今日も地球は周ってる

管理人の趣味や日々のことを徒然に。宇宙戦艦ヤマト好きーが現在進行形。時々、六神合体ゴッドマーズ。ALの右オタも兼務

【GM_SS】6月16日

2016-07-06 05:51:31 | GM_SS
※昨年の双子誕生日にPixivにアップしたSSです。
こちらには掲載していませんでしたので、今年の20日遅れの誕生日代わりに掲載します。

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同行すると言うロゼの好意の言葉を敢えて断って一人で来た。
この星に戻って来てから幾度か訪れたこの場所へ。

花はロゼが選んでくれた。
こういう時にどんな花が相応しいか分らなかったから。

星都の郊外、人家もほとんどないくさはらの終わり、崖の近くに彼は一人でやってきた。
そこには粗末な石の碑が一本建っているだけだ。
だが、その碑が彼の家族の全てだった。

「この日に来るの、初めてで…、何て言えばいいんだろう。」

小さな花の束を手にしたまま彼は碑に向かって話し始めた。

「ギシン星の暮らしには慣れたよ。ロゼとルイのおかげでね。
 ロゼには職務の方で、ルイには生活面で色々と助けて貰って頭が上がらないよ」

口元に青年らしい柔らかな微笑みが小さく浮かんだ。

「地球の皆も元気にしてる。
 俺が居なくなった分、コスモの点検当番が早く回ってくるから面倒くさいって言われるぐらいだよ(苦笑)
 あの頃が嘘のように平和だって言ってるよ。」

爽やかな風が吹き抜けていく。
 
「今度、母さん…地球で俺を育ててくれた母さんをギシン星に呼ぼうと思っているんだ。
 地球の父さんと母さんが居なかったら、俺を育ててくれなかったら、今頃は地球が無くなってて、
 ギシン星もズールの圧制が続いたままだったろうね。
 そして、俺は…。」

そこで、一つ呼吸を忘れた。

「俺はズールの皇子として、次の器にされるところだった…。
 俺自身の意思も自我も持たず、知らないまま、ズールの操り人形として。」

少し俯いて頭(かぶり)を振った。

「地球の母さんがどんな人なのか、会って欲しいっていう俺の我儘なんだ。
 ギシン星と地球の行き来も少しずつだけど便利になってきたから丁度良いかな。って。
 そして地球の母さんには俺が産まれた星を見て欲しいんだ。
 この星に暮らす人は地球人と変わらないんだって事を。」

屈んで碑の前に花を置いて、そのまま片膝の上で両手を組んだ。

「父さん、母さん、兄さん、そして地球の父さんと母さん。
 どちらも俺には大切な家族なんだ。
 どちらの家族が居なくても、俺は今、此処にこうして居る事は出来なかったからね。」

彼の周りの空気が微かに揺れた。

「だから。
 父さん、母さん。

 俺と兄さんを産んでくれてありがとう。  
 兄さん、誕生日、おめでとう。

 俺と兄さんはずっと一緒に歳を重ねていこう。
 ほら、今だって俺の心の内で兄さんが語り掛けてきてる。
 兄さんと俺は、一つの命を二人で分けて産まれてきたのだから。
 思ったより早くに、一つに戻ってしまったけどね。」

そう語る瞳に悲しさは無い。
落ち着いた、柔らかな光を宿した眼差しが遠くを見つめている。

膝についた草や土を払い立ち上がる。

「此処に来ると本当に気持ちが安らぐんだ。
 家族が揃うからかな?」

ちょっと悪戯っ子のような表情を浮かべる。

「また来るよ。」

彼が歩き出す方向へと、風と草がなびいて道を作っていった。

あれからもう10年も20年も経ったような気がするよ…

2014-06-16 20:09:11 | GM_SS
いえ、番組放映開始からあと数カ月で33年。
そして61話「タケル・最後の誕生日!?」からおよそ32年。

双子の誕生日は1982年6月16日(地球歴で)なので、双子は今年32歳。





さ ん じ ゅ う に さ い





ポーン(  Д )⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒...。....。コロコロ




でも、いいの。2人は永遠に17歳なの(あれ?誰かが同じような…くぁwせdrftgyふじこlp;@:)


と、言うわけで久々に双子描きました。
が、あまりに久々なのと、「目が!目があああああ!!」(素直に老眼と言え)の為に、
かなりgdgdなイラストになりました…。(あうー)
どうぞ御笑覧くださいませ。

あ、併せまして過去に描いた、61話の後日談「夜明け」もお読みいただければ幸いでございます。


イラスト ※画像をクリックするとバカでかいのが開きます。背後注意

ブラウザの「戻る」で御戻り下さい。

SS「夜明け


HAPPY BIRTHDAY MARS&MARG

【GM】     獄

2014-05-21 23:25:01 | GM_SS
※タケル独白。超ネガティブですので心身に留意の上、お読みください。
























地獄。


俺が育った地では「仏教用語で六道の一つ」とされている。
そして、地下の牢獄でもあると言う。

俺は、此処に存在するだけでも罪なのだろうか。

罪。

何も知らぬ赤子のうちに、何処にあるとも知れない星から、
昏(くら)き星空を渡って地球へと流された俺。
この地球を、己と引き換えに破壊する爆弾と共に。

否。

それは俺自身が爆弾そのものであるのと同義。

この地球を己の意思、または命と引き換えに破壊する事が出来る、唯一の存在。
地球とは全く相容れない異質の存在。

それが、この地での俺の罪。
俺が望んだ訳でもない、だが運命付けられた俺の罪。

この地球がまさに獄。
罪人である俺を捕らえ、閉じ込めておく囚獄(ひとや)



そして、もう一つの俺の罪。

俺は、俺の同胞をこの手で殺すことでしか、生きていく事が出来ない。
そうしなければ、俺はこの囚獄(ひとや)で息をすることすら赦されぬ存在。

これは俺が選んだ、六道の辻。
俺が選んだ罪。

同胞の血に染まった囚獄(ひとや)で生きていかねばならない。


地球は囚獄(ひとや)。
正に 地の獄。


風景写真提供:艦長さま Twitter: @excelsior2479

その手の先に…

2013-11-25 12:37:52 | GM_SS
「もう、絶対に離さない」

タケルの鳶色の瞳が揺らぎながらも、マーグの澄んだ碧い瞳を捉えた。
そう。
今まで離れていた分、そして、無理矢理敵味方に引き裂かれた分、俺達はずっと一緒にいるんだ。
失った17年を取り戻すんだ。

そう、タケルは心の中で決めていた。

「…マーズは赤ん坊の時から、甘えん坊のままだな」

小さくクスリとマーグが笑う。
初めてみる兄の心からの笑顔。
タケルの心が更に震える。

「え?赤ん坊の頃からっ…て?」
「父上や母上の記憶だ。お前には伝えきれていない記憶もある。
 いずれ伝えてやろう。
 マーズ、お前はね、本当に甘えん坊で、ちょっとでも母上が離れると我儘言って泣くんだ」

タケルの顔にサッと朱が差す。

「な…、に、兄さん!?」

心当たりがタケルにはあった。
明神夫妻に育てられていた幼少期、養母の静子の姿が少しでも見えないと、泣きながら後追いばかりしていた。
それを亡き養父、正から散々聞かされていたのだ。

「どうやら、地球でもそうだったみたいだな?マーズ」
「…」

頬を染めた弟の様子に、マーグは目を細める。

「(俺の弟。甘えん坊でやんちゃで…。今でもそのままなのだな。
 地球の両親が大切に育ててくれた、俺の大事な弟)」

不意にマーグがタケルの背に両手を回して抱きしめた。
マーグからのアクションにタケルは一瞬戸惑ったが、すぐにマーグの首の後ろに両手を回して、頬を寄せた。

「(温かい。この人が俺の兄さん。もう一人の俺。俺と同じ血を持つ、たった一人の肉親…)」

2人はそうやって暫く、互いの半身を強く感じていた。

「にい、さん…」

タケルがポツリと呟く。

「どうしたんだ?マーズ」

マーグの優しい声に、それだけでタケルの胸は喜びに満たされる。
渇望していた肉親の情。
今、それに自分が包まれている。

「にいさん…」
「マーズ?」

タケルが兄を呼ぶ度に、兄が優しく答える。
そのたびにタケルの頬を伝うものが増える。

「泣き虫なんだな、マーズ」
「兄さんのせいだ」

言葉を交わす度に、心も熔けあうような感覚がタケルを襲う。

「(これも、超能力…。超能力は戦う為だけの物じゃなかったんだ…。
 全然しらなかった。なんて、なんて温かくて幸せな力なんだろう)」

2人が抱きあっていたのはどのぐらいの時間だったのだろう。
戦いのさなか、ほんの僅かな時間だった筈だ。
それでもタケルにとっては、初めて感じる穏やかで長い、そして濃密な時間だった。

