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日野日出志「ゆん手」「山鬼ごんごろ」

2014-08-31 22:51:47 | 日野日出志
 ひばり書房刊「恐怖のモンスター」に収録されている短編2作「ゆん手」「山鬼ごんごろ」の紹介です。「山鬼ごんごろ」は日野日出志選集「地獄の絵草紙(蔵六の奇病の巻)」にも収録されています。

 「ゆん手(弓手)」とは左手のこと。主人公の少年は機関車D51の模型が欲しくてたまらず、いつかそれを手にする事が夢でしたが、3万5千円もする模型は少年の手が届くものではありませんでした。そんな少年は近ごろ左手に変なうずきを感じていました。

 ある日、少年は母親に頼まれた買い物から帰ってきたところ、買った覚えの無いチョコレートを持っている事に気付きました。母親はおつりが無いようにお金を持たせたはずなので、少年が万引きしたと考えて父親とともに叱りましたが、少年は覚えが無いと言い張っていました。それからというもの、友達の筆箱や店の商品を左手が勝手に掴んで持っているということが起こり始めたのでした。D51の模型を見に模型店を見に行った帰りにも……。



 自分の左手を潰そうとして右手に持っていた石がいつの間にか左手の中にあり、無意識に石を子供の額に何発も叩き込んで殺害してしまうのでした。その夜、少年は左手を針金でぐるぐる巻きにして縛って動きを封じたのですが、寝ている間に左手は針金をちぎって少年の首を絞め、駆けつけてきた父親も傷つけてしまい……。



 右ページの踏切の佇まいに異様なリアリティを感じます。左ページの緊張感のあるコマ割りや描き文字も漫画ならではの表現で素晴らしいです。迫り来るD51が左手の上を通過したその瞬間…………!

 夢なのか現実なのか、夢だったらどこまでが夢なのかわからないというモヤモヤした結末を迎えます。この結末といい、列車がモチーフになっていることといい、「恐怖列車」との類似点が感じられますが、「ゆん手」の方が全ての筋は通っているし、家族からの愛情も感じるし、絵柄も整理されているし、なかなかキレのいい作品だと感じます。


 もう一編の「山鬼ごんごろ」は一転して「まんが日本昔話」のような雰囲気。昔々、山奥に妖怪や鬼が仲良く住んでおりました。鬼のごんごろは山一番の力持ちで、そのうえ心も優しく皆に好かれていました。ある日ごんごろは、下界にはどんな動物が住んでいるかと疑問に感じ、下界に行ってみようと言い出します。それを聞いた妖怪の長老達は「下界には恐ろしい生き物が住んでいる」と言ったのです。



 人里近くで見かけた娘は盲目でしたが、ごんごろはその娘を一目で好きになったのでした。そこへ大蛇が現れて娘を襲おうとするのですが、それを見ていたごんごろが駆けつけて大蛇を退治し、盲目の娘はごんごろにお礼を言って共の者と帰っていきました。

 ごんごろは山に戻ったけれど、しばらくたっても娘のことが忘れられず、再び山を下りていきます。すると例の娘が子供たちとともに山に遊びに来ていました。子供たちは驚きますが、ごんごろが娘の命の恩人だと知ると仲良くなって一緒に遊びだすのでした。夕暮れ、山に帰ろうとするごんごろを娘が引き止め、ぜひ我が家でごちそうさせて欲しいと申し出ます。家の人達は驚きながらもとりあえずもてなしておりました。

 それ以来、ごんごろは村に出入りして力仕事を手伝ったりしていますが、村人は警戒している様子。そしてある日、ごんごろは娘に嫁になってほしいと打ち明け、娘は受け入れます。ところが両親は内心は大反対。村の衆と相談して娘の嫁入りを邪魔する相談を始めます。

 数日後、娘は目を治しに京の都の医者へ行くことになりました。戻って来たら夫婦になれると聞いて、喜んで京に向かうのでした。一方、ごんごろは娘の父親に「夫婦になるなら人間になってくれ、と娘が言っていた」と聞かされ、角と牙と爪を自ら切除することになりました。体力を消耗しながらも全てを切除し娘の屋敷に向かうと、父親から「娘の目は治らなかった、それで最後の願いがあるそうだ」と言われます。



 全ての力を奪われたごんごろは村人に竹槍で突かれ、絶命してしまいます。そこへ目が治った娘が京から帰って来るのですが……。

 前半のほのぼのした雰囲気が、終盤にはハードな展開になってなかなかショッキングな作品です。妖怪達に「人間が最も恐ろしい」と言われた通りの結末で、しかも人間のその恐ろしい行為は娘に対する愛情(狭量ではありますが)に由来するものです。読者は村人達の仕打ちを否定しきれないところに哀しさがあります。

 以上二編、短編ならではの緻密な展開の作品であり、方向性は違うもののいずれも後を引く読み心地になっています。


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