荻野洋一 映画等覚書ブログ

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湘南電車にて

2007-05-19 04:48:00 | 映画
 五所平之助の作品を再見(『白い牙』)したついでに思い出したことがある。
 数年前、通訳を買って出た梅本洋一の手伝いで、当時カイエ・デュ・シネマ編集長だったシャルル・テッソンが計画した某インタビュー取材のために藤沢市へ出かけた日のことを思い出す。

 往きの湘南電車が大船に途中停車した折、「ここはショーチクの本拠地であるか?」というテッソン氏の問いに対して、僕がこの地で活躍した幾人かの映画作家の名を挙げたところ、彼はキノシタをキヌガサと、ゴショをゴシャと混同したのだった。

 日本人のうち手厳しい連中は、この混同をたやすく嘲笑するかもしれないが、僕にはかえってそれが、この上もなく愛おしく感じられたものである。
 では逆に、研究家資質の御仁を除いて、いったい世の中の何人の人が上のような混同をしうるというのか。それは心許ないことである。

横浜野毛町「萬里」

2007-05-17 23:51:00 | 味覚
 横浜国立大で授業を行ったあと、梅本洋一と共に桜木町駅南西の旧繁華街、野毛町へ。二人で斜陽の色濃い街筋を眺めつつ漫ろ歩く。古株の「米国流」洋食店、人けのない真昼の路地…。琴三絃の店はなぜか健在のようである。美空ひばり主演の『悲しき口笛』の舞台となった街…。

 梅本氏は、横浜の旧市街にはまったく不案内である僕を、野毛町の仲通りにある老舗の中華料理店「萬里」へ連れて行く。日本で初めて餃子が供された伝説の店だという。建ってから相当の年月がたち、かなりくたびれた店内で、日本初の餃子および麻婆豆腐定食を腹一杯食べ、にわかに満足感を味わいつつ、鄙びた喫茶店に入り雨宿り。1時間もせぬうちに晴れ間がのぞき、梅本車にて帰京した。

 野毛とはまったく関係ないが、先週、『カイエ・デュ・シネマ・エスパーニャ』が創刊された。

『白い牙』 五所平之助

2007-05-16 18:31:00 | 映画
 テレビにて五所平之助『白い牙』(1960)。何やら古色蒼然たる旧作のタイトルが飛び出してしまったのだが、一応、原作者の井上靖生誕100年記念ということで放映されたのがひとつ。それと、先般亡くなった桂木洋子の現役最晩年の出演作であると共に(結婚後しばらくして引退)、彼女にとっては最後の松竹作品、それもキャリア初期を過ごした松竹京都作品である、ということがひとつ。

 井上靖原作映画、特に五所平之助監督のものは、これの他に『「通夜の客」より わが愛』『猟銃』の2作が、1959年から1960年にかけて集中的に撮影されている。なぜこのようなブルジョワ家庭を舞台にした薄気味悪いメロドラマが当時はドル箱であったのかと、現代に生きる者には嘆息ものであるし、「勘弁してくれ」と受け付けない観客もいまでは数多くおられることであろう。

 だが、この3作に共通する、知的とはお世辞にも呼べない観念的な愛の妄執描写は、痛切なるマゾヒズムに達し、しかもその痛切さをこれでもかと描く五所の演出があまりにも堂に入っているためか、中毒的な魅力に富んでいることも確かなのである。僕自身は五所映画の観念性に対しアレルギーはなく、むしろ大好きである。とはいえ、傑作と言っていいだろう『わが愛』『猟銃』両作に比すると、『白い牙』は格段に落ちるといわざるを得ない。前2作の主演がそれぞれ有馬稲子、山本富士子であるのに対し(しかも彼女たちの生涯の名演のひとつであるのに対し)、本作のヒロインは牧紀子で、出演者の力量の差がもろに作品に反映されてしまったか。

 ちなみに桂木洋子は、離婚したばかりの会社経営者(佐分利信)の邸宅に入る後妻の役。桂木洋子は、継娘(牧紀子)が慕う、邸宅の離れに住む研究者(南原宏治)に一晩だけ抱かれてしまう。この事件が、ヒロインの鬱屈した観念的恋愛論にいっそう拍車をかけ、虚無的なるクライマックスへ向かうことになる。

高橋世織 編著『映画と写真は都市をどう描いたか』

2007-05-15 01:08:00 | 
 発売されたばかりのウェッジ選書中の一冊『映画と写真は都市をどう描いたか』。黒沢清、蓮實重彦、深川雅文、篠田正浩、港千尋、飯沢耕太郎、常石史子など、錚々たるメンツが執筆陣に名を連ねた一冊であるが、おのおのの半分以下のポテンシャルしか発揮していない小文がひたすら並ぶ。普段映画に親しんでいないタイプの教養人向け、という印象。

 だが、そうした本書にあって、吉増剛造の『パランプセストの都市』のみがひときわ孤高の光を放っている。流石である。

眠れる獅子、起きる

2007-05-14 06:26:00 | サッカー
マドリーが数年ぶりにその獰猛さを露にし、エスパニョールに1-3から劇的大逆転。4-3で勝ち、首位に躍り出た。優勝争いは混沌とし、スリリングな展開になり、面白くはなった。しかしこうなると、本来バルサびいきとして気が気ではなくなってきた。