ヒュイーーーーン
遠くから聞こえる機械音が、スピードを上げてこちらに向かってくる。

2人はさっと互いから手を離した。
早くクレバスから脱出せねば。

「兄さん、さあ」
「ああ」

クレバスに落下して怪我をした兄に手を差し伸べ、タケルはクレバスを登った。

目の前に現れるバトルマシンの砲口。
その砲口が光った時、タケルは兄の手を放してしまった。

もう2度と兄の手を離さないと誓った筈なのに。

そして、タケルは2度と兄の温かい手を取ることは出来なくなってしまったのだった。

タケルがそれを思い知らされるのは、ほんの僅か後の事だった。





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あとがき

今日は11/25。
「いいふたご」の日ということで、なんと、小一時間で書いてしまいましたw

昨年春からずっとヤマト2199に漬かってて、ちょっとGMがお留守になっておりました。
ので、久々のSS更新です。

お気に召して戴ければ幸いです。

融解

2013-05-14 20:35:23 | GM_SS
†始めに。
今回のSSは、ちょっと表現がキツイ箇所があります。
また、マーグの葬送に関わる表現もあります。
出来るだけソフトに表現したつもりではありますが、お気持ちの状態によっては辛いと思われるかもしれません。
ご自身の心身にご留意戴いた上でお読み下さいますよう、お願いいたします。

BLなどの表現は一切ございませんので、そちらの面では安心してお読み戴けると思います。
改行の後、本文となります。


























※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

『ギシン星地球攻撃隊隊長マーグの遺骸について、地球防衛軍、地球連邦政府は共に関与しないこととする』

ケンジがその一報をタケルの許にもたらしたのは、あれから1時間後であった。
薄暗いあの部屋で、1時間前と同じ場所にタケルは心を失ったかのように座り込んだままであった。
ケンジがタケルに駆け寄り、両の肩を揺さぶる。

「タケル、タケル!マーグはもう大丈夫だ。お前の許に還って来たぞ!」

俯いていたタケルの顔がゆっくりとケンジの方を向く。
その瞳には懐疑的な色が揺らめいている。
無理も無い。と、ケンジは思う。
タケルが敵であるギシン星の人間であると判ってから、タケルは何度も地球の首脳陣達に翻弄されてきた。
地球を愛しているタケルの心を利用していると言う事もある。
それらを承知の上で、それでもタケルはギシン星と戦ってきた。
血を分けた双子の兄との辛い戦いにも必死に耐えていた。
その兄が洗脳されている事を知っても、それでも地球を守る為に兄と戦った。

やっと、兄が自分の許に戻ってきた時。
その時は兄の死と引き換えであった。

なのに。
地球はタケルの手からマーグを奪おうとしていたのだ。

ケンジはその地球側の一員である自分に後ろめたさを覚えていた。
軍とは、軍人とはそうでなければならないと判っていても。

「南極基地敷地の隣接部は、まだどの国の主権も及んでいない土地だ。
 地球連邦政府は、その一画をお前とマーグの為に用意すると言っている」

タケルの瞳はまだ暗いままだ。

「地球防衛軍と地球連邦政府は、南極のその地に限ってマーグの埋葬の許可を出したんだ」

ケンジの再度の言葉に、やっとタケルの瞳が揺れた。

「マーグを…地球に?」

ようやく言葉を発したタケルの肩からケンジが手を離す。

「ああ。地球の首脳陣がマーグの地球受け入れを認めたんだ」

タケルの頬をまた新たな涙が伝った。

「兄さんが…俺のところに戻ってきたんですね?」
「ああ、そうだ。タケル」
「…隊長…ありがとうございます」

ケンジの前でタケルが首(こうべ)を垂れた。

「いや、上も行き過ぎだと気づいてくれたようだ。
 残念ながら、ギシン星に還してあげる事は出来ないが、マーグは地球で眠る事ができるんだ」

見知らぬ異星の極地で、マーグは本当に安らかに眠ることができるのだろうか。
しかも、タケルと限られた人間以外、立ち入る事の出来ない場所で。
そう考えたケンジは頭を振って、その考えを一蹴した。
弟であるタケルが育った惑星なのだ。
そして、弟がズールの魔の手から守ろうとしている星なのだ。
きっとマーグにとってはそれだけでも、幸いな事なのだろう。

「兄さんは…マーグはずっと地球に居られるんですね?」

タケルの声が少し上擦る。
そしてケンジに顔を向けた。
そのタケルの表情は、先ほどまでの心を失った状態では無く、僅かながらも瞳に光を宿す物になっていた。

「ああ、マーグは地球で眠ることが出来る」
「良かった…。俺が育った地球を、兄さんにも知ってもらうことが出来るんだ…」

タケルの表情が安堵した物へと変わる。
マーグを敵の攻撃隊長でなく、自分の兄と地球側が認めてくれたことに、言い知れない程の感慨が胸に湧き出してくる。
本当はギシン星に眠る両親の許へマーグを連れて行きたかった。
だが、六神ロボとコスモクラッシャーだけでの宇宙行きでは、それは到底無理なこととタケルも解っている。
だから、地球に埋葬できる事だけでも、心のつかえが取れたも同じことだった。

安堵している様子のタケルを前に、ケンジが表情を少し硬くした。

「ただ、マーグを埋葬するにあたり、防衛軍は一切の関与をしない。
 人員も割けない。必要な機具は貸与してくれるとの事だが。
 だから…俺たちも手伝ってやれないんだ…。
 …済まない、タケル」

今度はケンジが頭を下げた。
この件はタケルのあくまでプライベートと言う事で処理する為に、防衛軍、防衛軍に所属するクラッシャー隊は一切の手出しが出来ないことになったのだ。

「…謝らないで下さい、隊長。
 兄さん…マーグを俺が弔ってあげられるのですから、それだけで充分です。
 色々と御尽力下さってありがとうございます」

タケルは心からの感謝をケンジに伝えた。


南極基地の資材部で、タケルは墓所を作る為に必要な機材の貸出を申請した。
マーグの埋葬の件は関係部署には伝えられている。
しかし、ギシン星人、それも南極基地を襲撃した敵・ギシン星の戦闘隊長の埋葬と言う事で、担当者は言葉も無く、極力関わりたくないという思いが表情に表れていた。
周囲の者達も、タケルに対して冷たい視線を送るだけで、何一つ手伝おうとしない。
それどころか「地球にギシン星人の墓を作るなんて、上層部も気が狂ったのか?」等と、聞えよがしに言う者もいる。
無理も無い。自分達の仲間を殺したギシン星人の墓を作る為に機材を貸出しなくてはならないのだ。
許せるはずも無かった。

「あの、もしあったら、鉄骨の廃材を分けて頂けませんか?それと溶接機器も貸して頂けませんか?」

タケルの頼みに年嵩の担当者がタケルの意を酌んだらしく、タケルが望んでいたような鉄骨の廃材が2本用意された。

タケルは、自分に向けられている冷たい視線を感じつつも、いつも通りに振舞った。
卑屈になってはいけない。兄さんは、他のギシン星人と違って洗脳されて戦わされていたんだ。

それらと機材を、タケルは一人で電動カートに積み、会釈してから、資材部を後にした。


マーグの遺体を引き取りに、タケルは例の部屋へ赴いた。
部屋に入ると、金属製の長い箱が床に置かれていた。
一瞬、足を止めたタケルだったが、ゆっくりとそちらへと近づいて行く。
箱の前にタケルが立った時、横に居た南極基地の隊員が箱の蓋を縦にそっとずらした。

「…」

金属の棺の中に白い布が敷かれ、そこにマーグが横たわっていた。

「…兄さん」

タケルは棺の前で跪き、そっとマーグの頬に触れる。
血の通わぬマーグの頬はまるで白磁のように冷んやりとしている。
暫くマーグの頬に触れていたタケルだったが、一旦強く目を閉じ、何かを決意したかのように、キリリと目を開いた。
マーグのサークレットに触れる。そして、サークレットの中央で青く輝く石に指をかけると、ほんの僅かな超能力を用いて、その石をサークレットから外した。
指先で揺らめく青い光は、マーグの瞳のようだと、タケルは思った。
持参していた小さな強化プラスチックの小さな入れ物にその輝石を入れ、タケルはマーグから託されたクリスタルのペンダントと共に首に下げる。

「(兄さん、これでいつも一緒だよ。一緒にギシン星に行こう)」

タケルが立ちあがったのを見計らって、隊員が棺の蓋を閉めた。
そして、タケルに蓋の封印を促す。
タケルは無言で棺を封印した。
これで、この蓋は開かれることは無い。例え、地球防衛軍であろうと、地球連邦政府であろうと。

建物の外に停めてあるカートまで、先ほどの隊員が一緒に棺を運んでくれた。
タケルは彼に一礼すると、カートをゆっくりと動かし始めた。

偶然通り掛かる隊員が訝し気にタケルの方を見る。
タケルとマーグの事は南極基地では暗黙の了解事項となっているのだ。
仲間をギシン星人に殺された隊員の冷たい視線。
或いは兄弟の不遇を憐れむ年嵩の隊員。
そのような視線を感じながらも、必死に心の平静を装ってタケルは南極基地から出ようとしていた。

「タケル…」
南極基地のゲートの所に、ケンジを除くクラッシャー隊のメンバーが来ていた。
皆、何か言いたそげな気配だが、語ることが出来ずにいる。

「…みんな…」

タケルはマーグの葬送を見送りに来てくれた仲間の姿に少し驚いた。
彼らはタケルと共にマーグを埋葬してやりたくても、上からの命令で一切の手出しを禁じられているのだ。
だから、このように見送りに来てくれているとは思ってもいなかった。

「タケル、これ…。みんなで作ったの」

ミカが小さな白い花を束ねた物を差し出した。
南極の大地には花が咲かない。
紙を折って作られた小さな花に、緑色のやはり紙で作られた茎がつけられている。
それを白いリボンで束ねただけの、小さな花束だった。
受け取ったタケルの瞳が僅かに滲む。

