「…母さん…」
何処までも暗闇が続く宇宙の、何処とも知れぬ場所で、タケルはポツリと呟いた。
もう地球には居られない。
そう思ってガイヤーで宇宙へと飛び出した。
しかし、何処へ行けばいいと言うのか。
地球が初めて接触した異星人は、地球を破壊しようとするギシン星人で、自分もまたギシン星人なのだ。
それも、自身が地球を爆破する為の起爆装置なのだ。
ギシン星に行こうとも思えない。
他に知る星もない。
「(俺は本当に独りきりなんだ)」
地球を破壊せよと命じた、ズール皇帝と名乗る怪人物が父とは思えないし、思いたくなかった。
「(あのズールが俺の父だとしたら、ギシン星には俺の母もいるのだろうか)」
そう考えた時、タケルの心の中に、まだ見知らぬ生みの母への思慕が芽生えた。
「(ギシン星に居る母は、俺を地球へ送ることに反対してくれたのだろうか…。もし俺がギシン星に行ったら逢ってくれるのだろうか)」
一目で良いから、生みの母に逢ってみたいと思ったタケルだが、地球側は未だギシン星の位置も何も判っていないのだ。
「ガイヤー、ギシン星の座標は判らないのか?」
タケルがガイヤーに問うてみるが、ガイヤーからの反応は無い。
ふぅと溜め息をついて、タケルはシートにもたれかかった。
今までの疲れが出たのか、タケルはいつの間にか寝入ってしまった。
栗色の髪の優しそうな女性が明るいテラスで、自分を穏やかで暖かい瞳で見つめている。
顔は、ぼんやりとしか判らない。
女性に向けて伸ばした手は、今のタケルの手ではなく、幼い赤子のそれだった。
「……」
女性が何かを言っているが、よく聞き取れない。
まるで異国の言葉を聞いているようにも思える。
だがその声はとても心地良い響きで心に染み入る。
女性があやすように赤子の手をとる。
『いい子ね、マーズ』
自分に呼び掛ける女性に応えようとした時。
目の前に映ったのは漆黒の宇宙だった。
「夢…だったのか…」
タケルは目を閉じ、肩を落とした。
今見た夢はとても温かで幸せな夢だった。
夢に出て来た女性が、地球での母・静子では無いことは確かだった。
「(ギシン星に居る母だったのか?俺をマーズと呼んでいた…。夢なのか、それとも俺自身の記憶なのか?)」
思わずタケルは両手で自分を抱いた。
夢の中の、母と思しき人の温もりが消えないようにと。
暫くして、タケルの両腕が力なくダラリと下ろされた。
「(…もう、どちらの母にも会えないんだ…)」
行く先も無く、宇宙を漂っているうちに、やがて自分の命が潰えて、ガイヤーと共に宇宙の星屑と化す。
それも、近いうちに。
「(こんな運命が待っていたなんて…。何も知らなかった頃に戻りたい。戻してくれよ!)」
「ちくしょう!」
タケルが両手を振り上げたかと思ったら、思い切りパネルを叩き付けた。
パネルが微かに光ったがすぐに元の状態に戻る。
「ガイヤー、何か言ってくれ。お前は俺の脳波で動くんだろう?今の俺の気持ちだって判るんだろう?」
「(だから、此処から動けないんだよな、ガイヤー。)」
タケルに行く宛がないから、ガイヤーは其処に止まっているのだ。
「…寒い」
タケルが呟く。
ガイヤーのコクピットは気密性もしっかりしており温度もタケルの体温に合わせて自動調節されるようになっている。
だから、寒い筈は無い。
タケルの心が孤独に脅え震えているのだ。
「(独りがこんなに怖いものだったなんて、思いもしなかった…)」
17年間育った地球からは拒否され、かと言って生まれた星が何処に在るのかも判らない。
「(いっそこのまま…)」
タケルが絶望の淵を覗こうとした時、タケルを呼ぶ声が聞こえた。
『マーズ、地球が危ない。地球へ帰るんだ!』
いつもタケルに危機を知らせてくれる声だ。
だがタケルは大きく頭(かぶり)を振る。
