魔術師キャッツ/T・S・エリオット・文 エロール・ル・カイン・絵 たむら りゅういち・訳/ほるぷ出版/1991年
猫が主人公の話がふたつ。ひとつは、「大魔術師ミストフェリーズ」、もうひとつは、「マンゴとランブルの悪ガキコンビ」。
大魔術師ミストフェリーズは超一流の奇術使いで目が鋭い黒ねこ。マンゴとランプルの悪がきコンビは、どこへでもでかけ大暴れ、口のうまいこと天下一品。それはそれは腕の良いドロボウ猫。
絵は静止画、文章は口上風ですから、見ている側で絵を動かしていく必要があります。
ミスター・ミストフェリーズは神出鬼没。
ふだんの彼ときたら、暖炉のまえで丸まって、ぼーっとしているだけ。
なにがきても気にしない。
こんな内気で臆病な猫も、ほかにはいないと思うくらい。
ところが、これまた不思議。
暖炉のまえで丸まって、寝ているはずなのに屋根の上で声がする。
屋根の上をうろついていたはずなのに、暖炉のまえで声がする。
とうとう最後には、気持ちよさそうに彼がのどをゴロゴロ鳴らすのを、家中のみんなが聞くのです。
これだけの文に、絵は、猫が暖炉前の椅子の上で寝ている一枚。
文章のリズムが楽しめる話です。
ミュージカル「キャッツ」の原詩で、ミュージカルにでてくるさまざまな猫でも、ミストフェリーズは人気のようです。これがエロール・ル・カイン(1941-1989)の最後の作品。若くして亡くなっているのが残念です。