「ありがとう…」

ようやくそれだけ言うと、タケルは小さな花束をそっと胸元に入れ、カートを走らせてゲートを後にした。



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「隊長」

南極基地からギシン星へ旅立つ前の最後のブリーフィングを終えた後、部屋を出たケンジにタケルが声をかけた。
いつもよりも控えめな声で呼び止められたケンジがタケルの方を向いた。

「…ちょっと、マーグに…」

おずおずとタケルが口を開く。
ギシン星への出発を前に、最後にマーグに会いたいのだろう。
兄を地球に置いて、自分だけがギシン星へ向かう。
その事へのタケルなりの色々な気持ちもあるだろう。

「よし、行ってこい」

ケンジはそう察して、許可を出した。
返礼をして、駆け出して行くタケルを見ていたら、傍から声がかかった。

「飛鳥さん、タケルはマーグの所へ行ったのですか?」

タケルの養母・静子だった。
何やら不安そうな表情でタケルが向かった先を見つめている。

「え、ええ。そうです」

その不安そうな表情にケンジは心に引っ掛かる物を感じた。
もしかしてこの育ての母は、自分には判らないタケルの心情を、心の奥深くに沈めた本当の気持ちを察しているのではないか。
タケルをマーグの墓に行かせる許可を与えた自分は間違っていたのではないか。
そんな気持ちにさせられる。

「…飛鳥さん、私もマーグのお墓に行ってみます。
 何だか、今のままタケルをギシン星に行かせてはいけないような気がするんです」

やはり。
この母は気が付いていたのだ。
マーグを亡くし、たった一人で自らの手で兄を埋葬したタケルの心の奥底に秘めた気持ちに。
きっとそれは危うげな物なのだろう。

「はい。判りました。外は少し吹雪いているようですので、お気をつけて。
 埋葬場所はご存知ですね?」
「ええ、知っています。では、少し行って参ります」



静子は防寒着を着て、南極基地のゲートを出た。
昨日は静かだった南極だが、今日は少し吹雪いている。
顔にかかる雪を手で遮りながら、雪で白くなった地面を小走りに駆けて行く。
小さな人影が見えた。

「(タケル…)」

そこからはゆっくりと歩み寄った。
小さな、鉄骨の粗末な十字架。
銘も何も刻まれていない。
刻む事を許されなかったからだ。
何十年を経て、マーグの事を知る人が地球上から居なくなっても、墓碑銘の無い十字架は此処にあり続けるのだ。

静子は頭(かぶり)を振った。

いつか、ギシン星と和平が結ばれれば、マーグはギシン星に還る事が出来る。
そうでなくてはいけない。
静子は一つ息をつくと、タケルに近づいた。

「タケル…」

静子が息子の名を小さく呟く。
墓前に跪いていたタケルがゆっくりと立ち上がり、静子を振り返った。
そのタケルの表情はいつになく厳しく強張り、その瞳は静子ではなく、その向こうに憎い敵を見ているようだった。

「(いけない。マーグの仇を取るつもりでギシン星に行かせてはいけない!)」

「まぁ、怖い顔。まるで敵討ちにでも行くみたい」

静子は感じたそのままを、しかし、少し冗談めかして口にした。
そうでなければ、タケルが放っている殺気に呑まれてしまいそうであった。
タケルがこれほど厳しい表情を見せたことは無い。

「母さん、俺はマーグの…」

低く怒気に満ちたタケルの声が返ってくる。

「(タケルは怒りに囚われている。このままでは平和使節は務まらない)」

「タケル!あなたは、平和使節だと言う事を忘れてはいけません」

静子はマーグの墓前に跪いて手を合わせた。

「でも母さん、マーグの人生は一体なんだったのですか?
 一緒に生まれながら、俺より惨めな、あまりに短い一生は」

タケルは幸薄かったであろう兄の事を思う。
弟の、自分の為に生きて死んでいった兄。
父や母から託された記憶を伝え、そして洗脳され、弟の自分を守る為に自ら命を投げ出した兄。
兄には少しでも幸せな時間があったのだろうか?
それに引き換え、何も知らず、地球で温かな家庭で幸せに育てられた自分。
どうして双子なのに、全く正反対の生き方をすることになってしまったのだろうか。

「そういう運命だったのです。あなたとマーグが入れ替わってもやはり同じ道をたどったでしょう」

静子がマーグの墓と向かいあったまま、タケルに語り掛ける。
そう、この2人は表裏一体。どちらが地球に送られても、同じ運命をたどるしかなかった。

「そうなれば良かった。ズールが俺でなくマーグを地球に送っていたら…」

そうすれば、自分は死んでもマーグは生きていた筈だ。
自分が幸せに育てられた事が、今のタケルにとってはマーグへの負い目でしかない。

「タケル!本当にそう思っているのですか?」

立ち上がり、タケルに向き直った静子の瞳には涙が浮かんでいる。
その静子の表情にタケルはハッとした。

「私は、あなたという子に巡り合えてどんなに…」

自分が言った言葉が静子を傷つけた。
タケルはその事にようやく気が付いた。
正体の判らない、謎の存在だった自分を実の子同様に、慈しんで育ててくれた母を。

「マーグの身体は亡んでも、心はあなたのなかに生きているのよ。
 あなた達は2人で1人。だからこそ、遠く離れていても心は通じ合えたんじゃありませんか。
 マーグが惨めと言うのなら、その分、あなたが幸せにならなくては。
 そうする事でマーグも幸せになるのです。
 あなた達は生まれる時に、たまたま2つの身体に分かれただけで、心は1つなのですよ」

静子に諭されて、ようやくタケルは気が付いた。
まだマーグの存在を知らない頃、タケルを救ってくれた声。
幼い日にも感じていた、もう一人の自分。
それは全てマーグだったのだ。
地球とギシン星、遠く離れていても知らぬうちに自分と兄の心は繋がっていたのだ。

「母さん…」

母は自分とマーグの事を誰よりも理解していてくれた。
自分でも気が付かなかった想いに、気付いていてくれた。
そして、自分とマーグが入れ替わっていたとしても、きっと同じ言葉をマーグに伝えてくれていただろう。
そんな母の気持ちに、復讐で塗り固められた自分の心が解れていくのが判る。
この母は、その存在が判った時から、マーグも自分同様に息子として想ってくれていたのだろう。

マーグを失ってから、渇き、そして凍り付いていたタケルの心にようやく小さな温かい灯が燈された。
それは静子にも伝わった。
タケルがやっと本来の自分を取り戻せたことが。
もう心配はない。

「さあ、お行きなさい。心の中のマーグと一緒に…」

静子はタケルを促した。

「はい」

タケルは静子の言葉に素直に従い、南極基地へと駆け戻って行った。
その後ろ姿を静子は微笑んで見送った。
もう大丈夫。
あの子は平和使節としての役目を立派に果たせる。
夫が言い残した「地球と宇宙を結ぶ大事な絆」の、通りに。

そして静子はマーグの墓に向き直り、再び跪いた。

「あなたとも、一度でいいからお話がしてみたかったわ。
 あの子のお兄さんですもの、私たち、きっと解り合えたに違いないわ。
 どうか、あの子を見守っていてあげてね。
 きっと地球とギシン星の間に平和を築いてくれるでしょうから。
 お願いね、マーグ」

いつの間にか吹雪きは止んでいた。

コスモクラッシャーとゴッドマーズは碧い空に吸い込まれ、小さな輝きを残してギシン星へと旅立った。

土星にて

2013-05-02 11:30:01 | GM_SS
まだ幼さの残る頬の線、よく動く大きな瞳。はにかんだ笑顔。

「(幸せに、大切に育てられたのだな。良かった…)」

マーグは双子の弟マーズの顔を見て大きく安堵した。

育った環境が違うからだろう、体格も幾分か異なっている。
弟は軍人であるにも関わらず全体的に小柄で、ギシン星人としてみれば華奢な方になる。
ズールの城で軟禁状態で育った自分の方がよほど体格が良い。
双子だと言うのに、何故か弟が歳の離れた、まだやんちゃな年齢に見えて仕方がない。

「(父母の記憶がそうさせているのか)」

マーグの記憶には、父の記憶と母の記憶が残されている。
その為なのか、マーグにとって弟の存在は双子の兄弟と言うよりも、絶対に守るべき者と思ってしまうのだ。

マーズに救助され、地球防衛軍の土星基地に保護されてまだ数時間と経っていない。
伝えるべき両親の記憶はマーズに全て伝えた。
その時にマーズが地球で育った様子の片鱗が垣間見えた。
優しそうな育ての親、幸せな家庭。
これが今のマーズを形作ったのだと思うと、マーズを育ててくれた地球の夫妻に感謝しなくては。と、思う。
その間にも、マーズは何かと口実を作っては病室へとやってくる。
「兄さん」「兄さん」
何の屈託も無く、マーグを兄と呼ぶ弟が愛おしい。

「兄さん、ギシン星ってどんな空の色をしてるんだい?」
「兄さん、ギシン星から見える星ってどんな星?」
「兄さん、ギシン星ってどんな花が咲くの?」

マーズは事あるごとに、マーグにギシン星の事を尋ねる。
地球を破壊せんとする皇帝の息子で無い事が判り、初めてギシン星人である自分を認めることができたのだろう。
そして、まだ見ぬ生まれ故郷に思いを馳せているのだろう。

