どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

アリババと40人の盗賊(私家版)

2014年02月27日 | 私家版
中学生のころ時間を忘れて、熱心に読んだ記憶のある千夜一夜物語。
 
 出だしの「ひらけ、ゴマ!」のフレーズは、多分、世界の子どもが知っていて、お話の世界に引き込んでくれる。モルジアナが、盗賊の手下がつけたドアの白や赤のチョークを発見して機転をきかして、ほかの家のドアのも同じ印しをつけて、アリババの家がどこかわからなくしたり、家にのりこんだ盗賊の一団が大きなかめに潜んでいたのを退治するところなど、よくわかっているシーンであるが、ドキドキさせられる。

 すでに、明治8年には、英語から翻訳されたものが出版されたとあります。調べてみるとアマゾンで取り扱っているだけでも、絵本だけで10種類以上の訳があり、その他のものも含めると相当数のものが出版されているようだ。

 しかし、この有名な話も、お話し会で聞いたことがないのが不思議なくらい。すこし長すぎるのでお話し会などでは話し難いのかも知れないが。

たまたまみた絵本(再話)が、話の流れを踏まえながらも、わかりにくいところが整理され、流れがイメージとしてあり、覚えやすいのではないかと思って挑戦してみた。
しかし、さすがに30分をこえると、初心者にはなかなか難物。時間のことも考慮して、下記の本を参考に私家版をつくってみました。
 (半年かけてなんとかおぼえました。このなかで整理していったものです 2014.9.4)

 タイトルは「アリババと40人の盗賊」が、一般的ですが、物語の構成からすると、こぐま社版の「アリババと召し使いのモルジアナに殺された四十人の盗賊」というのが内容をよくあらわしています。


   アリババと、召し使いのモルジアナに殺された四十人の盗賊/子どもに語るアラビアンナイト/西尾 哲夫 訳・再話  茨木 啓子 再話/こぐま社
   アリババと40人の盗賊/マーガレット・アーリー再話・絵 清水達也文/評論社
   アリババと40人の盗賊/アラビアンナイト 下/ディクソン 編 中野好夫 訳/岩波少年文庫/1961年初版
   アリババと40人の盗賊の話/アラビアンナイト/ケイト・D・ウイギン 阪井晴彦 訳/福音館書店/1997年初版

  (そのほか、菊池寛訳がネットにありました)


<アリババと四十人の盗賊>

 むかしペルシャに、カシムとアリババという兄弟が住んでいました。父親がわずかな財産を残して死んだので、二人はそれを半分ずつわけあいました。しかし、兄のカシムは結婚するとまもなく、おかみさんがたいそうな遺産を受けついだので、町でも指折り商人になりました。
 一方、アリババも結婚していましたが、貧しい暮らしを続けていました。アリババは近くの森で薪を集めると、唯一の財産である三頭のロバにつんで町に行き、これを売ってなんとか暮らしていました。
 ある日のこと、アリババがいつものように薪を集めていると、遠くの方に、土煙が巻きあがるのがみえました。見ると、馬に乗った大勢の男たちが、こちらに向かってきます。アリババは、ひょっとすると盗賊の一団かもしれないと思い、いそいでロバを木の茂みに隠すと、自分は岩山のそばの木によじのぼって、ようすをうかがいました。
 馬に乗った荒くれ男たちが、そばまでやってきました。アリババが数えてみると、四十人いました。顔つきを見ても、身なりを見ても、盗賊の一団にまちがいありません。男たちは馬からおりると、金貨や銀貨でずっすりと重い袋を鞍からおろしました。
 一人の男が、岩山の前に立ちました。アリババがかくれている木の真下です。きっとこの男が盗賊のかしらなのでしょう。男はアリババにもはっきり聞こえる大きな声でこういいました。
「開け、ゴマ!」
そのとたん、戸口がぽっかりと開いたのです。盗賊たちは中に入っていき、最後に頭も入ると、扉はひとりでに閉じました。
 アリババは、いつまた岩が開いて盗賊たちが出てくるかもしれない、と思うとおそろしくて、そのまま木の上でじっとしんぼうしていました。
 やがて、扉が開くと、四十人の盗賊が出てきました。今度は頭が先頭に立ち、そのあとから一団がぞろぞろとついてきます。さいごの一人が外に出ると、頭はまた大きな声で呪文をとなえました。
「とじよ、ゴマ!」
すると扉は、ぴたりと閉じてしまいました。
それから四十人の盗賊は馬にまたがると、頭を先頭に、きた道をもどっていきました。アリババは一団がすっかり見えなくなるまで、じっと目をこらしていました。
 アリババは、頭が扉をあけたり、とじたりするときにいっていた呪文をおぼえていましたから、自分もやってみたくなりました。
アリババは、木からおりると、岩の前に立ちました。そして大きな声でいいました。
「開け、ゴマ!」
すると、たちまち扉が開いて、大きく開きました。中は広い洞窟で、床から天井まで、うず高くつみあげられた絹織物やじゅうたん、それから、サンゴや真珠、色とりどりの宝石でできた装飾品に飾り物、その上、数えきれないほどの金貨や銀貨の袋でいっぱいでした。
この洞窟は、何十年何百年もかけて盗賊たちが集めた宝のかくし場所だったのです。アリババはぐずぐずせずに、やるべきことをすぐにはじめました。扉は、さっきアリババが中に入ると、ひとりでに閉じてしまいましたが、あけるための呪文を知っていますから心配はありません。アリババは金貨の入った袋だけを外に運び出しました。それから、袋を三頭のロバにつめるだけつむと、その上に小枝をのせてかくしました。これがすむとアリババは、岩の前にたって呪文をとなえました。
「とじよ、ゴマ!」
すると、扉は閉じました。扉は、人がはいると、ひとりでにしまるのですが、外に出ると開いたままになっているのです。

