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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 中学校新教科書の内容と教科書検定について

2024年07月19日 | こども危機

 ★ <談話>真実と平和を学ぶ、よりよい教科書を子どもたちに

2024年5月20日
子どもと教科書全国ネット21 事務局長 糀谷陽子

 今年は中学校教科書の採択替えの年です。文部科学省は3月22日、検定申請された103点の中学校教科書のうち100点の合格を発表し、4月19日に、3月時点で「決定未了」となっていた2点の「合格」を発表しました。

 今回の教科書検定の状況や、採択の対象となる新教科書の内容分析は、5月21日から始まる教科書検定と見本本の公開、各採択地区での展示会の開催を待たなくてはなりませんが、各採択地区でのとりくみが始まることから、この間の報道と市販されている一部の教科書をもとに、中学校新教科書の内容と教科書検定についての考えを述べます。

1.QRコンテンツの増加は、子どもの学びを深めるか?

 今回の検定結果にかかわって最も大きく報じられたのが、二次元コード(「QRコード」)と、それをタブレット端末などで読み取って利用することのできるコンテンツ(以下「QRコンテンツ」)の数が、大幅に増加したということでした。これまで紙の教科書に掲載していた内容をQRコンテンツに移したため、平均のページ数が減った教科もあるようです。

 QRコンテンツの内容は、教科書の題材を補完する動画やアニメ、ドリルの問題演習や英語の発音練習ができるもの、生成AIの「アドバイザー」が質問に答えるなど、多様です。採択の際、「QRコードがたくさんあれば、子どもの学習も深まるし、先生たちも助かるのではないか」といった意見が出ることが予想されます。

 しかし、「深く学ぶには、能動的に情報を集めるとりくみも必要」「デジタルで読むより紙で読んだ方が定着しやすいとの研究結果もある」などのコメントもあるように、QRコンテンツを利用することが子どもの「主体的な学び」につながるわけではありません。教師は、授業の前に一つひとつのQRコンテンツを確認しながら、図書館の書籍や新聞、実際の体験なども含め、どのような方法での学びが子どもにとって最善なのか、よく考えなくてなりません。

 また、QRコンテンツが「教科書検定」の対象外とされることから、文部科学省の担当者が「問題のあるコンテンツが子どもの目に触れるようになる可能性もある」とコメントしたと報道されています。これまでにも、防衛省・自衛隊のキッズサイトにつながって自衛隊の宣伝動画を視聴するQRコンテンツについては、学習教材としてふさわしくないと批判の声があがっています。しかしながら、QRコンテンツの内容も含めて「十分に点検できるルールを検討すべき」などの論調については、学習内容の統制強化につながるようなことを求めるべきではないと考えます。

 さらに、QRコンテンツをつくるためには膨大な手間と時間がかかることから、「資本力のある教科書会社が有利になっていくのではないか」との指摘もあります。このような形で教科書の寡占化がすすんでしまうことは、決して子どもの学びにとってよいことではありません。

 以上のような問題をふまえて考えれば、QRコンテンツに振り回されることなく、紙の教科書の記述内容をしっかりと比較・検討し、子どもにとってよりよい教科書を採択していくことが重要ではないでしょうか。

2.ジェンダー平等、性の多様性、家族のあり方に関する記述の増加

 もう一つの報道の中心は、ジェンダー平等や性の多様性、家族のあり方に関する記述が増加したことでした。

 ジェンダー平等については、賃金や家事の時間、国会議員の数などに「男女差が見られる」という記述や、ジェンダーギャップ指数への言及などがありました。性の多様性については、「性には『男性』『女性』という『体の性』以外にも、『心の性』や『好きになる性』、『社会的な性』など、いろいろな『ものさし』があります」などの記述や「LGBTQ+」の用語解説など、学習指導要領の範囲を超える内容が、「発展」のページに掲載されています。性的少数者の経験をとりあげた題材も数多く見られます。こうしたことは、この間の運動の広がりや高まりの反映であり、歓迎すべきことと考えます。

