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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

形は検定を受けた民間発行の教科書でも、実質的には国定教科書になる制度変更

2015年09月08日 | こども危機
 ● 道徳の教科化に便乗した
   教科書検定制度の改悪を許すな

吉田典裕(子どもと教科書全国ネット21常任運営委)

 ● はじめに
 本ニュース6月号で、道徳教育について論じましたが、道徳の教科化と並行して教科書検定制度の改悪が進められている事実はほとんど知られていないのではないでしょうか。本号では、この問題について紹介しておきたいと思います。
 7月23日、文部科学省教科用図書検定調査審議会(検定審)は「『特別の教科道徳』の教科書検定について(報告)」を公表しました。この「報告」は、実は道徳だけではなく他の教科にもかかわる重大な内容が含まれています。それが教科書検定制度の改悪です。
 ● 検定審議会「報告」で教科書検定制度改悪を提言
 「報告」の内容は後で述べることとして、まず「報告」に至るまでの経過を確認しておくことにします。
 5月19日、「平成27年度教科用図書検定調査審議会総会(第2回)」が開かれ、「『特別の教科 道徳』の教科書検定について(審議要請)」が配付されました(要請者は下村文部科学大臣)。この審議要請には、その名称と違って実は2つの要請項目がありました。
 一つはもちろん道徳の教科書検定に関することで、「『特別の教科道徳』の教科書の検定基準等について」でしたが、もう一つ「その他の教科書検定に関する諸課題について」とあり、教科書検定制度の見直しの審議を要請していました。
 要請内容は①「義務教育用教科書の不合格図書の年度内再申請の見直し」、②「最新の状況に対応した検定申請の改善」、③「その他関連する制度等の改善方策」の、三つで、とりわけ重大なのが①です。
 審議要請を受けて、鈴木佑司委員(第2部会・社会科)は「100点以上の指摘があるような教科書が2冊ございました」「不合格を出して、その後十分な審議時間を確保することが難しい中で合否を判定せざるを得ないという状況だったわけでございます」と、事の発端が自由社と学び舎の不合格で大変な思いをしたことだったと述べています。
 文科省側は、こうした意見にいわば便乗する形で検定制度の改悪を行おうとしています。筆者が得た情報では、この制度改変については教科書会社の団体である教科書協会も「寝耳に水」で、事前にはまったく情報を入手できていなかったようです。大慌てで文部科学省と交渉したものの、ほぼ門前払いされたようです。関係者の意向も無視して、重大な制度変更を行うのですから、文部科学省も安倍政権同様、暴走しているといわざるをえません。
 この審議要請を受けて出されたのが、7月23日の「報告」です。
 次に「報告」の中身を見ていきましょう。ここでは紙幅の都合上、前出の①に限定して検討します。なお、②は自由社の公民がきっかけと思われます。自由社が、検定基準が変わったのに新たに検定を受けずに公民教科書をそのまま発行し続けることを文部科学省は認めたわけですが、やはり制度の破綻をきたす事態は避けたいということでしょう。
 ● 「報告」の何が問題なのか

 (1)不合格になったら再申請は翌年度
 前述のように、「報告」のうち、教科書検定全般にかかわることは、道徳の教科化に伴う検定教科書の導入に便乗する形で述べられています。このように形式も姑息(この言葉の本来の意味とは違いますが)といわざるをえませんが、その内容も同じく姑息です。①から見ていきましょう。
 現在、義務教育教科書では、いったん不合格になっても、不合格通知から70日以内であれば「欠陥箇所」(不合格の場合は「検定意見」ではなく「欠陥箇所」と呼ばれます)を修正して、もう一度検定申請を行う事ができます。これに対して高校用教科書では、再申請は同一年度にはできず、翌年度にならないと受け付けられません。
 これは採択制度の違いからくるもので、義務教育教科書は採択替えのチャンスは4年に1度しかなく、それも広域採択です。広域採択制度は、成功すれば採択地区内の学校すべてで採択されますが、失敗すればそのすべてを失い、しかも回復するチャンスは4年後にしかやって来ない、いわばハイリスク・ハイリターン(危険は大きいが、成功すれば見返りも大きい)な制度です。
 これに対して高校教科書は学校ごとに毎年採択変更が可能です。つまり義務教育ほどの部数は望めないものの、採択に失敗したときのリスクは義務教育教科書よりは小さいということです。「報告」は、義務教育教科書も高校同様に不合格による再申請は翌年度に回すというものです。
 (2)記述の萎縮と自主規制を招く
 (1)からただちにおわかりいただけると思いますが、これでは教科書の記述は今まで以上に「自主規制」せざるをえず、萎縮させられます。残念ながら、昨年度行われた中学校教科書検定でも、自粛や萎縮が目立ちます。「報告」の内容が確定すれば、形は検定を受けた民間発行の教科書でも、実質的には国定教科書になりかねません。何しろ不合格になったら、4年間の経営の見通しが立たなくなります。不合格にならないよう、記述を慎重にせざるをえないでしょう。
 社会科では、「政府の統一的見解を書け」「特定の事象だけを強調するな」などと改悪された教科書検定基準をますます意識して教科書をつくらざるをえなくなるでしょう。そのような萎縮と自粛は、当然のことながら他教科の教科書にも波及するでしよう。
 (3)文部科学省の「救済措置」は機能しない
 「報告」は「教科書発行者の過度な不利益を回避するため、翌年度に再申請を行い合格した図書については、都道府県教育委員会が調査研究を行い、市町村教育委員会等が必要に応じて採択替えを行うことができるようにすることが適当である」と「救済措置」の設置を提言しています。しかしそれは、まさしく「机上の空論」です。
 「報告」は救済措置として、翌年度に再申請して合格した図書については採択替えを行うことができるようにすることを提言しています。しかし、教育委員会が、わざわざ特定の教科書のために再度採択を行うでしょうか。とりわけ国語・数学・理科・英語などのように、学年別に分かれている教科書では、まずありえません
 たとえば英語では、どの文型・文法事項をどの学年に載せるか(学年配当)は教科書ごとに異なるので、2年目に採択を変更すると、学習指導要領に示された文型・文法事項を学べないという事態が起こりうるからです(もっとも不合格が「つくる会」系教科書だったら、採択をやり直すのかもしれませんが)。
 (4)あくまで文部科学省の都合による制度改悪
 「報告」の直接的なきっかけは(「報告」の文言を信じるとすれば)、要するに再申請本の審査が大変だったということに尽きます。つまりあくまでも文部科学省(教科書調査官と検定審議会)側の都合ということです。教科書を作成する側の感情を一言で表せば「ふざけるな!」という怒りでしょう。
 検定申請日や検定意見通知後の処理日数、不合格後の再申請までの日数など、教科書発行者側に対しては厳格に決めているのに、検定申請してから検定意見通知までの日数など、文部科学省側の日数には定めがありません。つまり著しく文部科学省側に有利にできているのです。このうえ、不合格になったら同一年度内の再申請は認めないなど、真面目に検討されたとは思えません。
 ● おわりに
 今後、8月中。も「報告」はパブリックコメントの募集を経て官報告示され、確定することになります。
 報道によれば、それは9月だといわれています。パブリックコメントに応募することをはじめ、このような制度改悪に反対する声を上げていきましょう。
「子どもと教科書全国ネット21ニュース」1O3号(2015.8)

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