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日野日出志「地獄小僧」

2012-04-15 22:53:05 | 日野日出志
 

 日野日出志「ホラー自選集」の第15話は「地獄小僧」です。我が家には、ひばりヒットコミックスと日野日出志選集(いずれもひばり書房)の2冊があります。ヒットコミックスでは途中までの収録で、終盤は「地獄から来た恐怖列車」に収録されています。

 この作品は映画「フランケンシュタイン」「吸血鬼ドラキュラ」「狼男」など古典ホラー映画に大きな影響を受けたものと思われますが、それでいて日本的な湿っぽさも持ち合わせています。構成も変化に富んでいて、ハードでスペクタクルな要素もあって飽きさせません。

 字吾久(じごく)一丁目に住む円間羅雪(えんま らせつ)博士は天才的な医者。その息子、円間大雄(えんま だいお)は頭の良い美少年で、将来を有望視されていましたが、事故で頭に傷を負って亡くなってしまいます。ところが、謎の老婆がやって来て、大雄が生き返る方法があると言い出すのでした。その言葉に従い、入院している不治の病にかかった少年の命と引き換えに大雄は甦るのですが…。



 それは化け物の姿でした。吹き荒れる風の効果で、絵に異様なスピード感があります。そこへ老婆がやってきて博士をゆすろうとするのですが、甦った大雄少年に噛み殺されてしまいます。すると少年の姿は元に戻るのでした。ですが、少年は周期的に姿が変わって凶暴になるようになってしまい、座敷牢に幽閉されるのでした。



 凶暴化した少年は血をすすると元に戻るようです。しばらくは動物の血を与えていたのですが、少年はついに鍵を破って夜の町で人を襲うようになりました。毎晩のように何人もの人間を殺して血をすするのでした。さらには事件の匂いを嗅ぎ付けた花水という刑事に目をつけられてしまいます。

 少年の脳の傷が原因と考えた博士は、別の子供の脳と取り替えたりするのですが、凶暴化はまったく治まりません。



 印象的な1ページ。自分の子供を治すため、他人の犠牲も厭わないという決意をする博士。ところが凶暴化の原因は全く別のところにあったのです。円間家は代々地方を収めていた大名。年貢を厳しく取り立てていた当時の円間家に対する呪いによって、3代ごとに凶暴化が発症するとのことでした。事故は単なるきっかけに過ぎなかったのです。

 普段の少年は賢く明るいのですが、自分より成績の良いクラスメートに対して殺意がつい涌いてしまうようになり、そんな自分を必死に否定します。それなのに、夜に凶暴化するとそのクラスメートの首を食いちぎってしまうのでした。



 業を煮やした花水刑事は自らを囮にして少年に手傷を負わせます。少年は逃げ帰って元の姿に戻るのですが、傷が証拠となってついに正体がばれてしまいます。屋敷は民衆に火をつけられ、少年は落下してついに絶命します。

 ところがこれでは終わらないのでした。少年の目玉が下水の中に落下しており、その細胞から地獄小僧が誕生するのでした! 地獄小僧は世の中をさすらい、人間や悪霊と関わっていきます。邪悪な超能力少年と一時は仲良く暮らしていたのですが、あることがきっかけでお互い殺し合うのでした。



 日野日出志作品の中でもトップクラスに衝撃的な1ページ! この作品ではかなりの人数の首が落ちるのですが、このページの絵以上に凄まじいものはありません。これを掲載するのも躊躇したのですが…。

 そして地獄小僧は地獄に落ちますが、閻魔大王(本物)との取引で再び現世に戻されます。その取引は地上に逃げた無限地獄の亡者を狩るというものですが、そこでこの作品は終わります。この後に日野日出志作品でしばしば見かけた、人間のためではなく自分の都合で悪霊を倒すというダークヒーローもののはしりだと言えるでしょう。

 さて、作者はノリノリで描いていたに違いありません。そうでなければ、序盤で女性が大雄少年に襲われるシーンで、「漫画見るなら日野日出志!!」などと電柱に書くはずがありません! 映画を意識した構図やコマ割りも見られるし、映像映えもするであろう派手な火災のシーンもあって、作者の夢であった映画監督の気分で描いていたように思われます。

 もちろん作者の興味は映像的なものだけでは無かったでしょう。ハードな描写の裏側には地獄小僧や博士の哀しみが存在しています。回想シーンをからめたエピローグの哀しみは日野日出志作品随一かもしれません(なぜかヒットコミックス版では省略されていますが)。

 あまりに直接的な描写と哀しみの二面性を持つ本作で、なかなかトラウマ度も高くなっていますが、間違いなく名作の一つでしょう。


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