荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『共喰い』 青山真治

2013-01-25 02:13:01 | 映画
 公開日がずっと先のことであるため、青山真治の最新作『共喰い』の内容について詳述するのは控えたほうがいいだろうが、話したくてしかたがない。ブランクを埋めるリハビリのような『東京公園』のせつなくあたたかい徐行運転から一転して、臆面もなくドス黒い青山映画が帰ってきた。舞台設定は『赤い橋の下のぬるい水』を思い出させるけれども、微速度撮影でとらえた河川に潮が満ち引きする冒頭のカットから不穏極まりなく、今村の諧謔味からはどんどん遠ざかる。
 ローカルに留まれば留まるほど普遍的たり得る、というのは人口に膾炙した映画論だが、『共喰い』にはまさにそれがあてはまり、『Helpless』『EUREKA』『サッド ヴァケイション』と同じ土着の匂いが全カットに滲み出ている。セックスに対する欲望をたぎらせた高校生の菅田将暉を中心に、父・光石研、母・田中裕子、ガールフレンド木下美咲、父の愛人・篠原友希子のアンサンブルが響かせる不協和音。それはローカルであると同時に普遍的、凶暴であると同時に覚醒し、青春日記的であると同時に古代神話的、感覚に準じると同時に正確無比である。それはつまり、青山映画そのものだということだ。
 ポツドール『おしまいのとき』(2011 下北沢ザ・スズナリ)での檄演が忘れられない篠原友希子は、ついに映画界に真の足跡を残した。それと、田中裕子が義手を着脱するときのあの妙な「スポッ」という音。その瞬間は写されず、画面はその音につねにハッとする菅田将暉にいくのである。
 映画史上もっとも激烈な雨のナイト・シーンが、作品の後半を埋め尽くすだろう。が、それ以上のことはまだ口を慎まねば。風神雷神図がとうとう映画に雨風を巻き起こしたのだ。


今夏、新宿ピカデリーほか全国で公開予定
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