南アフリカの民話/アーダマ:編・再話 掛川 恭子・訳/偕成社/1982年初版
カフィール・スモモの木の上に、一羽の母バトと赤ちゃんバトが二羽すんでいました。
木の下をとおりかかったジャカルが、子どものうち一羽、わたしにほおってくれないかといいだしました。母バトは、いつものところで探すようにと断りますが、ジャッカルは一羽よこさないと、のぼっていって二羽ともくっちまうと脅し、一羽をてにいれ、ひとのみでたべてしまいました。もう一度母バトを脅かし、もう一羽もたべてしまうと、さっさときえてしまいました。
そこへとおりかかったハゴロモヅルが、ジャッカルが木に登れるなんてだれがいったのかきいてみると、母バトが、ジャッカルの言葉を信じてしまったことを話しました。
ツルは「ジャッカルが、自分が木にのぼれると、あんたを信じこませたんだから、こんどはわたしがジャッカルに練習すれば、とべるようになると、信じ込ませてやるとしよう」というと、ジャッカルをさがしにいきました。
二、三日後、すごいはやさで走ってきたジャッカルに「すこしやすんだほうがいい。そんないきおいで走っていると、じきに息の根がとまっちまうぞ」とツルがいうと、ジャッカルは、「すごい嵐がやってくるので、嵐にならないうちに、ねぐらのかえりつきたいんです」といいます。
ツルは、空を飛べるものには遠い近いは大した問題ではない、とびかたをおしえてやろうともちかけます。
嵐の後、ツルは、ジャッカルに、べとべとしたやにを体中にこすりつけてくるようにいいます。それからツルはじぶんの羽をぬいては、やにだらけのジャッカルに、はりつけていきました。ジャッカルのからだが羽で埋まると、長い羽根を一枚ジャッカルのしっぽにはりつけます。
ジャッカルは大喜びし、後ろ足でたって、翼をうごかすように、前足をバタバタやりました。しかし、いっこうに地面から足が離れるようすがありません。ジャッカルがなんでとべないんだと声を荒立てると、ツルは自分の子どもに教えるおなじやりかたで、とびかたをおしえると、ジャッカルを背中に乗せてまいあがります。高い空までのぼると、とぶようにジャッカルに声をかけます。ジャッカルは足を必死に動かしてとぼうとしますが、地上めがけてまっさかさまに墜落してしまいます。
ホッテントット族の話として紹介されています。
ホッテントットは、サン人とともにアフリカ最古の住民と考えられているようです。ホッテントットはボーア語で〈どもる人〉を意味しており、現在は、コイコイ人とサン人をあわせた総称としてユイサン族と呼ばれる場合があるといいます。