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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

日本の少女のリプロダクツヘルス・ライツ保障は途上国並みの危機

2021年12月28日 | 人権
  《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
 ◆ 「なぜガールズディが必要なのか」
   ~少女と若年女性支援の現場から

大谷恭子(おおたにきょうこ)弁護士

 ◆ 若草プロジェクトの始まり

 2010年、国連は、10月11日を国際ガールズディと定め、2011年から毎年、少女たちの人権と尊厳の啓発に取り組んでいる。
 国連は、1975年に3月8日を国際女性ディと定め、女性の人権と尊厳について啓発し続けてきた。女性ディがあるのになぜガールズディが必要なのか、それは女性の中でも特に少女固有の問題があるからであり、国際社会はこれを看過しえなかったからである。
 実際、世界の貧困国・地域やいわゆる後進国、因習の残る国・地域での女性の地位は低く、差別と人権侵害、性被害を含む暴力、虐待は目を覆うものがある。
 ただし、これは世界のどこか遠い国と地域の問題、日本は大丈夫、ここまでひどくはないと思われていた。
 2015年、瀬戸内寂聴さんと「女性のために何か役に立っことをしよう」との話しから始まった若草プロジェクト
 この時もまだ日本の少女たちの現状に今ほどの危機感を持っていなかった。
 話はトントンと法務省の少年の保護更生を担当する部局につながり、そこで、(日本の)少女が危ない、今なんとかしないと取り返しがつかなくなる、と現場の心ある人たちの危機感と焦燥をきき、私自身が少年事件を通じて出会う少女たちに対する近時の違和感は、私だけの経験ではなかったのかと実感した。
 この流れから、2016年4月、京都嵯峨野の寂聴さんの寂庵でキックオフの研修会を持った。
 日本の少女や若年女性たちの何がどう問題なのか、そして何をするべきなのか、これについて、全国の支援現場の実践者に集まってもらい、丸一日、濃厚な研修を行った。
 全国の女性支援現場-性被害、薬物依存、AV被害、ネット被害等々、それぞれが専門家として、長く支援に関わってきた各地域の歴戦のつわものたちが一堂に会して、熱い討議が交わされた。
 そこで出された内容は、直接当事者の声を聞き取とること、つながること、つなぐことのワンストップ支援であり、そして、彼女たちの居場所の必要性だった。
 家庭や学校や地域に居場所のない少女や若年女性たちにとって、緊急避難ができて、安心できて、次のステップを踏み出せる場所。これがないことによって、彼女らは風俗やネットの深い闇に吸い取られていく。
 ◆ ライン相談・若草ハウスから保健室へ

 私たちはさっそくライン相談をはじめ、2018年には、シェルターとして若草ハウスを立ち上げ、さらに日中の居場所支援として、2020年にはまちなか保健室を開室した。
 直接当事者の声を聞き、必要な子には安心安全に過ごせるシェルターを提供し、さらに、今緊急に家を出るほどの必要のない子には、学校の保健室が彼女らのシェルターだったようにまちなかにもそんな場所をつくり、ホッとできて、信頼できる人に相談できて、有益な情報も入手できて、少し落ち着いたら教室にも参加してエンパワーメントができる、そんな場所としてまちなか保健室を開室した。
 これらはすべて、目の前の必要性に迫られ、順次拡張していったものであり、最初から想定したものではない。
 相談から支援へ、その道をつくるためには、やはり自前のシェルターが必要だった。
 定員4人の小さなお家。この時でさえ、私は、本当に少女や若年女性に特化したシェルターなんて需要があるのかしら、来てくれる子いるのかしらと思っていた。
 開所以来、常にほとんど満室。緊急一時入所で1泊で済む子もいるけど、大体3か月から半年、長い子は1年以上いる。
 今までで一番若い子は14歳、上は22歳、一番多いのは18・19歳。18・19歳-この年齢は人生の岐路、進学か就職か、どっちの方向に進むのか、安心安全な生活を取り戻せば今度はそのことにぶつかる。
 若い子は、落ち着けば勉強したいと思うし、資格もほしい。そのためにはスタッフは.慣れない学習支援に取り組み、学費の相談にのり、奨学金窓口に同行し、自立後の生活相談に乗る。この中で、保護者の経済的支援が切れることで本人の夢を断念せざるを得なくなることも知る。
 今差し迫った危機がないなら、何とか保護者のもとにいたままで、自分の生活を取り戻せる道はないのか、その中で出てきたのがまちなか保健室である。まちなか保健室は、2020年4月、コロナの第一次緊急宣言下に開室した。
 コロナは彼女らを直撃した。もともと家庭に居場所がなく、なんとか騙し騙し、父親が会社に行っている間はホッとできたのが、スティホームでますます居づらくなり、彼女らは緊急事態下であるにもかかわらず、家を出ざるを得なかった。
 私たちは、満室のハウスには迎えることができず、とりあえずは保健室で面談しつつ、提携した宿坊や少年のための自立援助ホームの空いている2階を緊急の居場所として利用した。
 保健室は、秋葉原に近い場所にもうけた。なぜなら、秋葉原は、いつの間にか少女の街に変貌し、街筋には若い女性たちが常に客引きをしていたからである。彼女らはコロナ禍でも街に立っていた。
 私たちは、「何か困ったことない?近くに保健室があるからね」と秋葉原の夜回りをはじめ、1人でもいいからふらりと立ち寄ってきてくれたらいいと願った。ライン相談、若草ハウス、まちなか保健室、これらは一人ひとりが抱えた多様な今ある困難に対処し、1人ひとりに寄り添い、支援する活動である。
 それは、社会全体から見たら氷山の一角であり、私たちの出会える人たちはそのほんの一握りである。出会え、繋がれたことの喜びはあるが、一方、決して終わりのないもぐらたたきをしているような虚しさもある。
 ◆ 何をなすべきか

