荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『異母兄弟』 家城巳代治

2008-09-07 00:57:00 | 映画
 けさ、CSにて家城巳代治監督の『異母兄弟』(1957)。どうにも薄ら寒いというか、風通しの悪い作品である。とはいえこれは批判ではなく、そうであろうとしたことへの当然の結果なのである。そして、この薄ら寒さはなにも、大正末期から太平洋戦争終了に至る職業軍人一家の報国精神を年代記として描くことで重くたわんでいったためではなく、また、拡がりを欠いた家城の閉塞的な空間演出のためでもない。

 この作品中、最も激烈な感情を呼び起こす部分は、名門旧家の厳格なる家長にして、「鬼隊長」の異名を取る大尉の夫(三國連太郎)に日々冷遇され続ける女中上がりの後妻(田中絹代)が、夜11時の時を打つと共に、枕を抱え、子どもたちを起こさぬように忍び足で2階の夫の寝室へと、冷たい階段をそろりと上がっていく、その足どりの陰惨さ、さらに裸足の足裏から漂い出す無意識の猥褻さである。
 しかも、「妾の子」「落胤」などと前妻の子どもたちに呼ばれ、やはり冷遇の立場に追いやられている田中絹代の息子もまた、その足どりの陰惨さにはっきりと気づいているのである。

 昭和21年、すっかり零落した夫に対し、後妻が遅まきながら反撃の言葉を投げつけることで、作品の主題に一応の決着がつき、反体制監督の面目躍如が果たされたかに見える。が、物語が終わった後もなお、戦前戦中に毎夜繰り返された、あの忍び足の陰惨さは、息子の記憶からも、この映画の受け手の意識からも消えることはないだろう。