だが、マーグにはこの優しく愛しい時間が長く続くことは無いと思っていた。
あのズール皇帝が、自分をこのまま地球に亡命させるような事は絶対にすまい。
何が何でも自分をマーズから引き離し、処刑せねば皇帝の気が治まる筈がない。
ならば、少しでも弟に、地球側に被害が及ばないようにしなくては。

マーグは、マーズが部屋を離れた後、独り、宇宙に面して開けた展望室へ向かったのであった。

「(済まない、マーズ。一緒に地球へ行くことは…絶対に無理だ。
 どうかお前が挫ける事無くズールを倒すことを俺は祈っている。
 マーズ、生き抜け!何があっても怯まずに前へ進め!)」


「兄さん!此処に居たんだ!」

弟の声を耳に焼き付けた時、マーグは凄まじい光の奔流と共に土星基地から消え去った。
弟の大きな嘆きを土星に残して。



******************************************************

土星で双子が一緒に居られた時間て、どのくらいだったのでしょうね。
もっとお互いの事を話す時間があれば良かったのでしょうに。

マーグはマーズに両親の記憶を伝える時に、マーズの無意識の記憶を垣間見ています。
幸せに育てられて良かった。きっとマーグはそう思ったことでしょう。
マーグにとってマーズとは庇護すべき存在ですから。
でも、マーグはマーズに自分の事を語ることはありませんでした。
時間が無かったのもさることながら、自分が味わった辛く苦しい日々を、弟にまで疑似体験させたくなかったのでしょう。

2人が共に居られたのは、土星、南極を併せても半日にもならなかったかもしれませんね。
むしろ、敵として戦っていた時間の方が長かったでしょう。

しかし、GMを大人になってから検証すると、本当にシビアで残酷な話だと思います(苦笑)
シリーズ構成の藤川氏がGMに関わっていらっしゃったのは、確か、今の私とさして歳が違わない頃だったかと思います。
ティーンエイジャーに、こんなシビアな話を美しく見せるなんて、なんと凄い方なのでしょう(苦笑)
私はその二次創作で精いっぱいですよ(笑)

ふと思ったのですが、GMがロボット物じゃなかったら、今で言うラノベみたいなお話だったのでしょうね。
それもそれでアリな気もしますが。

あ。「凍」に続いてタケルを泣かせてますね、私w
GMはタケルが苦しんでなんぼだと思ってますからww
ええ、勿論、大大大大大と大がたくさんつくタケルファンですよ(爆)
裕さんのあの声と相まって、タケルが泣き叫んだり苦しんだり悩んだりするのが、とても好きなんです(鬼畜)
大抵のタケルファンの方はきっとそうだと思いますけれども(苦笑)

2013-04-06 11:09:27 | GM_SS
南極のクレバスの底で、タケルは両の拳をグッと握り締めた。

「地球に害を及ぼす以上、止むを得ない。…殺す」

強く目を閉じ、息を飲む。



地球防衛軍の上層部は、

「彼は君を懐柔し、ギシン星側に付かせる為の存在で、受け継いだ記憶も偽りの記憶では無いのか?」

と、彼の存在を訝しむ者がほとんどであった。
クラッシャー隊のメンバーのように、彼に会ったことがある者は判断がつきかねていた。

彼を信じているのはタケルしかいないのだった。
その彼が地球を滅ぼそうと、自分を殺そうと襲ってくる。
「目を覚ましてくれ!」「思い出してくれ!」
タケルの願いは彼に届くことは無かった。

土星で記憶を受け継いだ時のあの温もり、干からびて今にも割れてしまいそうだった心に与えられた慈愛。
あの時のことは全て事実であり、本当の事なのだ。
だが、それが真実であることを証明できる者はタケル以外にはいなかった。

養母・静子の愛情が不足している訳では無い。
ただ、タケルは肉親の情と言う物を心底欲していただけだったのだ。
異星にたった独りで生きる者として。

なのに、運命は残酷だった。

この世にたった一人、血を分けた双子の兄を、己の手で殺さなくてはいけないのだと。
そう、運命がタケルに強いていた。



タケルの目の前に横たわっている兄・マーグは、落下した際の衝撃で意識を失っている。
目を開けば、再びタケルに戦いを挑んでくるであろうことは解りきっている。

「(殺すなら今しかない。意識を失っている間なら、マーグも苦しまずに逝ける筈だ…。
 お父さん、お母さん。地球の為、引いてはズールを倒す為とは言え、兄さんを…マーグをこの手にかけることを…赦して下さい)」

赦しを請うても赦されないのだと、タケルには解っていた。
己の手で命を奪われる兄は父母の許に行けるだろう。
だが、兄を手にかけた自分は死しても両親の許に行くことは絶対に無い。
自分が行き着くのは地獄しか無いのだ。と。
両親の許から奪い去られた時に、このように運命付けられてしまった。
生きていても独り、そして死した後も独りなのだ、自分は。

「(それでも構わない。地球を守る道を選んだのは俺なのだから。地球を守る為ならば、鬼にでも死神にでもなる!)」

まだ目を閉じたままのタケルの右手の拳の中に冷たい炎が湧き上がって来る。
その炎は青白い剣の形を取り始めた。

すうっと一つ深呼吸したタケルは目を開き、右手に宿る青白い炎の剣を振り上げようとした。

「うっ…」

それまで眠るように意識を失っていたマーグが眉根を寄せた。
意識が戻ってきたようだった。

「(不味い、マーグが意識を取り戻す前に…殺さなくては)」

タケルが焦り、目を閉じ、炎の剣を振り下ろそうとしたその刹那。

「…マーズ、マーズだな?」

聞き覚えのある、優しく澄んだ兄の声が自分を呼んだ。
タケルの右手の炎の剣は瞬時に消え去り、目を開いたタケルの前にいるのは、あの儚げで穏やかな表情の兄だった。

「…マーグ、俺が、俺が判るのか?」

恐る恐るタケルが声をかける。だが、身体は凍りついたように身動きが取れない。
マーグが後頭部に手を当て、痛みに顔を歪ませながら上体を起こす。
そして。

「ああ、俺の…たった一人の…大事な弟だ」

マーグが声を潤ませながら呟く。
その声にタケルの瞳が大きく見開かれた。
一体、どれだけこの時を待ち望んでいたことだろう。
タケルの瞳から溢れた涙が、凍りついた身体を溶かし始めた。

「兄さん!!」

タケルは矢も盾もたまらず、マーグに抱きつき、思い切り抱きしめた。
マーグの手も呼応するようにタケルの背に回される。

「土星で別れてから、もう、10年も20年も経った気がするよ。ようやく…思い出してくれたんだね」

マーグに語る言葉が涙に滲む。
敵となったマーグが現れてからの時間は、時計の針が止まり、まるで時間の無い世界のようだった。
そしてそれは、タケルの心を奈落の底に突き落とすには充分過ぎる程であった。
暗く、虚無にも似た時を過ごしてきたタケルにとって、兄の記憶が戻った事は、この世に自分の存在が赦されたかのように嬉しいことであった。

「マーグ、もう絶対に離さない」

*******************************************************************************************************

「止めるんだ!!!」

叫び声と共にマーグは、タケルが操るガイヤーとロゼのバトルマシンの間に飛び込んできた。

「!!」

タケルが声を上げる間も無く、ロゼのバトルマシンから光芒が走り、マーグを貫いた。

「マーグ!!!!」

ガイヤーが、力を失い落下していくマーグをその体内に取り込む。
コックピット内では、タケルの操縦席の後ろに、傷ついたマーグを座らせた椅子がせり上がって来た。

「(マーグを、兄さんを撃ったあいつを赦す訳にはいかない!!)」
「もう誰にも渡さない!兄さんは俺のものだ!地球のものだ!!」

即座にゴッドマーズへと合体し、その大きな剣を振り下ろす。

戦いが終わり、タケルが荒く息をついている時に後ろから声がした。

「マーズ…悪いのはズールだ。ギシン星の全てがズールと同じではない。俺は、そう信じている…」

弱々しい声で呟いた直後、椅子のアームレストからマーグの手が滑り落ちる。
そして、頭がゆらりと傾いだ後、マーグの身体は時が止まったように動かなくなってしまった。
マーグの声に振り返り、立ち上がりかけたタケルは大きく目を見開いた。

「…兄さん… 兄さーーーん!!!!!」

タケルの悲痛な叫びが南極の白い大地に響き渡った。

*******************************************************************************************************

ゴッドマーズの合体を解いて、ガイヤーから降りて来たタケルの腕にはマーグが抱かれていた。
クラッシャー隊のメンバーもタケルにかける言葉が無い。
ガイヤー内でのやり取りを通信で聞いていたからだ。
マーグを抱いたまま南極基地の建物に向かおうとするタケルを悲痛な眼差しで見守るしかなかった。
そのタケルの前に、防護服を着用した地球防衛軍の兵士達が現れた。
行く先を塞がれ、タケルの目に怒りのような光が浮かぶ。
だが彼らはそのタケルの様子にもまったくたじろぐことがなかった。