 アリババは家につくと、おかみさんの前に金貨の袋をどさりとおきました。おかみさんは、アリババが盗んできたかと思って、おもわずこういいました。
「なんてまあ、情けない、お前さんは!」
アリババは、金貨の袋を見つけたいちぶしじゅうを話して聞かせ、なにはともあれ、これはぜったいに秘密にしておかなければいけないといいました。おかみさんはすっかりうれしくなって、目の前の金貨を一枚残らず数えてみたくなりました。
「いったいどのくらいあるか知りたいの。枡をかりてくるわ」
おかみさんは、いさんで義兄さんのカシムの家に行きました。カシムのおかみさんは、アリババがひどく貧しいことを知っていましたから、義妹がいったい枡で何をはかるのだろうとふしぎに思いました。そこで、枡の底に油をぬっておきました。
 アリババのおくさんは家に帰ると、山ずみにした金貨を、はかり始めました。枡をいっぱいにしては、長いすの上にあけ、すこしずつはなして金貨の山をつくっていきました。全部をはかりおえると、アリババが金貨を袋に入れて、庭に掘った穴に埋めました。
 アリババのおくさんはすぐ枡を返すに行きましたが、枡の底に金貨が一枚くっついていることに気がつきませんでした。
 カシムのおかみさんは、枡の底を見ました。そして金貨がついているのを見ると、さけびました。
「まあ、なんてこと! 枡ではかるほどの金貨をアリババがもっているなんて」
 そして、カシムが帰ってくるとすぐに報告し、その金貨をみせました。金貨を見せられて、カシムはアリババがねたましくて、その夜は一睡もできませんでした。
 翌朝早く、カシムはアリババの家にでかけていきました。
「アリババ、何かかくしているだろう?貧乏暮らしをしていると思っていたが、枡ではかるほど金貨をもっているとはな!」
「なんですって、お兄さん」と、アリババはいいました。
「しらばっくれるな」カシムはあの金貨を見せていいました。
「いったいどれほどの金貨をもっているんだ?きのう貸してやった枡の底に、これがくっついていたぞ」
 これを聞いたアリババは、カシムとおくさんが、自分たちの秘密をかぎつけことがわかりました。人のよいアリババはカシムに、盗賊の宝のかくし場所をしったいきさつと、その洞窟に入ったり出たりするのに必要な、まじないのことばを教えました。
 カシムは翌朝、日の出も待たずに、十頭のラバに大きな箱をくくりつけて出かけました。宝ものをひとりじめしようと思ったのです。
 カシムはアリババから教えられた道を進み、やがて岩山につきました。カシムは、大きな声であの呪文をとなえました。
「開け、ゴマ!」
 すると扉が開きました。カシムが中に入ると、扉はひとりでに閉じました。
 洞窟の中には、アリババから聞いて想像していたよりもはるかに越える宝物が、ぎっしりとつまっていました。カシムはしばらくうっとりと見とれてしまいましたが、すぐに持てるだけの宝石や金貨の袋を、つぎつぎに入口のそばに運びました。ところが自分のものになる大金のことで頭がいっぱいになっていたので、扉をひらくための呪文が思い出せないのです。
 カシムは、ゴマではなく
「開け、オオムギ!」といってしまいました。
 扉は開くどころか、ぴたりと閉まったままです。あわてたカシムは、思いつくかぎりの穀物の名を、つぎつぎにいってみましたが、扉は少しもうごかず、とじたままです。カシムはとほうにくれてしまいました。そして、なんとか呪文を思いだそうと洞窟の中をせわしなく歩きまわりました。
 昼ごろ、盗賊の一団がもどってきました。岩の近くまでくると、背中に大きな箱をくくりつけた何頭ものラバが、あたりをうろついています。盗賊たちはおどろいて、ラバを追いちらすと、刀をぬいて、岩の前に立ちました。
