だから、ここに来た!

いらっしゃいませ! 英国旅行記の他、映画や音楽、テレビドラマ、演劇のレビューを中心にお贈りしております!

坂本龍一 PLAYING THE PIANO /05

2005-12-12 | music
暖かい光

と聞いて、何を思い浮かべますか?
暖炉の火、蝋燭の明かり、木漏れ陽、遠くに見えるビル群の夜景…
おそらく人によってそれぞれ違います。

私にとって、暖かい光はなんなのかなーと思ったとき、
きっと、これからはこの夜のことを思い浮かべると思います。

『坂本龍一 PLAYING THE PIANO /05』12月9日(金)
@渋谷・オーチャードホール。



ピアノだけで音楽家が全国ツアーをするというのは初めてのことだそうです。
クラシックのコンサートで寝たことはない私ですが、
正直、二時間近くピアノだけの演奏を聴き続けるなんて、
教授の演奏とはいえ、ちょっと辛いんじゃないかなーと思ってました。
週末で疲れがここでドッと出て寝てしまったらどうしよう。
不安でした。

ところが、始まった途端、その心配はどこかに飛んでいってしまいました。
出来る限り絞った舞台照明の中に現れた、ピアノと教授の姿。
そして弾き始めた旋律…

『Energy Flow』

始めから直球の選曲。
そこに舞台のスクリーンに映し出される、暖色の色彩。
窓辺に掛けた格子柄の布が、昼下がりのお日様の光を包んでいるような、
静かな静かなひととき。



そのとき、私は何故か泣き始めてしまいました。
止めようと思っても、涙が流れて仕方ない。
「なーに、ひとりで浸っちゃってるの?」とからかわれそうだけど、
そうじゃない。
私がYMOが好きだから、
教授が好きだからという理由で感動しているんじゃなくて、
そこに、暖かい光を感じていたからなんです。

マッチ売りの少女が、擦ったマッチの火の中に素敵な夢を見たように、
思い出に触れてしまったときに、つい涙が流れるように、
私は、この旋律に触れて、
ずっと求めていた体を包んでくれる暖かさを得たと感じました。
この感覚に嘘はない。だから涙を止めようとするのはやめました。
うまく説明は出来ないけれど、この辛かった一年のことを
本当に忘れられる一瞬が訪れたんだと思えました。

合間合間に入る教授のMC。
自ら「なごみ系」とおっしゃるだけあって?
コメントのひとつひとつがほのぼのとしていて…。

「今回のテーマは平常心です」と仰ってました。
どんな平常心目指してるんでしょうか。
途中で「なかなか平常心で出来ないんだよねー」って言ってましたけど。

平常心を保つため「ちょっと、線香を…」と言って線香に火をつけたり。
ロハスですよ、ロハス!
届くかなーと思っていたら、ちゃんと客席のまで匂いが流れてきます。
教授が「届いた?」というと会場の方々から「届いたー!」の声。
いい雰囲気です。

アジエンスの話から、渡辺謙の結婚話まで話していると、
「(お客さんを指して)現実に戻さないでって顔してる(笑)」。
教授は最近ワイドショーばっかり見てるらしいですよ。

『美貌の青空』はイタリアでめちゃめちゃウケる曲で、
演奏し終わると「ウォー!って、サッカー会場みたいな歓声があがるんだよね」。
なぜか、琴線に触れるらしいです。
「…皆さんは、どうでしたでしょうか。
 (拍手起こる)…別に無理強いはしませんけど(笑)」

「今の曲は映画の主題曲で、Shining …えー、忘れちゃいました。」とか
タイトルを半ば忘れてたり、ちょっとお茶目です、教授。

ほとんど一曲ごとにMCが入って、客席を和ませたあと、
演奏が始まると水を打ったように静かに、
しかも情熱のこもった音が響き渡る、
その緊張と緩和、…緊張と言っても張り詰めるような
窮屈なものではなくて、みんなが真剣に耳を傾けているのが分かる、
そんな緊張です。

後半になると、二台のピアノを使って
(二台あったことに気付かなかった…!)
一台にはあらかじめ教授の演奏を
コンピューターにインプットしたものを再演させて、
もう一台で共演するという「ひとり共演」を披露しました。
『Tibetan Dance』から最後まで。

中でも『+33』は8台のピアノのために作った曲なので、
「本当はずらっと8台ピアノを並べたかった(!)」そうなんですが、
さすがに広さが足りなかったそうです。
それでも、二台の教授の演奏には圧倒されました。

『Riot in Lagos』には痺れたし、
『1000 knives』にはお客さんが前奏だけで緊張しているのが分かりました。
教授も弾き始める前に「じゃあ…やりますか」って
気持ち入れ替えるような口調でしたから。

あっという間に演奏は終わり、
当然のごとく鳴り響くアンコールの拍手。
戻ってきた教授が披露したのは、
『/05』で私が改めて好きになった曲。
食い入るようにステージを見つめる私は、
始まる前の不安のことなど忘れて、
ただただその光景に興奮していました。

そして、再び教授が去ると、
会場は明るくなり、退場のアナウンスが流れ始めます。
しかし、ほとんどのお客さんがその場を離れずに、
アナウンスが掻き消えるほどの拍手を送りました。
それは、もっと演奏を聴きたいというより、
感謝の気持ちを観客として音で返したような盛大なものでした。
立ちあがる人もいて、もちろん、私も立ち上がって拍手を送りました。
そして、また、教授は登場してくれたのです。

「ありがとう! …あんまり、あれやったとか、書かないでね」

…すいません、めちゃめちゃ書いてますね。

最後の最後の曲はあの映画主題歌。



音楽で人を救うことが出来るとしたら、
あの一夜は、間違いなくそんな瞬間だった。
少なくとも私には。

もう、幸せなことなんてない。
思い出の中にある暖かい光には、
再会できないと思っていたけど、
いつかまた、優しくて心が穏やかになれるときがやってくると
信じられる気がしました。
あらゆる感謝の言葉を、私はあの夜に捧げたい気分です。



01 Energy Flow
02 Seven Samurai
03 Fountain
04 Shining Boy & Little Randy
05 Chanson
06 Amore
07 Dear Liz
08 Asience
09 Reversing
10 A Flower is not a Flower
11 Undercooled
12 Bibo no Aozora
13 Merry Christmas Mr.Lawrence
14 The Last Emperor
15 Tibetan Dance
16 Riot in Lagos
17 +33
18 Thousand Knives

encore

01 Happyend
02 Aqua
03 The Sheltering Sky




↑↑↑ちなみにこれは購入したエコバックです。
自由にスタンプが押せるんだけど、
もっとぐちゃぐちゃに押せばよかった…
中身はレンタルDVD。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 試写会『フライト・プラン』... | トップ | NODA-MAP第11回公演『贋作・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

music」カテゴリの最新記事