《安倍政権が推進 アブない道徳教育(日刊ゲンダイ)》
◆ 大人も答えられない「正しいあいさつ」を小2に押しつけ
悲願の憲法改正とともに、安倍首相が執心するのが教育改革だ。初入閣した側近の柴山昌彦文科相が教育勅語を巡り、「道徳などに使うことができる分野は十分にある」と発言して物議を醸したが、あれは紛れもない安倍の本音だ。安倍政権の旗振りで始まった道徳の教科化に潜む危険性を元文部官僚がひもとく。
この問題、お分かりになるだろうか。
この問題が載っているのは、教育出版が発行する小学校2年生用の道徳教科書だ。
今年4月から小学校、来年4月から中学校で道徳が「特別の教科」と位置づけられることになり、算数や国語のように文科省の検定した教科書が使われるようになった。これを、「道徳の教科化」と呼ぶ。
なぜ「特別の教科」かというと、他の教科とは異なり、時間割に「道徳」と定められた時間だけでなく、学校生活のあらゆる場面で学ぶべきものとされているからである。また、中学校の場合、教師は英語、数学などそれぞれの教科の免許が必要なのに、免許と関係なく担任教師が指導できるからでもある。
「道徳の教科化」を強力に推進したのは安倍政権だ。
第1次政権の2006年に首相直属の「教育再生会議」を立ち上げ、07年に道徳の教科化が提言された。そのときは文科省の慎重論によって見送られたが、12年発足の第2次政権になるやいなや、13年には首相直属の「教育再生実行会議」の提言を受け、教科化の準備が始まる。そして今年度の実施に至ったのである。この経緯は、後で詳しく書くつもりだ。
問題はいよいよ始まった道徳の授業の内容である。
これまで文部科学省は価値観の押しつけにならないよう「考え議論する道徳」にしなければならないと公式に説明してきた。
これは、「子どもが常に自己の生き方を見つめながら、みんなで多様な視点から話し合い、語り合うことを通して自己のよりよい生き方を考えていく学習」なのだという。
なのに、冒頭の問題を小2の児童に真剣に考えさせ、正解を教え込んでいるとしたら空恐ろしい。挨拶の大切さを考えさせるのはいい。挨拶すると気持ちがいいことを実感させるなら、なお結構だ。
しかし、大人でさえ知りもしない「礼儀正しい挨拶のしかた」を3択で選ばせ、正解不正解を教えるというのは2のやり方しか認めないことになり、明らかに押しつけではないか。
この連載では、今行われている道徳の授業や教科書の問題点を徹底的に暴いていきたい。
※寺脇研 京都造形芸術大学客員教授
1952年、福岡市生まれ。ラ・サール中高、東大法学部を経て、75年に文部省(当時)入省。初等中等教育局職業教育課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年に退官。ゆとり教育の旗振り役を務め、“ミスター文部省”と呼ばれた。「危ない危ない『道徳教科書』」など著書多数。
『日刊ゲンダイ』(2018/11/20)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/241995
◆ 大人も答えられない「正しいあいさつ」を小2に押しつけ
寺脇 研(京都造形芸術大学客員教授)
悲願の憲法改正とともに、安倍首相が執心するのが教育改革だ。初入閣した側近の柴山昌彦文科相が教育勅語を巡り、「道徳などに使うことができる分野は十分にある」と発言して物議を醸したが、あれは紛れもない安倍の本音だ。安倍政権の旗振りで始まった道徳の教科化に潜む危険性を元文部官僚がひもとく。
この問題、お分かりになるだろうか。
つぎの うち、れいぎ正しい あいさつは どのあいさつでしょうか。私も分からなかった。どれも礼儀正しく思えるもの。でも正解は2なのである。「語先後礼」というのだそうだ。
1 「おはようございます。」といいながら おじぎを する。
2 「おはようございます。」といった あとで おじぎを する。
3 おじぎの あと「おはようございます。」という。
この問題が載っているのは、教育出版が発行する小学校2年生用の道徳教科書だ。
今年4月から小学校、来年4月から中学校で道徳が「特別の教科」と位置づけられることになり、算数や国語のように文科省の検定した教科書が使われるようになった。これを、「道徳の教科化」と呼ぶ。
なぜ「特別の教科」かというと、他の教科とは異なり、時間割に「道徳」と定められた時間だけでなく、学校生活のあらゆる場面で学ぶべきものとされているからである。また、中学校の場合、教師は英語、数学などそれぞれの教科の免許が必要なのに、免許と関係なく担任教師が指導できるからでもある。
「道徳の教科化」を強力に推進したのは安倍政権だ。
第1次政権の2006年に首相直属の「教育再生会議」を立ち上げ、07年に道徳の教科化が提言された。そのときは文科省の慎重論によって見送られたが、12年発足の第2次政権になるやいなや、13年には首相直属の「教育再生実行会議」の提言を受け、教科化の準備が始まる。そして今年度の実施に至ったのである。この経緯は、後で詳しく書くつもりだ。
問題はいよいよ始まった道徳の授業の内容である。
これまで文部科学省は価値観の押しつけにならないよう「考え議論する道徳」にしなければならないと公式に説明してきた。
これは、「子どもが常に自己の生き方を見つめながら、みんなで多様な視点から話し合い、語り合うことを通して自己のよりよい生き方を考えていく学習」なのだという。
なのに、冒頭の問題を小2の児童に真剣に考えさせ、正解を教え込んでいるとしたら空恐ろしい。挨拶の大切さを考えさせるのはいい。挨拶すると気持ちがいいことを実感させるなら、なお結構だ。
しかし、大人でさえ知りもしない「礼儀正しい挨拶のしかた」を3択で選ばせ、正解不正解を教えるというのは2のやり方しか認めないことになり、明らかに押しつけではないか。
この連載では、今行われている道徳の授業や教科書の問題点を徹底的に暴いていきたい。
※寺脇研 京都造形芸術大学客員教授
1952年、福岡市生まれ。ラ・サール中高、東大法学部を経て、75年に文部省(当時)入省。初等中等教育局職業教育課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任し、2006年に退官。ゆとり教育の旗振り役を務め、“ミスター文部省”と呼ばれた。「危ない危ない『道徳教科書』」など著書多数。
『日刊ゲンダイ』(2018/11/20)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/241995
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