荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 アレクサンダー・ペイン

2014-03-05 05:19:52 | 映画
 “巡礼” の映画作家アレクサンダー・ペインの新作『ネブラスカ』は、キャリア初期の時点で『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(1999 未公開)という生涯の代表作を撮ってしまったことの痛ましさを、あてどない巡礼旅行の道中で甘受しようとする点で、その後の『アバウト・シュミット』(2002)、『サイドウェイ』(2004)、『ファミリー・ツリー』(2011)とまったく変わらない。
 『アバウト・シュミット』のジャック・ニコルソンがアメリカ先住民の痕跡をたどるドライブ、『サイドウェイ』における男二人組のカリフォルニア州内のワイナリーもうで、『ファミリー・ツリー』のジョージ・クルーニーがハワイでの父祖の道程を遡行する島内周遊というふうに、ときにガイドブック的なまでの教条性は通常なら侮蔑の対象となるはずだが、ペインにあってはどういうわけか武装解除を促されるのである。今作では父子(ブルース・ダーン&ウィル・フォーテ)が嘘くさい$100万の当選賞金の引き換えを求めて、モンタナ州からワイオミング州といった人口過疎地域を通過するうらさびれた国道を、滑稽なほどの安全運転で横断。サウスダコタ州、そして目的地のネブラスカ州に入る。ネブラスカは監督の出身地でもある。
 主人公の老人(ブルース・ダーン)が念願の小型トラックを無免許で運転しながら故郷の町を誇らしげに通過してみせるとき、孤独に車道を眺めて暮らす親戚との美しいあいさつ、昔の恋人で「ネブラスカ・リパブリカ」なるローカル新聞を発行する老婦人(アンジェラ・マキューアン)との気品と苦渋をにじませた数十年ぶりの視線の交わし合いなど、奇跡のようなカットが連続する。冷静に見れば、単なるボケ老人の金銭欲に目のくらんだインチキな帰郷に孝行息子がつき合ってやる、というだけの、人生の敗残者に寄り添うちっぽけなロードムーヴィーだが、それは言わば、前作『ファミリー・ツリー』のジョージ・クルーニーが作中で言うように、マイ・ラヴ、マイ・ジョイ、マイ・ペインである。そしてそれこそまさにアレクサンダー・ペインであろう。


TOHOシネマズシャンテ(東京・日比谷)ほか全国で上映中
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