アジア心の民話⑤/語りおばさんのインドネアシア民話/杉浦邦子:編・語り 本田厚二・絵/星の環会/2001年
となりのジャワ島の国から、「わが国の家来になって、言うことをきけ。それがいやなら軍隊を差し向けるが、よいか」とおどかされた西スマトラの国がありました。
西スマトラの国は、住む家も、着るものも、食べるものも豊かで、平和に暮らしていましたが、軍隊はありません。
隣の国の言うとおりになってジャワの王さまのために働かされるのも嫌です。
知恵のある人が、水牛の闘いで決着をつけたらどうかと言い出します。ただ、ジャワの王さまが納得してくれる必要があります。
そこで「戦争をすればたとえ、あなた方の国が勝っても、たくさんの犠牲者がでます。わたしたちが戦争をしている間に、ほかの国が攻めてこないとも限りません。水牛の闘いで、わたしたちの国の水牛が負けたら、なんでもいうことをききます。」と、申し入れます。大きくて強い水牛を持っているジャワの王さまは、水牛一頭で国ひとつ手に入れることができると、笑いがとまりません。
西スマトラでは、生まれたばかりの水牛を、三日間母親からはなし、乳やらないでその日をまつます。
闘いの日、広場にやってきたのは、大きくて強そうなジャワの水牛。赤ちゃん水牛は小さくてかわいそうです。
ところがいざ水牛の闘いがはじまると、おなかをすかしていた赤ちゃん水牛は、ジャワの水牛のお乳を探して、とびこみました。この赤ちゃんの水牛の角には、するどいナイフがくくりつけてあったので、あまりの痛さにびっくりしたジャワの水牛は、一目散に逃げだしてしまいます。
こうして西スマトラの国は、戦争をしないですみました。
日本の昔話には水牛がでてくることはありません。その国の特色をあらわした昔話です。