男と女の仲 女房の出口/日本の民話11 民衆の笑い話/瀬川拓男 松谷みよ子編/未来社/1973年初版
語る視点で出版されているものの多くは子どもむけで、大人向きが少ないように思う。出版年は少し古いが未来社から出版されたこの本のなかには、大人向けも多数収録されている。
ときどき特養で話す機会があり、高齢者の方には(自分もあまりかわらないが・・・)どうしたものが適当なのか迷っていたが、この中には短いが、人生の機微がうかがわれる話も多い。
娯楽がすくなかった昔、話を聞くというのは、子どもだけではなく、大人にとっても楽しみだったはずなので、こうしたものが採話されているのは貴重なもの。
そのなかから、覚えるために書き写したものの一つ。
<女房の出口>
むかし、親のいいなりで所帯を持った男と女がいた。貧しかったので、食べる物着る物切りつめて、夢中で働いているうちに暮らしもちょっくらようなった。
そのうち、亭主のほうは、あくせく働くばかりでろくに化粧一つせん女房が、なんとも、もの足らんようになった。
すると、隣の後家が、ええ女に見えてならない。二言三言、話をしとるうちに、後家のほうでもその気になって、ついつい入り浸りとなった。そうなれば女房のやることなすこと、鼻についてならん。
ある日のことだ。
「もう、おまえの顔など見とうない。今すぐ出ていけ!」
と、男は言い出した。女はびっくりして、
「あんた、おらのどこが悪いのかえ。いたらんところは直すから、いうてけれ」
頼むが、亭主はなんでも出て行けの一点張りだ。
「そんだら、出て行きますべ」
と、女房は泣く泣く鏡に向かった。髪を結ったり、化粧をすると、見る見るうちに女房がきれえになっていくので、亭主はおったまげた。
「あれア、隣の後家より、かかのほうがなんぼかええ女だべ」
と、思ったら、急に出すのが惜しくてならん。もじもじしておったら、女房はいよいよしたくができ、見違えるようになって、亭主の前に手をつくと、
「あんた、長々お世話になりました。それでは、おからだを大事にしてがんせ」
しおらしゅういうて、土間を降り、そこから出て行こうとする。
「こ、これ、待て」
亭主はあわてて立ち上がると、出口にふさがった。けげんな顔の女房に、
「ここは、おらのとこだ。ここから出て行くのはならん。ほかから出て行け」
それではと女房は、玄関口に行ってそこから出ようとすると、そこにも立ちふさがり、
「こ、ここもおらの玄関だ。ここから出て行ってはならん」
という。また女房は、しかたがないからと座敷の縁側からそろっと出ようとすれば、
「いかん、いかん、ここもおらのとこだ。ここから出て行っちゃならん」
両手をおっぴろげての通せんぼだ。さすがに女房も、あんまりだとあきれはて、
「あんた、それじゃ、おらの出て行くとこがないじゃありませんか」
といえば、
「出て行くとこがなきゃ、ここにいろ」
亭主がいうたそうな。
しらないまち/田島征三/偕成社/2006年初版
遠足の日、“ぼく“はバスにのり遅れ、すぐきたバスにのったら、そこは不思議な世界。
タンポポの子どもたちが歩き、道端に生えているのは小鳥。
川にはパイナップル、バナナ、マンゴーが泳ぎ、畑には牛や豚や魚が育っている…。
動物と植物がまったく逆になっている世界
町は野菜でできています。
街路樹はおおきな犬。ハンバーグが売っているのは、ネコの植木。
“ぼく“はタンポポに食べられてしまいますが、どうもまずいらしく、はきだされ、タンポポの綿毛に乗って家にかえります。
この町では“ぼく“はとっても小さい存在。キリギリスは“ぼく“の何十倍もあります。
常識で普通と思っていることも、視点をかえると、何かありえへんことがみえてくるのかも。
タベールだんしゃく/かもといくこ/ひさかたチャイルド/2011年初版
一見、外国の絵本とおもわせるタイトルですが、このタベールは<食べる>をもじったもの。
とあるレストランにかざってある絵には、ひげのだんしゃく。
お店もしまった真夜中になると、このだんしゃくは絵から飛び出して、店内を物色。
レストランなので、食べるものがいっぱい。
パクパクモグモグ、ゴックンゴックン。
ところが・・・。
食べすぎただんしゃく。絵にもどろうとすると太りすぎて絵にはいりきらない。
歌を歌ったり、ダンスをして体重をおとして、絵にもどろうとするが、まだまだ。
流し台をプールがわりにして泳いだだんしゃく。
そろそろいいだろうと服をきていると、お店の看板猫のスモールが、あらわれる。
猫から一生懸命逃げて絵にとびつくだんしゃく。
翌朝、お店の人が仕事をしようと、きてみると、ラジオがつけっぱなし。
調理台にはたべくず。なべのふたもあいていて・・・・。
だんしゃのかわりに、お店の人におこられたのは猫のスモール。(猫ちゃんかわいそう・・・)
こどものころ、こんなことがあるといいなあと空想したものが、そのまま絵本になった感じ。
作者は現役の看護師さんとあります。
新世界へ/あべ弘士/偕成社/2012年初版
作者は旭山動物園に25年間勤務したとありました。
北極圏の島で卵を産み、子育てをしたカオジロガンの家族が、初めての越冬のためにする渡りの旅の様子が描かれています。北極海の渡りは、3000キロ以上にもおよび、約一ヶ月のあいだ飛び続けるそうです。
あざらしや白熊、トナカイ、クジラとであう長い長い旅。
ペンギンそっくりのウミガラスが画面いっぱいに描かれているのが圧巻です。
目印も何もない広大な海原を、地球の磁場を感知し、正確な方向に飛び続ける渡り鳥。やはり不思議としかいいようがありません。