荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ムサン日記 白い犬』『フライング・フィッシュ』

2011-11-26 17:25:53 | 映画
 第12回東京フィルメックスにて、韓国映画『ムサン日記 白い犬』、それからスリランカ映画『フライング・フィッシュ』。

 今回の『ムサン日記 白い犬』でデビューを果たした35才のパク・ジョンボムは、イ・チャンドンの『詩(ポエトリー)』(2010)の助監督を務めた新人監督。脱北者コミュニティの救いがたいソウル生活に着目し、襤褸切れが寒風に吹き飛んでいくのをどこまでも凝視し続けたような作品だ。名匠イ・チャンドン(『ペパーミント・キャンディ』のあまりにも苦い人生総括)の作風を継承しつつ、新世代による『息もできない』にも通じるフィジカルな痛感を、ソウルの身を切る冷気ともども画面上に焼き付けようとする。来夏に一般公開予定。

 そして、サンジーワ・プシュパクマーラのこちらも長編デビュー作『フライング・フィッシュ』。34才のプシュパクマーラはスリランカから韓国に映画留学し、すでに短編を何本か撮ったとのことだ。アジアの監督志望者が韓国に留学するという時代なのか。日本は目指されていないのだなあ。
 シンハラ人とタミル人の内戦が続いた東部スリランカの村を舞台に、3組の主人公のそれぞれの破滅的運命を併行して語っていく。しかしこの併行の語りがきわめて不鮮明なため、作品は村の自然と人間のうごめきを静かに眺めるというような体となる。おそらく全編がアフレコなのではないだろうか、サイレントの画面に監督がほしいと思った物音とセリフだけが付け足されている。この付け足しは抽象的かつ審美的で、プシュパクマーラの提示した画-音の品評会のようになった。