=論考 (週刊金曜日)=
◆ 迫られる公立学校教員の差別待遇の撤廃
日本の未来世代の育成が壁にぶつかった。
公立小中高の先生のなり手がない。無制限に働かされて、超過勤務手当もない「ブラック」業界という評判が立ってしまった。
最近でも、JNN(TBS系列)「教員の“ブラック勤務”問題」(2月12日)、NHK「あなたの先生は大丈夫?教師の過重労働その果てに何が」(4月27日)などで報道された。
教育の当事者である生徒と教員の双方が人として尊厳を認められ、健康と幸福を保障される必要がある。その一方である教員が過労死するほど酷使され、非人間的な扱いを受けるなら、学校は地獄になる。
原因は、1971年制定の「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)にある。公立学校教員の給料を4%割り増しする。だが、いくら働いても時間外手当を払わない。
時代の変化もあり、教員の残業は無限に増える。これは、労働基準法違反のはずだが、給特法があって実際は適用されない。
裁判に訴えると、「強い命令はなかった」「自主的な活動だ」などと言って退けられる。
国立学校や私立学校の教員とは異なる非人間的な差別待遇だ。憲法14条(法の下の平等)違反の疑いがある。
だが、内閣法制局による法制定時の憲法適合性の審査は通過した。政府も国会も、公立学校教員の職務と勤務態様が特殊だと、違憲の人権侵害はないと見たのだ。
しかし、給特法制定後、79年に批准され日本を拘束してきた社会権と自由権の国際規約に照らせば、給特法は条約違反であり無効と考えるしかない。
「ヒューマンライツ」を保障する国際法の分野で実践と研究を重ねてきた筆者からみると、憲法上の「人権」と国連憲章以下の条約が保障する「ヒューマンライツ」は、内容も保障手続きも違う。違憲でなくても、条約違反の場合はある。この問題はそのような事例の一つだ。
社会権規約7条(a)(i)は、「公正な賃金及びいかなる差別もない同一価値の労働についての同一報酬」という労働条件による賃金を保障している。
この条約は、被害者に対して、実際に勤務した残業時間に見合う賃金への権利を保障する。同規約は、国・地方自治体にこの権利の実現を義務付けている。憲法98条2項(国際法の遵守)の解釈上、条約より劣位にある給特法は、この権利義務を消滅させることはできない。
給特法は、自由権規約第26条(平等原則・差別禁止)に違反する。
同一の労働に従事している国立・私立学校の教員との差別待遇を正当化できない。被害者に対する給特法による差別を正当化できる合理性および客観性のある理由は存在しない。
憲法98条2項の解釈上、条約(法律より優位)に違反する法律は無効である。
給特法は単なる悪法ではない。条約違反の法律なのだから、即刻廃止すべきである。
『週刊金曜日 1378号』(2022年5月27日)
◆ 迫られる公立学校教員の差別待遇の撤廃
戸塚悦朗(とつかえつろう・80歳、弁護士)
日本の未来世代の育成が壁にぶつかった。
公立小中高の先生のなり手がない。無制限に働かされて、超過勤務手当もない「ブラック」業界という評判が立ってしまった。
最近でも、JNN(TBS系列)「教員の“ブラック勤務”問題」(2月12日)、NHK「あなたの先生は大丈夫?教師の過重労働その果てに何が」(4月27日)などで報道された。
教育の当事者である生徒と教員の双方が人として尊厳を認められ、健康と幸福を保障される必要がある。その一方である教員が過労死するほど酷使され、非人間的な扱いを受けるなら、学校は地獄になる。
原因は、1971年制定の「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)にある。公立学校教員の給料を4%割り増しする。だが、いくら働いても時間外手当を払わない。
時代の変化もあり、教員の残業は無限に増える。これは、労働基準法違反のはずだが、給特法があって実際は適用されない。
裁判に訴えると、「強い命令はなかった」「自主的な活動だ」などと言って退けられる。
国立学校や私立学校の教員とは異なる非人間的な差別待遇だ。憲法14条(法の下の平等)違反の疑いがある。
だが、内閣法制局による法制定時の憲法適合性の審査は通過した。政府も国会も、公立学校教員の職務と勤務態様が特殊だと、違憲の人権侵害はないと見たのだ。
しかし、給特法制定後、79年に批准され日本を拘束してきた社会権と自由権の国際規約に照らせば、給特法は条約違反であり無効と考えるしかない。
「ヒューマンライツ」を保障する国際法の分野で実践と研究を重ねてきた筆者からみると、憲法上の「人権」と国連憲章以下の条約が保障する「ヒューマンライツ」は、内容も保障手続きも違う。違憲でなくても、条約違反の場合はある。この問題はそのような事例の一つだ。
社会権規約7条(a)(i)は、「公正な賃金及びいかなる差別もない同一価値の労働についての同一報酬」という労働条件による賃金を保障している。
この条約は、被害者に対して、実際に勤務した残業時間に見合う賃金への権利を保障する。同規約は、国・地方自治体にこの権利の実現を義務付けている。憲法98条2項(国際法の遵守)の解釈上、条約より劣位にある給特法は、この権利義務を消滅させることはできない。
給特法は、自由権規約第26条(平等原則・差別禁止)に違反する。
同一の労働に従事している国立・私立学校の教員との差別待遇を正当化できない。被害者に対する給特法による差別を正当化できる合理性および客観性のある理由は存在しない。
憲法98条2項の解釈上、条約(法律より優位)に違反する法律は無効である。
給特法は単なる悪法ではない。条約違反の法律なのだから、即刻廃止すべきである。
『週刊金曜日 1378号』(2022年5月27日)
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