語りつぐ人びと*インドの民話/長弘毅/福音館文庫/2003年
ご馳走をただでいただく話。
小さな村にやってきた商人が、地主の旦那のところによばれたと、村びとに自慢話をはじめました。それを聞いた百姓のひとりがいいました。「それがどうだっていうだ。おらがその気になりゃあ、地主のところでたらふくご馳走ぐらい食うのは朝飯前だ」。
商人が、むっとして、百姓が地主のところでご馳走になるはずはないと、「たぶん、この世じゃむりだな」というと、百姓は勢い込んでいいました。「それじゃあんた、なにをかけるかね?」。
もし百姓が地主のところでご馳走を食べたら、商人は牝牛を二頭、百姓に買ってやる、そしてもし食べられなかったら、商人の畑をむこう三年間のあいだタダで耕す約束をしました。
百姓は地主のところに出かけると、「旦那様!おらあないしょで話がしてえだが」「たまごぐれの大きさの黄金の値打ちはいくらだね?」と尋ねました。
黄金と聞いて、地主の目がかがやきました。「まあ、すわんな。飯を食ってから、その話、ゆっくり聞こうじゃないか」。
地主は自分と一緒に百姓の分も用意させました。そして食事が終わると百姓に尋ねました。「じゃ、見せてもらおうか。どこにあるんだい。おまえの黄金は? なあに、わしはおまえをだましたしやせん。安心しな」。
百姓は小さな声でいいました。「おらあ黄金なんてもっちゃいねえだ。おらあ、ただ黄金てえのはいくらぐらいするもんか、聞いてみただけなんで」。
地主が、「たわけ! とっとうせろ! このまぬけめ!」とどなつけると、百姓はいいました。「ご馳走をしてくれたのは旦那、牝牛を二頭くれるのは商人。旦那が息災なあいだは、おらあ まぬけといわれるすじあいはねえだ」。