「明神タケル。君が今抱いているのはギシン星人か?」

一人がタケルに問う。

「それがどうした。」

タケルは低く搾り出すような声で答える。

「ギシン星人の死体をそのまま基地内に入れることは出来ん。
 君とそのギシン星人の検疫を行い、害が無い事を確認しなければ無理だ。」
「…なんだって…!!」

マーグの亡骸を、事もあろうに"異星人の死体"扱いされ、タケルは身体中の血が一気に逆流するのを感じた。

「タケルっ!」

それを察したケンジが慌ててタケルに駆け寄ろうとするのを、別の防護服の男が止める。

「今、彼らに触れるならば、貴方も検疫を受けねばなりません」

その声にケンジは立ち止まり、声を失った。

「タケルとマーグは兄弟だぞ!」
「兄を失ったばかりのタケルになんて事を言うんだ!」

アキラとナオトが防護服の男達に怒りの声を上げる。

「…酷い…」

ミカがそっと視線を下に落とした。

そんなクラッシャー隊の様子も意に介さず、防護服の男たちはタケルに近づき、マーグをタケルから引き離そうとした。

「!何をするんだ!!離せ!!」

一人の男がタケルを後ろから羽交い絞めにし、その隙に別の男がマーグをタケルから引き離し、移動寝台車に乗せた。

「マーグを何処へ連れて行くんだ!!やめろ!!離せ!離せ! …兄さん!!!」

タケルを羽交い絞めにしている男の力は強く、タケルは男を振りほどくことが出来ないでいた。
その間にもマーグは南極基地の外れの小さな小屋の方へと運ばれる。

「兄さん!!兄さん!!」

タケルが狂ったように暴れ、マーグの方へと手を伸ばす。

「兄さんを連れて行かないでくれ!!」
「明神タケル、君はこっちへ」
「嫌だ!!兄さん!兄さーん!!」

溢れる涙を拭おうともせず、タケルはマーグの運ばれていく方へ行こうとして必死に男を振りほどこうとしていた。

「あ゛…」

だが、もう一人の防護服の男がタケルに近づいたかと思うと、瞬時にタケルは崩折れてしまった。
そして、その男がクラッシャー隊のメンバーの方を振り向き

「異星人の死体と触れた後は検疫を受けなくてはいけない。
 これは規則で決まっていることだ。
 明神タケルはその規則に従わない為、薬品で一時的に眠らせた。
 これから、別棟で明神タケルの検疫を行う。
 それまで君たちクラッシャー隊の諸君も、明神タケルとの接触を控えて頂きたい」

慇懃無礼に言い放った。
ナオトにアキラ、ミカ達も抗議の声を上げようとしたが、規則という言葉には従うしかなかった。
強引に眠らされて連れて行かれるタケルの姿を悲しげに見つめるだけだった。

「やっとアニキの洗脳が解けて再会できたってのに…。しゃらくせぃ!」
「軍規だから仕方ないけどさ、亡くなったマーグの事をあんな風に言うなんて酷いぜ」
「タケルもマーグも可哀相過ぎるわ」

メンバー達のやり場の無い怒りの声を耳にしたケンジも同じ気持ちだった。
だが、隊長の立場にあるケンジは、彼等と同じことを口にする訳にはいかない。

「…軍規で決まっている以上仕方が無い。タケルには本当に気の毒だが…。検疫が終わればタケルはマーグの傍に行けるんだ。」

そう言うのがやっとだった。



「…うっ」

タケルは鈍い頭痛で目を覚ました。
真っ白な部屋の白いベッド。
そして白い患者服を着せられている。

「!!」

タケルは飛び起きて、扉の脇にあるインターフォンに飛びついた。

「マーグはどうしたんだ!!俺をここから出せ!!」

扉を壊しかねない勢いでタケルが叫ぶ。

『君と、君が抱いていたギシン星人の検疫は終わった。
 ベッドサイドに置いてある制服を着用後再度インターフォンで連絡するように。
 ギシン星人の所へ案内する。』

インターフォン越しの声が事務的に且つ一方的に告げ、会話は途切れた。
タケルはゆっくりと扉から離れ、緩慢な動きでベッドへと戻る。
記憶が混乱している。
自分は兄をその腕に擁いていたはずだ。
なのに何故、自分だけがこの部屋にいるのか。
そして、検疫という言葉。
マーグと共にガイヤーを降りてから、一体何があったというのか。

確かにベッドサイドには丁寧に折りたたまれた真新しい制服が置かれている。
のろのろと制服を身につけ、タケルは再度、インターフォンに話しかけた。

「着替え終わりました。お願いします。」

すっと扉が開き、銃を持った警備員が数人現れた。

「兄さんの…マーグの所へ連れて行って下さい。」

先ほどと打って変わって大人しくなったタケルに、警備員は少し戸惑ったようだったが、

「では、こちらへ。君が途中で暴れたり、我々の指示に逆らうようなことがあれば、その場で拘束する。
 それだけは忘れないように。」

と、タケルを囲むように歩き始めた。
どのように歩いたのかタケルは記憶することは無かった。
南極基地の別棟の一番端の小さな部屋に通された。
床も天井も壁もコンクリート剥き出しの、薄暗い部屋。
その部屋の最奥に、白い布をかけられた移動寝台車が置かれていた。

タケルが部屋に入ると、警備員達は部屋の外に出た。
恐る恐るタケルが部屋の奥へと向かう。
そして白い布をそっと持ち上げた。

「…っ!!」

緑の髪に縁取られた、穏やかな顔がそこにあった。
薄暗い部屋でも、そこだけ光が当たっているように。

「…兄さん…兄さん…」

タケルは寝台に手を掛けたまま、床に膝を付き動かなくなってしまった。



南極基地の別室に、大塚と、急遽バトルキャンプから呼ばれたタケルの養母・静子、そしてケンジが居た。
室内に重い沈黙が澱んでいる。
養父である明神正を失った時にさえ冷静であったタケルが、マーグの死に際して激しく取り乱している。
そう、富士山麓で洗脳されたマーグと戦い、敗れた後のように。いや、それ以上に。

「…土星では詳しい検査をする余裕も無いまま、マーグが連れ去られてしまったが、今回の検疫と同時に、
 タケルとマーグの間に本当に血の繋がりがあるのかどうか、DNAレベルで検査をしてもらったんじゃ。」

大塚が重い口を開いた。
すかさずケンジが問う。

「その結果は…」
「血液型は勿論のこと、DNAレベルでも血の繋がりがある…いや、全く同じと言っていい結果が出た。」
「やはり、タケルとマーグが双子と言うのは…事実だったんですね。」

ケンジの言葉に大塚が深く頷いた。

「私はタケルとマーグが双子だというのは信じていました。」

静子が口を開いた。

「洗脳されたマーグにタケルが身も心も傷つけられた時、あの子が私を激しく責めました。
 あんな事は17年あの子を育ててきて初めてでした。」

大塚とケンジが静子を見遣る。

「土星であの子とマーグの間に何があったのかは知りません。
 でも、あれほどに誰かを求めているあの子を見た事は今まで…。
 だから、タケルとマーグの間には何かの強い絆があることを確信したんです。」

静子の言葉に大塚とケンジは、数ヶ月前の富士山麓での戦いの事を思い起こした。
豹変したマーグの姿に激しく動揺し、思うように戦えないタケル。
対して、容赦無くタケルを攻撃するマーグ。
そのマーグの姿は追い縋るタケルを、まるで小動物を甚振るかのようにあしらっているようでもあった。
両膝の上に握った拳を置いた静子が穏やかな口調で語る。

「土星と、南極のクレバスの底、2人が過ごした時間は1日にも満たなかったでしょう。
 それでもあの子にとっては、地球で育った17年を上回るほどに大切な時間だったと思うんです。
 自分が何者なのかを教えられ、そして、進むべき道を教えてくれたマーグは、タケルにとっては兄をも越えた存在に違いありません。」

大塚が髭を撫で付けながら深く頷いた。

「マーグから受け継いだ記憶が父親の物であるとも言っていたからな。
 タケルにとってマーグとは兄であり、父にも等しい存在だったのだろう。」

ケンジがそれを受けるように呟く。

「地球に育ててくれた親がいて、共に戦う仲間がいても、地球にたった独りの異星人であるという孤独感は、
 タケルにとっては耐え難い物だったのでしょうね。」

静子がそっと頷いた。

「私などには想像もつかない程の孤独を抱えていたのだと思います。
 ズール皇帝の息子と言われ、それがいつしかギシン星の裏切り者と呼ばれ…。
 タケルは、本当の自分を知りたいと渇望していたのでしょう。
 マーグと出会い、本当の自分を知ったからこそ、ギシン星ではなく、ズールを倒すという意思が固まったのでしょう。」
「実の父親がズールに逆らい処刑されておるからのう。
 そして、タケルを取り戻そうとしていた実の母もズールの城で殺されておるという。
 タケルにしてみれば、血の繋がった家族が全員ズールに殺されたようなものじゃからなあ。」

髭を捻りながら大塚がぽつりとこぼす。
そこへ、警備隊からタケルがマーグの遺体を安置した部屋に通されたとの連絡が入った。
同時にもたらされた報せは、そこにいる3人に衝撃を与えずには居られない物であった。


ケンジが南極基地の通路を一人歩いている。
先程もたらされた報せは、あまりにも非情なものだった。
更に重い沈黙が室内を覆い、堪りかねたケンジがその報せを伝える役目を引き受けたのだった。