「俺は地球には居られないんだ!もう戻れないんだ!」
今にも泣き出しそうなタケルに謎の声は更に呼び掛ける。
『早く地球へ行くんだ!お前を育ててくれた人達や仲間を見捨てるのか?』
「でも…地球に俺の居場所は…」
言葉を濁して逃げ腰になっているタケル。
今戻って彼らを助けても、また地球を離れなければならいけないのではないのか。
タケルはそれを恐れて身動きが取れず、苦悩していた。
その時、謎の声が一際強い口調でタケルに語りかけた。
『地球はお前の故郷じゃないのか?』
「故郷…?」
『そうだ。故郷なんだ』
一瞬顔を伏せ目を閉じたタケルだったが
「ガイヤー、地球へ急げ!」
身を翻したガイヤーは赤い稲妻の如く、青く輝く惑星を目指して飛び去って行った。
声の主は人影の無い柱の影で安堵の溜め息をついた。同時にその青い瞳には一抹の寂しげな色も浮かぶ。
「(マーズ、ギシン星人の血を嘆くな。いつかきっとギシン星人で在ることに誇りを持てる日が来る…俺はその時を待っているぞ、マーズ)」
声の主は柱の影から、ふらりとした足取りで庭園へと歩み出した。
*********************************************
えー、4話から5話の辺りのお話しですね。
なんにも捻っておりません(笑)
タケルの「母さん…」って台詞、昔は静子さんのことだけだろうと思っていたのですが、マルメロ星編でタケルがフローレに「父がギロンなら母は誰だ!」っていうシーンがあったので、もしかすると、地球の母とギシン星に居る筈の(実際は既に亡くなっているけど)実の母とを思っていたんじゃないのかなあ…と。
思って書いてみました。
あー暗い暗い。
朝日がキレイな朝っぱらから暗い話をアップしてスミマセン。
私はゴッドマーズで明るい話は書けない体質wのようです。
だって、ターゲットが全部タケルだもん(苦笑)
お読み戴けたら幸いです。
何処までも暗闇が続く宇宙の、何処とも知れぬ場所で、タケルはポツリと呟いた。
もう地球には居られない。
そう思ってガイヤーで宇宙へと飛び出した。
しかし、何処へ行けばいいと言うのか。
地球が初めて接触した異星人は、地球を破壊しようとするギシン星人で、自分もまたギシン星人なのだ。
それも、自身が地球を爆破する為の起爆装置なのだ。
ギシン星に行こうとも思えない。
他に知る星もない。
「(俺は本当に独りきりなんだ)」
地球を破壊せよと命じた、ズール皇帝と名乗る怪人物が父とは思えないし、思いたくなかった。
「(あのズールが俺の父だとしたら、ギシン星には俺の母もいるのだろうか)」
そう考えた時、タケルの心の中に、まだ見知らぬ生みの母への思慕が芽生えた。
「(ギシン星に居る母は、俺を地球へ送ることに反対してくれたのだろうか…。もし俺がギシン星に行ったら逢ってくれるのだろうか)」
一目で良いから、生みの母に逢ってみたいと思ったタケルだが、地球側は未だギシン星の位置も何も判っていないのだ。
「ガイヤー、ギシン星の座標は判らないのか?」
タケルがガイヤーに問うてみるが、ガイヤーからの反応は無い。
ふぅと溜め息をついて、タケルはシートにもたれかかった。
今までの疲れが出たのか、タケルはいつの間にか寝入ってしまった。
栗色の髪の優しそうな女性が明るいテラスで、自分を穏やかで暖かい瞳で見つめている。
顔は、ぼんやりとしか判らない。
女性に向けて伸ばした手は、今のタケルの手ではなく、幼い赤子のそれだった。
「……」
女性が何かを言っているが、よく聞き取れない。
まるで異国の言葉を聞いているようにも思える。
だがその声はとても心地良い響きで心に染み入る。
女性があやすように赤子の手をとる。
『いい子ね、マーズ』
自分に呼び掛ける女性に応えようとした時。
目の前に映ったのは漆黒の宇宙だった。