 洞窟の中で、カシムは馬のひづめをの音を聞きました。盗賊たちが帰ってきたのにちがいありません。カシムはおそろしさのあまり、扉が開いたとたん外に飛び出し、盗賊の頭を投げ飛ばしました。しかしほかの盗賊の刃から逃れることはできず、その場で命をうばわれてしまいました。
 盗賊たちには、この男がどうやってここに入ったのか、またほかにも洞窟のひみつをしっている者がいるのか、まったくわかりませんでした。しかし、自分たちの宝はなんとしても守らなくてはなりません。盗賊は、カシムの死体を、四つに切り裂くと、見せしめのために、洞窟の内側にぶらさげておきました。
 さて、カシムのおかみさんは、一晩たっても夫が帰ってこないので、心配になってアリババのところへ行き、カシムの様子を見てきてほしいとたのみました。アラババはすぐに、三頭のロバをつれて森に向かいました。そして岩山の前に立つと、あの呪文をとなえました。
 扉が開きました。そこにあったのは、四つ裂きにされたカシムの死体でした。
 アリババは、兄の亡がらをていねいに布でつつむと、ロバの背にのせて、小枝でかくしました。そして、のこりの二頭には前と同じように金貨の袋をのせ、これも小枝でかくして、カシムの家に向かいました。
 アリババが、カシムの家のとびらをたたくと、若い女召し使いのモルジアナがでてきました。モルジアナはたいそうかしこく、どんなむずかしいことでも知恵と機転をはたらかせて、いつもうまく切りぬけるのです。アリババもそのことをよく知っていました。アリババは、カシムの身に起こったことをすっかり話してから、こういいました。
「これは、ぜったいに知られてはならないひみつだ。このつつみの中に、殺されたご主人の亡がらが入っている。みんなにカシムはふつうに死んだことにして、葬式をださなくてはならない。お前ならうまくやってくれるだろうね」
「わかりました」モルジアナは、おちついて答えました。
 さて、翌朝はやく、モルジアナは、町の広場でだれよりもはやく店をあける靴屋のムスタファじいさんのところに行きました。モルジアナは靴屋に金貨を一枚にぎらせて、いいました。
「ムスタファじいさん、ぬってほしいものがあるの。お道具を持って今すぐ一緒にきてくださいな。でも少し先までいったら、目かくしをさせてもらいますよ」
 これを聞いたムスタファは、眉根をよせました。
「おいおい、やましいことじゃあるまいね」
 モルジアナはさらに一枚、金貨をにぎらせました。
「やましいことを人にさせるなんて、神さまがおゆるしになりません。さ、こわがらずにいっしょにきてくださいな」
 モルジアナは通りをいくつか曲がると、布でムスタファに目かくしをし、手を引いてカシムの家につれていきました。そしてバラバラになったカシムの亡がらがおいてある部屋に案内すると、ようやくムスタファの目かくしをはずしました。
「ムスタファじいさん、これをぬいあわせてほしいの。そのためにきてもらったのよ。いそいでちょうだい。仕上げてくれたら、もう一枚金貨をおわたしします」
 ムスタファが仕事を終えると、モルジアナは約束どおり三枚目の金貨をにぎらせました。そして、また目かくしをしました。
こうしてモルジアナは、だれにも疑われることなく、カシムの亡がらを棺桶におさめました。カシムはていねいに埋葬されました。死体にきずは見られず、だれもカシムの死に方にうたがうものはありませんでした。
カシムの葬儀が終わってしばらくすると、アリババとおくさんはカシムの家にうつりすみました。カシムの店はアリババの息子にまかせることになりました。