 家族のあり方についても、3世代が一緒にくらす「ちびまる子ちゃん」や血のつながりのない家族も同居する「名探偵コナン」など、さまざまな形態の家族を紹介したり、「ふたりママのいえで」という絵本が紹介されたりしています。しかし、それらについて「学習指導要領に照らして、扱いが不適切」との検定意見がつき、「法律上の親子関係や夫婦関係ではなくても、お互いに家族のような意識をもって暮らしている場合もあります」という記述が削除されてしまいました。現実には、さまざまな形態の家族が存在しているにもかかわらず、多様な家族のあり方を認めない検定意見や、その大元にある学習指導要領については、早急に見直しが必要です。

3.「政府の統一的な見解に基づく記述」を求める教科書検定が続いている

 今回の検定意見の総数は4312件で、前回より463件減少しました。これは、学習指導要領改訂後2度目の検定であることが一つの要因だと考えます。

 しかし、「日本もウクライナ難民を受け入れました」という記述に「難民として受け入れたわけではない」との検定意見がつき、「ウクライナ避難民」と修正、福島第一原発における「処理済み汚染水」に「処理が完了しているのか、まだ汚染されているのか判断しにくい」との検定意見がつき、「汚染水を処理した水」に修正、Jリーグの「ホームタウン活動」の記述に「社会に尽くした先人や高齢者に尊敬の念を深める観点が読み取れない」との検定意見がつき、高齢者への「尊敬の念や感謝の気持ちを持ちながら」を追加など、「政府の統一的な見解に基づく記述」と、細部にわたって学習指導要領通りの記述を求める教科書検定が続いていることがわかります。

 一方、領土問題に関する検定意見がほぼなかったことについて、「文科省がどうチェックするか見通しがついているので、あえて『地雷』を踏むような書き方はしない」という編集者のコメントが報道されていました。

 また、2021年に、「従軍慰安婦」「(朝鮮からの労働者を)強制連行」という用語は「教科書として不適切」という閣議決定によって、検定合格済み・配付済みの教科書まで、記述の修正を事実上強制されたことの影響の1つと考えられますが、「強制連行」にかかわって、「朝鮮人や中国人を徴用」という現行版の記述を「日本は国民徴用令に基づき…朝鮮人を徴用」「中国人なども動員」と、「当時、朝鮮は日本の一部だったのだから」という日本政府の見解に沿った記述に書き替えた教科書がありました。

 このようなかたちで政府の意向に沿った記述が増えていくことは、子どもたちが歴史の真実を学び、世界の人々とともに平和な社会をつくっていくための学びを保障する上で、重大な問題だと言わざるをえません。検定のプロセスの最後まで「合格」が確保されない現行の教科書検定制度と、その運用の改善が強く求められています。

4.令和書籍の「国史教科書」が合格、歴史・公民の3分の1が、子どもに手渡したくない「危ない教科書」に

 2001年以来、中学校の社会科で「新しい歴史教科書をつくる会」「日本教育再生機構」が編集した教科書が、採択の対象とされるようになりました。教科書ネットは、これらの教科書は戦争を讃美し、憲法改正を押し進める「危ない教科書」であるとして批判を強めてきました。今回も歴史、公民それぞれで育鵬社自由社が採択の対象となっていますが、それに加えて令和書籍の「国史教科書」2点が3月段階で「決定未了」、4月に「合格」となりました(その後、採択にあたり、1点取り下げ)。したがって、歴史は9点のうち3点、公民は6点のうち2点が、子どもに手渡したくない「危ない教科書」です

 令和書籍の教科書を編集した竹田恒泰氏は、2017年に教科書執筆を開始し、2018年以降4回不合格となり、その度に『文部科学省検定不合格教科書』としてネット販売を行ってきました。直近に発売された第5版の「教科書」は、縦書きで500ページもあり、カラーのページがほとんどないなど、他の教科書と大きく異なっています。そして、以下のように子どもの学習のための教材としては、全く不適切な内容の「教科書」です。

 第一に、中学校の歴史は日本史だけでなく世界史も学ぶことになっているにもかかわらず、「教科書」の名称を「国史」としています。そして、「皇室は現存する『世界最古の王家』とも言われます」として、冒頭に歴代天皇の皇位継承図を載せ、本文を「国生みの神話」から始めるなど、「天皇を軸とした」記述となっていることです。竹田氏は、それによって「歴史の連続性をより実感できるよう工夫」したと述べていますが、世界と日本の歴史を学ぶための教科書として全くふさわしくありません。国会で「排除」「失効」決議された教育勅語を肯定的に扱っていることも重大な問題です。