「(あの時のようだ。タケルがギシン星人だと判り、地球から追放しようとした…あの時…)」

ケンジはあの時のタケルの瞳を忘れられずにいた。
一生懸命平静を装い微笑んでいるように見えて、その奥では寂しい光が揺らめいていた。
またあの時と同じ事を、地球はタケルに強いようとしているのか。

マーグの遺体が安置されている部屋の扉の前にケンジは立った。
扉の前に、2人の警備員が銃を携えて立ちはだかっている。
ケンジが来ることは連絡されていないらしく、身分を咎められた。

「クラッシャー隊、隊長・飛鳥ケンジ。明神タケルとの面会に来た」

その声に、警備員がすっとドアの前を離れ、ドアを開けた。
音も立てずにドアが両横へと開く。
警備員の敬礼を受けながら、ケンジは部屋へと足を踏み入れた。
後ろでドアが静かに閉まる。
陽の光に溢れた廊下から、薄暗い部屋に入ったケンジは思わず両目を細める。
その部屋の奥に、白い布で覆われた寝台と、寝台の前で跪くタケルが居た。
寝台に取り縋ったまま、微動だにしないタケル。

「(一体、タケルはどんな思いでいるのだろうか。最後の肉親、双子の兄の命も失われてしまって。
 タケルはまた、この地球(ほし)にただ独りの存在になってしまった…)」

ゆっくりとケンジはタケルへ近づいて行った。
靴の音が室内に響く。
それでもタケルは振り向いたりはしない。
ひたすら、マーグの黄泉返りでも願うように、マーグに取り縋ったままだ。

ケンジはタケルの、左斜め後方で立ち止まった。
目を閉じ、首を垂れ、マーグに祈りを捧げる。
再び目を開いた時に、ケンジは生命が失われたマーグの姿を見た。
髪の色が違えど、目を閉じて横たわっている姿は、今まで何度も見てきたタケルの意識を失った時と全く違わぬ相似を見せており、ケンジの心が戸惑いに揺れた。

「…隊長…」

マーグの方を向いたまま、身じろぎ一つせず、タケルがケンジに声をかけた。

「…」

ケンジは無言のまま、其処に立ち尽くしていた。
まるで、自分の心を読まれているような、そんな寒気にも似た感覚が身体を、胸の中を通り抜けていく。
タケルの足元には、幾つかの水の溜りが出来ている。
誰の目にも触れないこの薄暗い部屋で、既に物言わぬ兄・マーグに色々と語り掛け、そして涙を流していたのだろう。
そう思うと、今から自分がタケルに告げようとしている事が言葉として形にならずに霧散していきそうになる。

「タケル」

ようやくケンジが口を開いた。
重く錆びついた閂を渾身の力でこじ開けたように、その一言だけでとてつもない疲労感に襲われる。
呼びかけても振り向きはしないだろうとは思っていた。
涙にくれた顔など、人には見せないタケルである。

タケルからの応答も無く、2人の間に沈黙が流れる。
この部屋の重い空気が更に重たく感じる。
その雰囲気に居た堪れなくなったケンジが、ゴクリと生唾を飲んだ後に口を開いた。

「タケル。地球防衛軍最高会議と地球連邦政府の決定を伝える。」

ケンジは自然と命令を告げる時の、いつもの体勢を取っていた。
タケルは変わらず、マーグに向いたままだったが、ケンジにはタケルの体勢などどうでも良かった。
そんな事は、今からタケルに伝える内容に比べれば、ほんの些細なことに過ぎぬ事であったからだ。

「ギシン星地球攻撃隊隊長であるマーグの遺体は、今後、地球防衛軍の管理下に置かれ、ギシン星人の身体サンプルとして処置が行われる」

マーグの寝台に身体を預けるように跪いて座っていたタケルの背がピンと伸びる。

「よって、只今を持って、明神タケルはこの部屋から退出。今後、この部屋に入る事、近寄る事を禁じる。」

タケルの反応をケンジは静かに待った。
激高するのか、それとも静かに反抗するのか。
ケンジが一番恐れているのは、タケルがマーグの遺体と共に地球を立ち去ってしまうことだった。
タケルが地球を立ち去れば、ギシン星に対抗する武力を持たない地球は、あっという間に侵略、殲滅されてしまう。
今まで地球が守られて来たのは、タケルの地球に対する愛というあまりにも細い一本の心の糸によるものだから。

「…じゃ足りないんですか…?」

聞こえるか聞こえないかの小さなタケルの呟きが重い空気の中、怒りの波動を伴ってケンジの耳に届く。

『俺のデータだけじゃ足りないんですか…?』

ケンジにはタケルがそう呟いたのが判っていた。
タケルがギシン星人であることが判明してすぐに、タケルは地球に帰順する意思を表す為に、自分自身の身体でギシン星人の身体サンプルを出したのだ。
それはタケルの自発的な物であったことは、ケンジも覚えている。
どのような検査を受けたのか、ケンジは知らなかったが、セントラルキャンプから来た医師団達による検査は、微に入り細に入り、非常に詳細に行われたらしい。
バトルキャンプの医療部門のトップであるDr敷島が眉を顰める姿も見た。
当のタケルが、"身体検査”でぐったりと疲れ果ててしまう様子も見かけていた。
心配するケンジに、タケルは『危害を加えられるわけでないですし、大丈夫です』と、小さく答えたこともあった。
タケルの地球への忠誠心を試すような内容であったことは間違い無いとケンジは確信していた。
それほどまでにタケルへの検査は、キツイ物であったのだろう。
だが、反陽子爆弾の起爆装置そのものであるタケルに出来得る検査には限りがある。
どのような刺激でタケルの脳波が止まり、反陽子爆弾が爆発するか判らないからである。

そして、今。
タケルの双子の兄という、絶好のサンプルが手に入った。
既に死した者。そして、反陽子爆弾への影響が無いギシン星人。
軍上層部と地球連邦政府が躍起になったことは火を見るよりも明らかであった。
『今度こそギシン星人の肉体的・身体的弱点を掴むことが出来る』と。

ケンジが皆まで言わなくともタケルには全て理解できた。

「反陽子爆弾の起爆装置の俺に手が出せない部分でも、死んだマーグになら…って言うことですね?隊長。」

言葉を返せないまま、ケンジは立ち竦んでいた。
今までに無いほどの怒りと悔恨のオーラをタケルは放っていた。

「軍や政府がそう考えるのも無理はありません。俺だってその立場ならそう考えるでしょう。そして隊長のように命令するでしょう。」

冷静なタケルの言葉が、より一層その怒りを激しくしつつある事を伺わせる。
激高するよりも、静かになっていく方が、タケルの怒りは激しくなっていくのだ。

「でも!マーグは!兄さんは!俺にたった独り残された、血を分けた肉親なんです!他のギシン星人とは違う!」

ケンジの方を振り向いたタケルは滂沱と流れる涙を拭おうとしていなかった。

「俺のように、兄さんも地球に受け入れて貰うことは出来ないのですか?
 ギシン星の攻撃隊長だったからですか?
 兄さんは俺のせいで洗脳されて戦わされていたのに?
 あの時長官が言って下さった『地球はともに暮らせる人を拒否することはせん』と言う言葉は嘘だったのですか?
 …だったら…俺も…俺も地球には居られないのですか?」

涙を流しながらケンジを見つめて言葉を紡ぐタケルの背後に淡い黄色の光が揺れる。
その光がタケルの放つ衝撃波と同じ色であることを、ケンジはすぐに思い出すべきであった。



「うあっ!!!」

タケルの肩に触れようとしたケンジが、タケルに弾き飛ばされる。
タケルはケンジに対して指一つ動かしてはいない。
正しくは、タケルの身体を包んでいる淡い光、衝撃波がケンジを撥ね退けたのだ。

「タケル…」

ケンジは衝撃波を受けた痛みを堪えながら立ち上がり、再びタケルに近づいた。
自分の意思に反して、ケンジに衝撃波で攻撃してしまったことに戸惑うタケルは、ケンジを見つめ、言葉を継ぐ事が出来ずにいた。

『俺も地球には居られないのですか?』

自分で言った言葉に自分が囚われてしまったと、タケルは気が付いた。

「(俺もマーグも、やはり地球に居てはいけない存在なのか…)」

そう思うと身体が震えだす。
兄の亡骸を搔き抱き、漆黒の宇宙を彷徨わなければならないのか。
あの時と同じように。
いや、あの時とは違う。
『地球へ戻れ』
と、自分に呼びかけてくれる人は、もうこの宇宙には居ないのだ。
このまま自分と兄が地球を離れてしまえば、それは…

タケルが絶望の淵を覗こうとしたその時。

「もういい、タケル! お前を苦しめるような決議が間違っているんだ!
 だからタケル、お前は…お前もマーグもこのまま地球に居るんだ。
 マーグの遺体を防衛軍の管轄に置かせることなど間違っている!
 タケル、お前はマーグの為に存分に泣いて悲しんでやるんだ。
 お前がマーグのたった一人の肉親なのだから。」

ケンジが、タケルが無意識に身に纏っている衝撃波の痛みを堪え、タケルの両肩を掴んで揺さぶる。

「あ…」

暗く澱んでいたタケルの瞳に微かに光が戻る。
そして、身に纏っていた淡黄色の光が消えた。

「た…隊長!!」

タケルはケンジの胸に縋り付いて我知らずうちに泣き崩れていた。
己がギシン星人であり、地球の運命を握っている事を知らされてから、どれだけ辛い時でも絶対に涙を見せることは無かった。
そのタケルが縋り付いて泣き崩れている。

