美術監督の木村威夫が監督したものを、今回『黄金花 秘すれば花、死すれば蝶』で初めて見たが、これが思わぬ傑作であった。日本におけるシュルレアリスムの根城となった伊藤憙朔(築地小劇場)周辺ゆかりであることの証明となっており、それが特に後半、爆発的なまでに露呈している。
主人公の植物学者・牧先生(原田芳雄)というのはおそらく、南方熊楠と共に、明治後期から大正の自由教育の一翼を担った “草木の精” 牧野富太郎博士(文久2-昭和32)に対するオマージュであろう。日本におけるボタニカルアートの祖である牧野博士を写した、すばらしい写真を何葉か見たことがある。腰まで山川草木に身を晒した写真、孫たちに囲まれて満面の笑顔を浮かべている写真…。
経済的に逼迫した牧野博士が、羽仁もと子や西村伊作、与謝野夫妻らと共に大正自由教育の指導者だった、池袋の中村春二によって援助を受け、主宰していた日英両文の雑誌『植物研究雑誌』の刊行を続けることができたのは、木村威夫がまだ4歳だった1922年のことである。春二の息子・中村浩の『新伝記文庫 牧野富太郎』によれば、雑誌が生き返ったうれしさのあまり、博士は巻頭言に、「枯草(こそう)ノ雨ニ遭ヒ、轍鮒(てっぷ)ノ水ヲ得タル幸運ニ際会スルコトヲ得、秋風蕭殺(しゅうふうしょうさつ)ノ境カラ、急ニ春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)ノ場ニ転ジタ」と書いている。牧野によるきわめて美しい原色植物図鑑や植物随筆は、依然として入手容易である。
これは、やがて至る1930年代のモダニズム、池袋モンパルナス、さらには先日言及した巣鴨の映画撮影所に繋がるものであろう。これらのことに思いめぐらせる時、本作はじつに含蓄を含んだ作品であると思われたのだ。
三原橋・銀座シネパトスにて、18日(金)まで上映
http://airplanelabel.com/ougonka/
主人公の植物学者・牧先生(原田芳雄)というのはおそらく、南方熊楠と共に、明治後期から大正の自由教育の一翼を担った “草木の精” 牧野富太郎博士(文久2-昭和32)に対するオマージュであろう。日本におけるボタニカルアートの祖である牧野博士を写した、すばらしい写真を何葉か見たことがある。腰まで山川草木に身を晒した写真、孫たちに囲まれて満面の笑顔を浮かべている写真…。
経済的に逼迫した牧野博士が、羽仁もと子や西村伊作、与謝野夫妻らと共に大正自由教育の指導者だった、池袋の中村春二によって援助を受け、主宰していた日英両文の雑誌『植物研究雑誌』の刊行を続けることができたのは、木村威夫がまだ4歳だった1922年のことである。春二の息子・中村浩の『新伝記文庫 牧野富太郎』によれば、雑誌が生き返ったうれしさのあまり、博士は巻頭言に、「枯草(こそう)ノ雨ニ遭ヒ、轍鮒(てっぷ)ノ水ヲ得タル幸運ニ際会スルコトヲ得、秋風蕭殺(しゅうふうしょうさつ)ノ境カラ、急ニ春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)ノ場ニ転ジタ」と書いている。牧野によるきわめて美しい原色植物図鑑や植物随筆は、依然として入手容易である。
これは、やがて至る1930年代のモダニズム、池袋モンパルナス、さらには先日言及した巣鴨の映画撮影所に繋がるものであろう。これらのことに思いめぐらせる時、本作はじつに含蓄を含んだ作品であると思われたのだ。
三原橋・銀座シネパトスにて、18日(金)まで上映
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