★ 「給特法」廃止と現場の意識改革が不可欠 (日刊ゲンダイ)
教育社会学者、名古屋大学大学院の内田良教授
いま、公教育が危機にさらされている。教員の長時間労働が常態化しているのだ。日本教職員組合が昨年発表した調査では、小中学校や高校教員の時間外労働の平均が、「過労死ライン」の月80時間を超えているという。特に問題視されているのが、公立学校教員に対し、残業代を支給しない代わりに月給4%を上乗せして支給する「給特法」だ。同法が長時間労働を容認し“定額働かせ放題”の温床になっていると指摘されている。半世紀ぶりの見直しで上乗せの4%が10%に引き上げられそうだが、根本的な解決にはならない。この問題に詳しい名古屋大学の内田良教授に話を聞いた。【全2回の前編】
★ コストや労務管理の概念が欠落している
──教員の労働環境が悪化した背景にはまず、1971年に制定された教職員給与特別措置法(給特法)の問題が大きい。
「実際の労働時間に関係なく、一定量のみなし残業代を支給するシステムをつくったことで、定時や残業という概念が教育現場になくなってしまった。一般企業であれば残業代というコストが発生するので、おのずと時間外労働にブレーキがかかります。一方で、学校ではいくら教員が勤務時間外に働こうと、『給特法』によって月給の4%以上のコストは発生しない。そのため、コストの視点が欠落し、1970年代から一般企業ではタイムカードが普及する中、学校では労務管理という概念がなくなってしまいました」
──先月、文科省の中央教育審議会(中教審)の特別部会が、改善策として「給特法」の上乗せ分を10%に引き上げる提言をまとめた。しかし、教育現場では「給特法」自体にメスが入らなかったことに失望の声が広がっている。
「教員は別にお金が欲しいのではなく、早く家に帰りたいだけ。『給特法』が制定された1971年当時と比べて、教員の仕事は増大している。長時間労働に抑止力がかかるような、時代に即した法律の制定が不可欠です」
★ “聖職者メンタリティー”も共犯関係
──問題は「給特法」だけではないという。
「“聖職者メンタリティー”ともいうべき教員特有の考え方も、長時間労働に影響しています。日本の教育現場では、教員はお金や時間に関係なく、子供のために献身的に働くべきだという考え方が根強い。そのため、教員は私生活を犠牲にしてでも、部活動や学校行事、課外活動などに多くの時間を割いてしまう」
──聖職者メンタリティーも「給特法」と共犯関係になり、教職員の労働環境は悪化していった。そのことを象徴するような話がある。
「ある小学校が、コロナ禍で週に2回にしていた掃除の時間を、元の週5回に戻そうというのです。掃除が週2回になってもそこまで困ることではありませんし、働き方改革に逆行しています。掃除は1年生から6年生までみんなが協力するという貴重な機会で、教育的意義があるというのですが、教員40人で1日15分の掃除を週3回分増やすとして本来かかるはずの人件費を計算すると、年間300万円分のコストが発生します。労働時間と賃金がリンクしていないからこそ、いまだにコストの視点が欠落し、教育的意義のみで議論してしまう。現場の教員を責めるつもりはないのですが、これでは働き方改革の議論は進みません」 =【後編】につづく
(聞き手=橋本悠太/日刊ゲンダイ)
▽内田良(うちだ・りょう) 1976年、福井県生まれ。名古屋大学大学院教授。専門は教育社会学。学校リスク(事故や長時間労働など)の調査・研究、啓発活動を行っている。
『日刊ゲンダイ』(2024/06/09)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/341201
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