「(一体、どれほどの深い孤独を抱えていたんだ。洗脳されたマーグと戦っていても、俺達には涙一つ見せなかった。
 そこまでして、地球と共にあろうとして、自分がギシン星人だという事実を必死に抑え込んでいたと言うのか?
 肉親と命を削る戦いをしていても尚…。
 なんと惨い運命を背負っているんだ。まだ17歳になったばかりだと言うのに。)」

ケンジは壊れ物に触れるかのように、その両手でタケルの肩をそっと抱き寄せた。
タケルの嗚咽は止まらない。
更にケンジに縋りついた。
そうだ、今のタケルに必要なのは、地球側がタケルがマーズである事を受け入れる事なのだ。

「タケル。今はマーグの傍についててやるんだ。
 マーグの弟のマーズとしてな。
 防衛軍と連邦政府の決議には俺が直談判をする。
 何があっても、お前たち兄弟を引き裂いたりはしないと約束する。
 だから、タケル、今は"お前自身"として此処に居るんだ。」

タケルがケンジの胸からそっと離れ、ケンジの顔を仰ぎ見る。
其処には穏やかに微笑むケンジの顔があった。

「隊長、俺は…」

ケンジはタケルの髪をそっと撫でてやった。

「お前はお前だ。何処の誰であろうとお前だ。マーグの双子の弟。そして、明神博士夫妻の一人息子だ。
 それ以外の何者でもないんだ、お前は。」

そう言うと、ケンジはタケルの肩に手を置いて立ち上がり、薄暗い部屋の出口へと向かった。
その出口からは、白い氷に反射した眩しい光が部屋一面を照らし、タケルの姿も光の中へと溶け込んでいった。

********************************************************************************

兄さん命日に向けて書いていて、ようやくアップできました。(遅っ)
19話と20話の間のお話と言うことで。
どーしてか、ケン&タケ風味になってしまう…。
年齢的にもケンジさんが色々と最適なポジションだからでしょうか。

自分GMワールドでは、ケンジは幼少期からのタケルと面識がある設定になっています。
普通の子供と何かが違うと、ケンジの勘が感じているのですが、それが明らかになるまでに数年を要します。
そう言ったことも踏まえての話なので、どうしてもケンジはタケルに甘くなってしまうところがあります。

5話でしたっけ? ケンジがタケルの地球追放を言い渡しに来た時、タケルが「長い間お世話になりました」と言っていますよね。
15歳でクラッシャー隊に入っていたら、"長い"と言う程でもないと思うんですよ。
なので、幼少期からタケルはケンジの事を知っていたにすると、しっくり来るんです。

しかし、やっぱりタケルを苛め抜くことはできませんでしたww
最後にケンジさんという救済を発動させてしまいましたです。

はじまり

2013-03-27 20:59:12 | GM_SS
それは、予想していたとは言え突然のことだった。
俺が17歳になって数日経った時。
俺の心の中に超新星のような閃きが弾けた。

それが何であるか、俺にはすぐに解った。

運命の輪が廻り始めたのだ。
二つの惑星(ほし)の行く末を決める運命の輪が。

俺の心の中で輝く光は、消えることは無かった。
輝きが黒く変わることも無かった。

ならば、俺も戦おう。

まだ不安定なこの光を強く輝く物とする為に。

俺たちは、ひとつの命をふたりで生きているのだから。



聞こえるか、マーズ…!



************************************************************************************

本日2つ目の記事がGMです(笑)
さっき、あれだけヤマトのことを書いておいてww

なんだか突然降ってきたので、慌てて書きとめました。
兄さん命日SSは、先をどうするかで煩悶中です。
タケルをとことん追い詰めるか、ちょっと救いの手を差し伸べるか。
個人的には追い詰めたくなるんですけど、あまりに暗すぎるので躊躇してるんです(苦笑)
救いの手を出すと、40話の兄さんに縋り付いて泣くタケルになっちゃいそうで(苦笑)

さて、どうなることやら。

夢の終わりに

2012-11-08 11:00:55 | GM_SS
ケンジの目の前で、ゴッドマーズの両腕…ウラヌスとタイタンが崩れ落ちた。
そして、両腕を失ったゴッドマーズが片膝をつくように倒れた。

通信機を通して聞こえた、タケルの

「俺は生きる!」

という叫びと同時のファイナルゴッドマーズ。

タケルは一体、どんな気持ちでマーグが乗った戦闘メカを斬ったのか。
肉弾戦でも、メカ戦でも、タケルは心身ともに追い込まれていた。
マーグの変貌が信じられず、激しく動揺し、その動揺がタケルが追い込まれる隙を作った。
結果的には勝ったが、戦いとしてはタケルは敗れてしまった。

戦いが終わると、いつもすぐに分離してそれぞれの地に戻って行く六神ロボも、そこに留まったままだ。

「(何かがおかしい。タケルは一体どうしたのだ?)」

ケンジが不審に思った時、片膝を付いたゴッドマーズが分離した。
そしてガイヤーの胸部から発せられる光の中を、タケルが降りてきた。

「(良かった、無事だったか)」

と、思った矢先。
地上に降りてきたタケルは、自らの力で立つ事ができずそのまま叢に倒れ込んだ。

「タケル!」

クラッシャーのメンバーが、弾かれたようにタケルに近寄る。
タケルの瞳は閉じられ、見る限り、身体中に擦過傷が見て取れる。
マーグとの肉弾戦と、戦闘メカによって浴びせられた衝撃波で、タケルの体力は著しく失われていた。
ケンジが力なく横たわるタケルの上半身を抱き起こす。

「呼吸も脈拍も大丈夫だ。ミカ、バトルキャンプに連絡を取って、タケルの救急受け入れ態勢を連絡しろ。」

「はい!」

ミカが急いで1号機に連絡の為に戻る。

「アキラ、1号機と2号機の故障はどうなっている?」

「両機とも、まだ完全には…。3号機は無傷です。」

アキラが顔を曇らせる。

「判った。俺が3号機でタケルを運ぶ。ナオト、タケルを載せるのを手伝ってくれ。
 アキラは1号機と2号機の修理が終了次第、ミカ、ナオトと戻って来るんだ。」

「隊長!3号機で2人は無理です!」

「だが、今まともに飛ばせるのは3号機だけだ。不安定な1号機や2号機で飛んで、途中で故障が原因で何かあってはより危険だ!
 バトルキャンプからの救援機を待つよりも、3号機で戻った方が早い。」

一瞬、ナオトが何か言いたげな表情をしたが、すぐに真顔に戻った。

「…了解しました。タケルは何処に乗せますか?」

「タケルは俺の膝に横向きに座らせる。頼むぞナオト。」

ケンジがタケルの上半身を抱え、ナオトがタケルの脚を支えて、小さな3号機に辛うじてケンジとタケルが搭乗した。

「後を頼むぞ、ナオト!」

そう言うとすぐにキャノピーを閉じ、3号機はバトルキャンプに向かって飛び立った。


通常、一人乗りの3号機に大柄なケンジが座り、その膝にタケルを座らせるとコクピットに余裕はない。
操縦桿を慎重に動かし、タケルの様子を見ながら、ケンジは慎重に3号機を飛ばした。

「う…」

苦しいのか、タケルが小さな呻き声を上げた。

「大丈夫かタケル?もう少し我慢してくれ。すぐにバトルキャンプに戻れるぞ」

ケンジがタケルを励ます。
操縦桿は右手で握ったまま、左手でタケルの額にうっすらと浮かぶ汗を拭ってやる。
それに反応したのか、タケルがうっすらと目を開いた。
傷のせいなのか、体力を消耗したせいなのか、それともマーグに対する精神的ショックからか、瞳は焦点が合わずぼんやりと虚空を漂っている。

「…飛鳥さ…ん?」

タケルが口を開いた。
だが、いつものタケルと様子が違う。

「…飛鳥さん…僕…」

「(タケル、記憶が混乱しているのか?)」

タケルがケンジを"飛鳥さん"と呼んでいたのは、タケルがクラッシャー隊に入隊するまで、15歳になるまでだ。
自分のことを"僕"と言っていたのもそれまでだった。

「僕、どうしちゃったのかな?頭がガンガンするんだ。何だか身体中も重くて痛いんです…」

「…あ、ああ、タケルくん、ちょっと怪我をしたんだ。今、すぐ病院に連れて行ってあげるからな、安心してていいぞ。」

「うん、ありがとうございます、飛鳥さん。僕、何だか眠たくなってきちゃった…」

超能力を使いすぎたのか、それとも傷のせいか、タケルの顔の赤みが増している。

「俺がちゃんと病院に連れて言ってやるから、眠ってていいぞ。いや、眠るんだ」

3号機の揺れを抑え、それでもタケルを安心させる為にケンジは笑顔でタケルに言い聞かせる。

「うん…」

ケンジの言葉に安心したのか、タケルは小さな声で返事を返すと、そのままケンジの膝の上で寝入ってしまった。
ギシン星との戦いが始まってから、どんなに辛い戦いの後でも、タケルの意識が混乱することは無かった。
今のタケルの様子に不安を感じたケンジが、バトルキャンプに連絡を入れる。