 何日かたって、盗賊たちが森の洞窟にきてみると、おどろいたことに、カシムの死体がなくなっていて、そのうえ、金貨の袋までへっていました。
「おれたちのひみつは知られてしまった」と、頭がにがにがしい顔でいいました。「泥棒は一人ではない。死体がなくなって、金貨の袋がへっているのが何よりの証拠だ。はじめの一人を消したように、そいつの仲間も消さなくてはならない。さもないと先祖代々苦労してためた、お宝すべてを失ってしまう」
 手下たちがうなずくと、頭はつづけました。
「おれたちが切りきざんだやつのことが、町でうわさになっているにちがいない。そいつがどこのだれかを、つきとめるのだ。そうすれば、そいつの仲間のこともわかるだろう。もし、しくじれば、おれたち全員の破滅につながる。だから、この役目を引きうけて、しくじった者は、死をもってつぐなわなわなければならない」
 すると、すぐに一人の手下がいいました。
「頭のいうとおりだ。おれが男として、命をかけてやってみよう。だが、万一しくじったとしても、おれが仲間のために勇気と誠をささげたことは、わすれてくれるな」
 こうして手下の男は出発し、空が明るくなるころ、町につきました。
 男が広場までくると、もうあいている店がありました。靴屋のムスタファじいさんの店です。ムスタファは仕事をはじめようとしていました。男は声をかけました。
「やあじいさん、こんなに早くから、もう仕事かい。いい年なのによく目がみえるね」
「どなたかは知らんが、わしのことをごぞんじないね」と、ムスタファがいいました。
「ごらんのとおり年はとっているが、目はまだ、むかしのままだ。ついこのあいだも、ここと同じくらい暗いところで、死人をぬいあわせたばかりさ」
 男は小躍りしました。町についてさいしょに声をかけた人物が、こちらの知りたいことを話してくれたのです。
「死人だって!」と、男はおどろいた声でいいました。「それはつまり、死人をつつむ布をぬったということですかい?」
「いやいや、そうじゃないさ」と、じいさんが答えました。「いったとうりのことだよ。だが、もうこれ以上しゃべりませんぞ」
 もはやまちがいありません。これこそ知りたかったことです。男は金貨を一枚、ムスタファの手ににぎらせました。
「あんたのひみつをさぐろうってわけじゃないさ。知りたいのはただ一つ、あんたが死人をぬった家のことさ。案内してもらえないかねえ」
「そりゃだめだ。お前さんののぞみをかなえようにも、できんのだよ。あるところまでいくと目隠しされてその家までつれていかれ、帰りもおのじようにしてつれもどされたからね」
「それなら」と、男がいいました。「もう一度目かくしをしたら、思い出すかもしれない」
そういいながら男は、ムスタファの手にもう一枚金貨をにぎらせました。
 二枚の金貨を目にするとムスタファじいさんは、のどから手が出るほどほしくなり、少しかんがえてからいいました。
「せっかくのたのみだらら、ひとつできるだけのことはやってみよう」
 男は布でムスタファに目かくしをすると、手を引いたり、自分が手を引かれたりしながら歩いていきました。やがてムスタファが足を止めると「うむ、このへんだったな」と、いいました。
 ちょうど、そこは、今でこそアリババが住んでいますが、もとはカシムの家だった真ん前でした。男は用意してきた白いチョークで、すばやく扉にしるしをつけました。
 ムスタファと手下の男が立ち去ってしばらくすると、モルジアナが買い物から帰ってきました。モルジアナは、扉のしるしに気がつき、不思議に思いました。
「このしるしは、何かしら?子どものいたずらとは思えない。だれかご主人さまに悪いことをたくらんでいるのではないかしら」
モルジアナは用心のための、近所の家の戸口という戸口に、白いチョークで同じしるしをつけました。
さて、手下の男が仲間をつれて町にきてみると、どの家にも同じしるしがついていて、見つけておいた家がどれかわかりません。
もくろみは失敗し、男はおきてにしたがい、いさぎよく死をもってつぐないました。
 すると、すぐに別の一人が、自分ならもっとうまくやってみせる、と名乗りをあげました。
この男も、前の男と同じように、ムスタファじいさんに金貨をにぎらせ、目かくしをしてアリババの家をつきとめました。そして、前よりもっと目立たない場所に、今度は赤いチョークでしるしをつけました。
 しかし、モルジアナの目は、この赤いしるしも見逃しませんでした。モルジアナはきのうと同じように、となり近所の家の目立たないところに赤いしるしをつけたのです。
 こうして、二番目の男も失敗し、前の男と同じように死のつぐないをしなければなりませんでした。
 頭は勇気ある仲間を二人も失ってしまい、今度は自分がやらなければならないと考えました。そしてまたも、ムスタファじいさんの力をかりてアリババの家をつきとめました。しかし、頭は、とびらにしるしはつけず、その家のようすを自分の目にしっかりときざみつけました。
 頭は森にもどると、あの家の者を皆殺しにする計画を話して聞かせました。2,3日たった夕方、頭は油売りに変装して19頭のラバをつれてアリババの家にやってきました。どのラバの背にも二つの大きな皮袋があり、その中の一つだけに油がはいっていましたが、あとの皮袋には使いやすい武器をもった盗賊が入ってかくれていました。
 盗賊の頭は、門の前で夕涼みをしていたアリババに、夜になって行き暮れたので、どうか一夜の宿をかしてほしい、とたのみました。アリババはこころよく旅人を迎え、ラバを中庭にいれるようにいいました。それからモルジアナをよんで、客人のために食事と寝床の用意をするようにいいつけました。
 さて召し使いのモルジアナは、いわれたことをすますと、台所でおそくまで、朝ご飯のスープをつくっていました。するとそのさいちゅうに、ランプの火が消えてしまいました。
油がなくなったのです。油の壷の中もからっぽでした。それで、あの庭にあるたくさんの皮袋から、少しくらいもらってもいいだろう、と思って、壺を持って庭へ出て行きました。
ところが、はじめの皮袋に近づくと、中から押し殺したような声がしました。
「頭、もう時間ですかい?」
 モルジアナは、はっとしましたが、とっさに機転をきかせ、同じように低い声でいいました。
「いや、まだだ、もう少しまて」
 となりの皮袋からも、同じ問いかけがありました。こうして、同じ答えを繰り返していくと、最後の袋からは声がなく、そこには油がたっぷり入っていました。
 いまや、モルジアナには、はっきりとわかりました。アリババが油商人だと思って家に招きいれたのは、三十八人の盗賊だったのです。なんとか、ご主人の命を守らなくてはなりません。
 モルジアナは、いそいで台所から大きななべを持ってくると、油をいっぱいに満たし、それをかまどの火にかけて、ぐらぐらと煮立てました。それから庭に運ぶと、皮袋の口へ、つぎつぎに油をそそぎこみました。盗賊たちはひとたまりもなく死んでしまいました。
 真夜中になると、頭は起き上がって庭をうかがいました。頭はいくつかの袋めがけて小石をなげ、手下に合図をしました。しかし、どの袋からも、だれもでてきません。頭は心配になって、庭に出て袋をのぞいてみました。全部の袋をつぎつぎにのぞきました。手下は一人のこらず死んでいました。
 頭はまさかの失敗に打ちのめされて、塀を乗りこえて逃げていきました。

