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日野日出志「恐怖列車」

2013-05-12 22:16:29 | 日野日出志


 ひばりヒットコミックスの本巻には「恐怖列車」「狂人時代」「地獄小僧(の後半)」が収録されています。表題作「恐怖列車」は作者の代表作ではないような気がしますし、あまりいい評判も聞いたことがありません。長編でも短編でもない中途半端な長さで、展開も荒唐無稽、列車はそれほど話に関係ない、というB級っぷりが目立ちます。けれども、むしろ、日曜の昼下がりにテレビ東京が放送している映画のような「B級ホラー」っぷりを忠実に再現しているのかもしれません。

 主人公の秀一は、ユキちゃんとブーちゃんとともに田舎に遊びに行った帰りに電車に乗っていますが、その電車がトンネルの中で突然停電し、大きな音と振動に襲われます。すぐに停電は回復するのですが、秀一の向かいに座っていた黒いコートの男がカラスの羽根を一枚残したままいなくなってしまいます。そして周囲の乗客の様子を見ると…。



 なぜか全員正気を失っているようなのです。コマをまたいだ「ゴーーーーッ」という描き文字も不気味です。

 そして列車は東京に着き、3人はそれぞれ家に帰るのですが、秀一の家から黒いコートの男が出てくるのが見え、玄関先にはカラスの羽根が落ちています。この瞬間、列車での恐怖が秀一の頭の中を走り抜けるのです。家に飛び込んだ秀一は家族の普段の様子を見てほっとするのですが、よく見ると両親の首に見たことの無いホクロや傷があり、態度も急に変わったりしてどうもおかしな感じです。そして深夜、秀一が物音に気付いて見に行ってみると、両親が誰かの死体を庭に埋めているのでした。



 両親に見つかった秀一はなんとか見逃してもらうのでした。このあたりのページから人物の顔の絵柄が凄まじいものになっていきまして、まるで楳図かずお作品なみの描き込みです。

 次の日、ユキちゃんとブーちゃんも同じ体験をしていると聞き、担任の先生に相談するのですが、そのことを秀一の両親に知られてしまってブーちゃんは殺されてしまいます。秀一はユキちゃんと逃げるのですが…。



 ユキちゃんもビルの屋上から落とされて死んでしまうのです。ユキちゃんの死体の描写が明確でないのが余計に恐怖を感じさせます。この左下のコマの絵の構図はコミックス表紙にも使われていますね。

 この後は夜の遊園地のお化け屋敷、ジェットコースター、動物園の大蛇の檻と「なんでわざわざそんなところに行くんだ!」と突っ込みたくなるような不条理ながらもスピーディーな展開。けれども結局は両親に捕まってしまい、縛られて線路の上に置かれてしまうのです。



 電車に轢かれそうになった瞬間、秀一は病院のベッドの上で目を覚まします。どうやら田舎から帰る列車がトンネル内で事故を起こして以来、秀一は意識不明だったらしいのです。そして怪我も治って退院する秀一が両親の首に見たものは………。

 後半の荒唐無稽な展開も「実は悪夢でした」という理由で説明はつくのですが、悪夢と現実の境界がわからない、あと何回悪夢から覚めなければならないかわからないという恐怖が後を引きます。こういった悪夢・幻覚と現実の多重映しは日野日出志作品の特徴ではありますが、本作では主人公(または作者)の情念のようなものは希薄で、いわば「恐怖のための恐怖」を描いているという日野日出志作品としては比較的珍しいポジションではないでしょうか。というわけで、全体の構成や深いテーマといったものはあまり気にせず、瞬間瞬間の不条理な恐怖と誇張された絵柄に注目するとなかなか楽しめる作品です。

 蛇足ですが、上の画像の左端コマ外には「●ひばり書房の本に君の名前がのっていたら、その本の題名を葉書でしらせてよ。次回のゲームデンタクが当る抽選に優先参加できちゃうんだよ~ん。(コマーシャル)」と書いてあります。ひばりヒットコミックスには大抵掲載されている一文で、あまりに場違いな文体なので腰砕けになってしまいます。「君の名前がのっていたら」どころか住所まで載っていたりするのですが、おおらかな時代でした。

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