荻野洋一 映画等覚書ブログ

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嘆かわしいタクシーの水準低下

2007-09-05 04:14:00 | 身辺雑記
 仕事柄、タクシーを利用する機会は少なくないが、近年、東京のタクシードライバーの水準低下には目を覆うばかりである。接客態度の悪さは今に始まったことではなく、それほど気にはならない。というより、これらの点ではむしろ改善が見られるし、逆に淋しいくらいである。

 水準低下の理由は、スキルの低迷と、地理に対する知識不足だ。スキルという点では、自分の生命を安心して任せられる運転技能の持ち主が少ない。首都高に上がったときは、後部座席から見ていて冷や冷やさせられることもあるし、右折やUターンなども拙い。現に、新青梅街道でのUターンの際、一歩間違えれば死亡というような事故に巻き込まれ大けがを負った友人を知っている。この友人は事故の際に後部座席で眠っていたのだが、この事故以来、タクシーで眠ることが怖くてできなくなったという。当然そうだろう。

 そして最も嘆かわしいのが、地理に対する知識不足である。都内で「流し」をしていて、なぜあれほど道路に無知でいられるのであろうか。本当に多いのが慇懃無礼なタイプで、初めから白旗を上げてしまい、「ワタクシ、あまり道に詳しくありませんので、教えてください」などと丁重に頼んでくる、一見カマトトぶった図々しい手合いだ。タクシーに乗り、行き先を伝えたら、わずか10分の間だけでも仮眠しようと思っていた矢先にこれでは、まったく敵わない。

 たしかに東京というメガシティを完璧にマスターするのは簡単なことではない。だが、23区内の有名病院、有名ホテル、老舗の料理屋、劇場、交差点などはその名を告げられただけで、最短距離かつ渋滞していない行き方を瞬時にシミュレートし、すみやかに「はい」とだけ答えて発進してみせるのが、プロの本当の姿ではないのか。ところが、都心の有名病院さえ、客の指示がなければ辿り着けない輩が何と多いことか。先日には、広尾で乗って「赤坂五丁目交番前」と告げたらドライバーに通じない。赤坂五丁目交番といえば、三分坂で折れて日本コロムビアを抜け246に達するための重要ポイントであり、港区/渋谷区界隈を流しているタクシーが知らないでは済まされない場所である。これはもう、東京という都市そのものに対する侮辱であろう。「最近はお客さんの方がお詳しいので」などといった媚びた言い訳はもう聞きたくない。

 ここで外国のことを持ち上げるのは、嫌らしい感じがするが、西欧、東欧、極東、東南アジアなど、私は諸外国の大都市で、数多くの優れたタクシードライバーに会ってきた。怪しげで人当たりの悪い人もいたし、回り道をしたりメーターをごまかしたりする悪漢もいた。自分の応援する地元のサッカーチームのことを嬉々としてしゃべりまくる楽しい人もいた。
 そして、これらのドライバーたちに共通していたのは、自分が乗り回す街のすみずみまでを熟知していること。彼らは彼らなりに自分の街を愛し、毎日の生を、道路を駆け抜けることで生きている。

 劣化だか品格だか、最近の流行語などには興味がないが、タクシードライバーの「劣化」は嘆かわしい事態である。料金値上げ問題、ドライバーの劣悪待遇の問題などが取り沙汰されており、業界としては辛いところだろうが、私としては、単にプロとしての矜持を取り戻せということだけが言いたいのである。