「こちら、3号機飛鳥です。明神タケルの傷は擦過傷程度ですが、意識が混乱している様子です。
 精神的にかなり不安定な様子の為、治療中に明神夫人が彼に付き添えるよう、手配をお願い致します。
 あと3分で到着しますので、よろしくお願い致します。」

通信を終えたケンジは、タケルが彼自身の腹部の上に置いている両手の上に、自分の左手をそっと添えた。

「(タケル…、苦しいだろうが負けるな。すぐに手当をしてやる。それまで頑張れ)」

ケンジの左手がキュッと握られた。
まるでタケルがケンジにすがるように。

二人を乗せた3号機は滑るようにバトルキャンプの地上滑走路、救急隊が待機している場所へ着陸していった。
タケルをコクピットから降ろし、救急隊に任せたケンジは、ついさっきまでタケルが握っていた自分の左手を見つめた。

"飛鳥さん"

うわごとのようにタケルが自分の事を呼んでいた事を思い出す。
あれは一体何歳のタケルだったのだろう。
ギシン星との、マーグとの戦いが続く限り、タケルはあのような思いをしなければならないのだろうか。
たった一人の肉親、双子の兄との戦いが続く限り。
マーグへの想いを裏切られたタケルの心を自分はどう救ってやればいいのか。
タケルのクラッシャー隊入隊までそうであったように、自分が兄的存在としてタケルに相対すればいいのだろうか。
機内でのタケルの様子を思いだしながら、ケンジは考えた。

「(いや、俺はクラッシャー隊の隊長だ。タケルにだけ個人的且つ感情的に接してはいけない。
 だが、"兄"という存在を失ったタケルには、兄的な後ろ盾が必要かもしれない。
 俺にできるかどうかは判らないが、タケルが必要とするなら、そうしてやろう。
 とにかく、いまタケルが見ているであろう悪夢から醒めた時には。)」

ケンジは握った左拳に力を込め、医療区へと歩き始めた。

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夢の終わりに残るものは
ひとにぎりの愛と君の微笑みでいい

written by T.Takamizawa

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後書きと言うか悪あがき

先日、病院でうとうとしながら診察を待っている間に降ってきたお話です。
15話と16話の間のお話ですね。
艶かしいシーンはありませんが、ケンジがタケルを膝抱っこしてます。
それもあの狭い3号機で!
うひゃー、凄い密着度(爆)
ケンジさん、ちゃんと操縦桿を動かせたのでしょうか(笑)
まさか自分の操縦…ゲフンゲフン(以下略)

ケンジさんの生い立ちが不明ですが、クラッシャー隊のメンバーに対しては隊長として厳しい面と、兄貴的優しさも見せてますからね。
23歳なのに、自分の立ち位置を十分弁えた大人ですよ、ケンジさん。
そのケンジを10年近く前から知ってるタケルですからね、普段、両親と3人だけの生活なだけに、ケンジの事を兄のように慕っていても不思議はない筈。

てなわけで、兄弟風味のケン×タケを書いてみました。
3号機で密着度若干アップで(笑)

最期に引用した歌詞は、某3人グループALフィーです(笑)
歌全体では兄×弟なんですけど、この部分だけ切り取るとケン×タケでもいけるかな?と、引用してみました。
優しくて切ないラブソングです。

あいも変わらず、しょーもないSSですが、お読み下さって有難うございました。

孤独の影

2012-10-07 07:06:51 | GM_SS
「…母さん…」

何処までも暗闇が続く宇宙の、何処とも知れぬ場所で、タケルはポツリと呟いた。
もう地球には居られない。
そう思ってガイヤーで宇宙へと飛び出した。
しかし、何処へ行けばいいと言うのか。
地球が初めて接触した異星人は、地球を破壊しようとするギシン星人で、自分もまたギシン星人なのだ。
それも、自身が地球を爆破する為の起爆装置なのだ。
ギシン星に行こうとも思えない。
他に知る星もない。

「(俺は本当に独りきりなんだ)」

地球を破壊せよと命じた、ズール皇帝と名乗る怪人物が父とは思えないし、思いたくなかった。

「(あのズールが俺の父だとしたら、ギシン星には俺の母もいるのだろうか)」

そう考えた時、タケルの心の中に、まだ見知らぬ生みの母への思慕が芽生えた。

「(ギシン星に居る母は、俺を地球へ送ることに反対してくれたのだろうか…。もし俺がギシン星に行ったら逢ってくれるのだろうか)」

一目で良いから、生みの母に逢ってみたいと思ったタケルだが、地球側は未だギシン星の位置も何も判っていないのだ。

「ガイヤー、ギシン星の座標は判らないのか?」

タケルがガイヤーに問うてみるが、ガイヤーからの反応は無い。
ふぅと溜め息をついて、タケルはシートにもたれかかった。
今までの疲れが出たのか、タケルはいつの間にか寝入ってしまった。


栗色の髪の優しそうな女性が明るいテラスで、自分を穏やかで暖かい瞳で見つめている。
顔は、ぼんやりとしか判らない。
女性に向けて伸ばした手は、今のタケルの手ではなく、幼い赤子のそれだった。

「……」

女性が何かを言っているが、よく聞き取れない。
まるで異国の言葉を聞いているようにも思える。
だがその声はとても心地良い響きで心に染み入る。
女性があやすように赤子の手をとる。

『いい子ね、マーズ』

自分に呼び掛ける女性に応えようとした時。
目の前に映ったのは漆黒の宇宙だった。

「夢…だったのか…」

タケルは目を閉じ、肩を落とした。
今見た夢はとても温かで幸せな夢だった。
夢に出て来た女性が、地球での母・静子では無いことは確かだった。

「(ギシン星に居る母だったのか?俺をマーズと呼んでいた…。夢なのか、それとも俺自身の記憶なのか?)」

思わずタケルは両手で自分を抱いた。
夢の中の、母と思しき人の温もりが消えないようにと。

暫くして、タケルの両腕が力なくダラリと下ろされた。

「(…もう、どちらの母にも会えないんだ…)」

行く先も無く、宇宙を漂っているうちに、やがて自分の命が潰えて、ガイヤーと共に宇宙の星屑と化す。
それも、近いうちに。

「(こんな運命が待っていたなんて…。何も知らなかった頃に戻りたい。戻してくれよ!)」
「ちくしょう!」

タケルが両手を振り上げたかと思ったら、思い切りパネルを叩き付けた。
パネルが微かに光ったがすぐに元の状態に戻る。

「ガイヤー、何か言ってくれ。お前は俺の脳波で動くんだろう?今の俺の気持ちだって判るんだろう?」
「(だから、此処から動けないんだよな、ガイヤー。)」

タケルに行く宛がないから、ガイヤーは其処に止まっているのだ。

「…寒い」

タケルが呟く。
ガイヤーのコクピットは気密性もしっかりしており温度もタケルの体温に合わせて自動調節されるようになっている。
だから、寒い筈は無い。
タケルの心が孤独に脅え震えているのだ。

「(独りがこんなに怖いものだったなんて、思いもしなかった…)」

17年間育った地球からは拒否され、かと言って生まれた星が何処に在るのかも判らない。

「(いっそこのまま…)」

タケルが絶望の淵を覗こうとした時、タケルを呼ぶ声が聞こえた。

『マーズ、地球が危ない。地球へ帰るんだ!』

いつもタケルに危機を知らせてくれる声だ。
だがタケルは大きく頭(かぶり)を振る。

「俺は地球には居られないんだ!もう戻れないんだ!」

今にも泣き出しそうなタケルに謎の声は更に呼び掛ける。

『早く地球へ行くんだ!お前を育ててくれた人達や仲間を見捨てるのか?』

「でも…地球に俺の居場所は…」

言葉を濁して逃げ腰になっているタケル。
今戻って彼らを助けても、また地球を離れなければならいけないのではないのか。
タケルはそれを恐れて身動きが取れず、苦悩していた。
その時、謎の声が一際強い口調でタケルに語りかけた。

『地球はお前の故郷じゃないのか?』
「故郷…?」
『そうだ。故郷なんだ』

一瞬顔を伏せ目を閉じたタケルだったが

「ガイヤー、地球へ急げ!」

身を翻したガイヤーは赤い稲妻の如く、青く輝く惑星を目指して飛び去って行った。


声の主は人影の無い柱の影で安堵の溜め息をついた。同時にその青い瞳には一抹の寂しげな色も浮かぶ。

「(マーズ、ギシン星人の血を嘆くな。いつかきっとギシン星人で在ることに誇りを持てる日が来る…俺はその時を待っているぞ、マーズ)」

声の主は柱の影から、ふらりとした足取りで庭園へと歩み出した。


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えー、4話から5話の辺りのお話しですね。
なんにも捻っておりません(笑)
タケルの「母さん…」って台詞、昔は静子さんのことだけだろうと思っていたのですが、マルメロ星編でタケルがフローレに「父がギロンなら母は誰だ!」っていうシーンがあったので、もしかすると、地球の母とギシン星に居る筈の(実際は既に亡くなっているけど)実の母とを思っていたんじゃないのかなあ…と。
思って書いてみました。
あー暗い暗い。
朝日がキレイな朝っぱらから暗い話をアップしてスミマセン。
私はゴッドマーズで明るい話は書けない体質wのようです。
だって、ターゲットが全部タケルだもん(苦笑)

お読み戴けたら幸いです。