「夢…だったのか…」
タケルは目を閉じ、肩を落とした。
今見た夢はとても温かで幸せな夢だった。
夢に出て来た女性が、地球での母・静子では無いことは確かだった。
「(ギシン星に居る母だったのか?俺をマーズと呼んでいた…。夢なのか、それとも俺自身の記憶なのか?)」
思わずタケルは両手で自分を抱いた。
夢の中の、母と思しき人の温もりが消えないようにと。
暫くして、タケルの両腕が力なくダラリと下ろされた。
「(…もう、どちらの母にも会えないんだ…)」
行く先も無く、宇宙を漂っているうちに、やがて自分の命が潰えて、ガイヤーと共に宇宙の星屑と化す。
それも、近いうちに。
「(こんな運命が待っていたなんて…。何も知らなかった頃に戻りたい。戻してくれよ!)」
「ちくしょう!」
タケルが両手を振り上げたかと思ったら、思い切りパネルを叩き付けた。
パネルが微かに光ったがすぐに元の状態に戻る。
「ガイヤー、何か言ってくれ。お前は俺の脳波で動くんだろう?今の俺の気持ちだって判るんだろう?」
「(だから、此処から動けないんだよな、ガイヤー。)」
タケルに行く宛がないから、ガイヤーは其処に止まっているのだ。
「…寒い」
タケルが呟く。
ガイヤーのコクピットは気密性もしっかりしており温度もタケルの体温に合わせて自動調節されるようになっている。
だから、寒い筈は無い。
タケルの心が孤独に脅え震えているのだ。
「(独りがこんなに怖いものだったなんて、思いもしなかった…)」
17年間育った地球からは拒否され、かと言って生まれた星が何処に在るのかも判らない。
「(いっそこのまま…)」
タケルが絶望の淵を覗こうとした時、タケルを呼ぶ声が聞こえた。
『マーズ、地球が危ない。地球へ帰るんだ!』
いつもタケルに危機を知らせてくれる声だ。
だがタケルは大きく頭(かぶり)を振る。
「俺は地球には居られないんだ!もう戻れないんだ!」
今にも泣き出しそうなタケルに謎の声は更に呼び掛ける。
『早く地球へ行くんだ!お前を育ててくれた人達や仲間を見捨てるのか?』
「でも…地球に俺の居場所は…」
言葉を濁して逃げ腰になっているタケル。
今戻って彼らを助けても、また地球を離れなければならいけないのではないのか。
タケルはそれを恐れて身動きが取れず、苦悩していた。
その時、謎の声が一際強い口調でタケルに語りかけた。
『地球はお前の故郷じゃないのか?』
「故郷…?」
『そうだ。故郷なんだ』
一瞬顔を伏せ目を閉じたタケルだったが
「ガイヤー、地球へ急げ!」
身を翻したガイヤーは赤い稲妻の如く、青く輝く惑星を目指して飛び去って行った。
声の主は人影の無い柱の影で安堵の溜め息をついた。同時にその青い瞳には一抹の寂しげな色も浮かぶ。
「(マーズ、ギシン星人の血を嘆くな。いつかきっとギシン星人で在ることに誇りを持てる日が来る…俺はその時を待っているぞ、マーズ)」
声の主は柱の影から、ふらりとした足取りで庭園へと歩み出した。
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えー、4話から5話の辺りのお話しですね。
なんにも捻っておりません(笑)
タケルの「母さん…」って台詞、昔は静子さんのことだけだろうと思っていたのですが、マルメロ星編でタケルがフローレに「父がギロンなら母は誰だ!」っていうシーンがあったので、もしかすると、地球の母とギシン星に居る筈の(実際は既に亡くなっているけど)実の母とを思っていたんじゃないのかなあ…と。
思って書いてみました。
あー暗い暗い。
朝日がキレイな朝っぱらから暗い話をアップしてスミマセン。
私はゴッドマーズで明るい話は書けない体質wのようです。
だって、ターゲットが全部タケルだもん(苦笑)
お読み戴けたら幸いです。