語りつぐ人々 インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年
母親と息子、娘、息子の嫁の四人暮らし。息子は遠く出稼ぎに行って留守でした。母親は体が弱っていて、働き手は嫁と娘で、仕事はいつも張り合っていました。
ある日、嫁と娘は籾摺りにでかけましたが、なかなか仕事は進みません。灼けつく陽ざしの中で、牛は汗にまみれあえいでいました。娘は牛にあたりちらしましたが、嫁はだまってみるだけでした。百姓の家では、嫁は牛と同じでした。
母親は牛を休ませるようにいい、牛に水を飲ませて早く帰った方に、おいしいキール(乳粥)を用意するといいました。
二人は村のはずれの水飲み場にでかけますが、娘の牛はなかなか走りません。嫁の牛がさきに水を飲むと、自分はキールを食べられません。娘は嫁がキールを食べてしまうのに我慢ができず、牛に水をやらないまま小屋につないでしまいました。
嫁は娘がキールを食べているのをみても、だまっていました。けれども娘の牛は、のどがかわいて死にかかっていました。牛の体は震え目には涙。そして娘に向かって「おまえは死んだら鳥になれ。そして一生、水で苦しむがいい!」というと、娘は死んで鳥になり、いつもあの牛のようにのどをからしています。
百姓の家では、嫁は牛と同じというのは過去のものと思うと、世界を見るとそうでもないのかもしれません。
鳥の目には、大地の水は、牛の血に見えるというのもインドらしい話でしょうか。