 第二に、戦争の真実を伝えていないことです。旧日本軍の零戦や戦艦大和の絵を大きく掲載し、真珠湾攻撃の記述に「日本の快進撃」と見出しをつけ、沖縄戦についても「志願というかたちで学徒隊に編入」、「沖縄を守るために、…2800人以上の特攻隊員が散華しました」「逃げ場を失って自決した民間人もいました」など、「戦前の皇国史観を彷彿とさせる」(新城俊昭沖縄大学特任教授)書き方です。

 第三に、「日本軍が朝鮮の女性を強制連行したという事実はなく、また彼女らは報酬をもらって働いていました」(コラム「蒸し返された韓国の請求権」より)などと、河野談話を完全に否定する記述があります。検定において近隣諸国条項は、どのように生かされたのでしょうか。

 前回、令和書籍の「国史」が不合格になったときは、「学習指導要領に示す社会科の目標に一致していない」など、この「教科書」全体の根本的な問題が指摘されていました。今回の「国史」は、上記の3点を見ても、不合格になった時の記述と比べて大きな差異はありません。それにもかかわらず、なぜ「合格」となったのか、大きな疑問です。

 すでに、「令和と比べ、自由社は『中道』です」というキャンペーンが始まっていると聞きます。令和も、自由社も、育鵬社も、「戦争を讃美し、憲法改正を押し進めるような教科書は、1冊たりとも子どもに手渡さない」ためのとりくみに全力を挙げていきたいと考えます。

5.子どもと一緒に教科書を使う教職員と保護者、市民の声にもとづく採択を

 この間、議会での質問や議員の「活動報告」などにおいて、現在、採択されている教科書では「国を愛する態度を養う」ことができないと批判し、自由社や育鵬社の教科書の採択を求める動きが、いくつかの地域から報告されています。

 しかし、教科書の採択など教育内容にかかわる事柄は、政治の場で決着すべき問題ではありません。教科書を使う主人公は子どもたちです。子どもに最も近い所にいて、子どもと一緒に教科書を使う教職員と保護者、市民の声にもとづく採択が行われるべきです。教科書ネットは、教職員のみなさんが見本本を手に取ってその内容を比較・検討して報告書を作成したり、保護者・市民のみなさんが見本本の展示会で意見を寄せたりしたものが、採択にあたって十分尊重され、公開の場で民主的な採択が行われるよう、全国の各採択地区のみなさんと連携してとりくみます。

 特に、改善を求めたいのは見本本の扱いです。現行では、文科省の通知に記載された上限の数を教科書発行者の責任で送付することになっており、発行者によってはすべての採択地区に上限の数を送ることができません。また、数が限られているために、学校回覧の日数や採択地区の展示会の期間、会場が限定されており、教職員も保護者、市民が見本本をじっくり比較・検討するための条件は、厳しいものがあります。子どもにとってよりよい教科書を採択できる条件の一つとして、文科省の負担で十分な数の見本本を各採択地区に送付するしくみに改めることを求めます。

 昨年の小学校新教科書の採択の際、どの教科の教科書にも、「問いを立てる→調べる→まとめる→発表する」など、授業の流れが詳細に示され、話し合いで出す意見まで記載されていることが報道されました。教科書ネットは、そのことについて、教師の専門性の発揮や子どもたちの主体的で楽しい学びを保障する観点から、批判的に検討しました。このことが、中学校の教科書においても同様かどうかを含め、教科書の比較・検討をすすめていきます。そのまとめを、学習指導要領と教科書検定という“二重のしばり”の中において、少しでも子どもたちにとってわかりやすく、楽しく学べる教科書をつくろうと奮闘する編集者のみなさんと共有し、よりよい教科書づくりにつなげていきたいと考えます。

『子どもと教科書全国ネット21』(2024年5月20日)
https://kyokashonet21.jimdofree.com/%E5%A3%B0%E6%98%8E-%E8%AB%87%E8%A9%B1-%E9%9B%86%E4%BC%9A/2024%E5%B9%B4%E5%A3%B0%E6%98%8E/


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