で自衛隊訓練をして、2月にも2年生全員の自衛隊訓練を夢の島の東京スポーツ文化館(BUMB)で実施した。
しかし、朝霞駐屯地への申請用紙には「隊内体験」と書かれており、防災訓練の文字は見あたらない。「隊内体験」のプログラムは大学生などに向けた自衛隊基礎訓練のプログラムである。夢の島(BUMB)には2年生の127名が参加したが、12人の自衛隊員が来て訓練をした。防衛省では広報活動として位置づけられ文書処理が行われていた。
また、同時に都教委・金子指導部長をはじめ16人の都教委職員が参加した。これは異例のことで、この自衛隊訓練が都教委の特別な事業であることがわかる。
今年は、大島高校が11月に神奈川県の武山駐屯地で自衛隊訓練を実施することが予定されている。
自衛隊と連携し、自校で講演を実施した学校は、今年既に4校にも達しており、2学期以降、更に拡大することが確実だ。
都教委は、教育ビジョンの中で6日間の「防災訓練」を計画しており、防災を中心とした学校の体制を構想している。それは同時に、管理と統制の教育への移行を意味している。戦前の国家体制を支えた教育現場が現実化しつつあるのだ。
『労働情報895号』(2014/9/15)
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