 一息つくと頭は、このままですませるものかと、仕返しの次の手を考えました。
 頭は、町に一軒の店を出すことにしました。洞窟から絹織物やじゅうたんを運んで店に並べ、名前もハッサンとかえて、アリババの命をねらう機会を待ちました。
 この店はぐうぜん、アリババの息子の店のすぐ前にありました。それがわかると、ハッサンはアリババの息子にあいそよくあいさつし、だんだん親しくなって、ちょっとした贈り物をやったり、店に招いて食事をするまでになりました。息子は自分の方からもハッサンをもてなしたいと思い、父親に相談しました。すると、アリババは喜んで、自分の家に招待しようといいました。
 盗賊の頭は、殺そうとねらっている男の家から食事にまねかれたのです。男は長いひげをつけ、変装してアリババの家にやってきました。だが、モルジアナは、客をひと目みるなり、これはあやしいとにらみました。それによく気をつけてみると、上着の下には短剣までかくしているではありませんか。モルジアナは、料理を出しおわると、果物とお酒を運びました。

 食事がすむと、モルジアナは、踊り子の衣装を着て入ってきました。きらびやかな飾りと美しい衣装をつけ、銀の帯には銀の短剣をさしています。
 みんなは、モルジアナの美しさと風変わりな踊りにうっとりみとれていました。
 突然、楽しい宴の席に悲鳴があがりました。踊りながら客の前に進み出たモルジアナが、いきなり剣を客の胸に突き立てたのです。
アリババはあまりのことに、大声をあげました。
「アーツ、なんてことをするんだ!わたしたち一家にわざわいをもたらすつもりか!」
しかし、モルジアナは少しも騒がず、盗賊の上着から短剣を取りだして客の正体をあばいてみせました。


 こうして、かしこくて勇敢なモルジアナは、盗賊との知恵くらべに勝って、アリババ一家を守りぬいたのです。
 アリババは、モルジアナを息子の妻に迎えました。
 結婚した二人は、アリババを大切にしながら、運命がさだめたときがくるまで、楽しく幸せに暮らしました。
 

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