 日本はガールズディが無くても大丈夫、と思っていたことが、若草を始めて、ものの見事に勘違いであったことを痛感している。
 相対的貧困、いつまでも変わらぬ男女の賃金格差と女性の社会的地位、そして差別と尊厳の稀薄さと裏腹の男に甘く女に厳しい性的規範。
 今や公的福祉をしのぐかのごとく、困難の中にいる女性に居場所と糧と福祉さえも提供する巨大な性産業
 売春防止法は骨抜きで男に甘く、女性の尊厳を守る側面を有してはいるものの、街娼行為を取り締まる法規であり、社会の安寧秩序の維持をも目的としている。
 風俗業を取り締まる風営法は、業者に余りにも甘い、というより、性的搾取と女性の尊厳を軽視しながら変貌していく業務実態を合法化し続けている。
 「トルコ風呂」に始まり、いまやデリヘルとして、自宅でもホテルでも手軽に性的行為(少なくとも口、肛門を使った性交類似行為は合法的に、膣性交はお客さんとの自由恋愛として)が提供されている。
 結果、児童福祉法児童買春禁止法等の児童としての保護が切れた18歳以降の少女たちが、日々危険にさらされていると言っても過言ではない。
 保護が切れた直後の18歳が一番ウリであり、その分リスクが高くなるのは常識だ。また、JKビジネスや援交、パパ活等々風営法の対象にもならないこともまかり通っている。
 これらは女性の性を売り物にしているのであり、人身取引の一種であると国際社会から警告されている。
 なぜこんなことがまかり通っているのか。一番の問題は、日本の社会の性的規範が緩く、女性や少女の性的尊厳を護ることについて、あまりにも無関心無自覚な点にあるのではないか。
 強制性交罪の成否を含め、性的規範の大本でもある売春防止法、風営法、これらも含めた性的規範のあり方が議論がされるべきであると思う。
 そしてこれに関する無関心さの根は、実は日本社会が、リプロダクツヘルス・ライツに対する無関心にある。
 性と生殖に関する健康と権利、これは人間関係の最も基本的な権利である。
 これが社会に浸透して初めて、性に関する規範が確立しうるはずである。未だその前提条件たるこの権利が浸透されていない。
 遠回りかもしれない。しかし幼年期から、集団生活を営むようになったら直ちに、学校生活になったら必須として、年齢に応じて理解されやすく、時機を逃すことなく、男女を問わずリプロダクツヘルス・ライツを教育すること。人と人の基本的関係である性的関係が平等にならずして、どうして平等な社会が実現しよう。
 これへの取り組みが日本は後進国並みに遅れているのである。これこそが、少女たちの困難を生んでいる大きな原因であり、日本が取り組まなければならない喫緊の課題である。日本のガールズディ、やるべきことはたくさんある。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 141号』(2021.12)

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