令和5年2月17日
日本の新たな主力ロケット「H3」1号機が17日午前に打ち上げられなかったトラブルについて、
宇宙航空研究開発機構( JAXA )の岡田 匡史まさし ・プロジェクトマネージャは同日午後、記者会見を開いた。
岡田氏は、主エンジンが着火した後、第1段の機体システムが何らかの異常を検知したため、
固体補助ロケットが着火しなかったことを明らかにした。
岡田氏は、「申し訳ないと思っているし、我々も悔しい」と述べたうえで、原因究明に「全力を挙げる」と話した。
再打ち上げの時期や見通しについては明言を避けた。
H3は現在の主力「H2A」の後継機との位置づけで、国産大型ロケットの更新は22年ぶり。
低コスト化や打ち上げ能力の増強を図り、世界の衛星打ち上げ市場獲得を目標としていた。
JAXAのページでライブ配信を見ていましたが、残念!な結果です。
原因を確認して再チャレンジを願うのみ。
令和5年2月16日
日本の新たな主力ロケット「H3」1号機が16日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターの組み立て棟から
約400メートル離れた打ち上げ地点に移動した。
17日午前10時37分に予定されている打ち上げに向け、最終段階に入った。
全長57メートル、直径5・2メートルの1号機は16日午後4時1分、専用の台車に載せられ移動を開始。
ゆっくりと34分かけて、打ち上げ地点に着いた。
打ち上げまで、機体に推進剤を供給する配管の接続や電気系統などの確認作業を行う。
令和5年2月15日
H3ロケット1号機2月17日金曜日に延期
15日に打ち上げが予定されていた新型ロケット、H3ロケット1号機だが、打ち上げ準備中の気象条件が整わないことから、
打ち上げが17日金曜日に延期された。種子島宇宙センターから中継で伝えた。
初打ち上げ、日本の国産基幹ロケット「H3」
H3ロケットをひたすら待っていたチーム
宇宙航空研究開発機構(JAXA)がプロデュースし、三菱重工など民間企業が開発に取り組んできた国産第3世代の強大H3ロケット1号機は、
当初、2020年度中の打ち上げ予定だったが、「やっと、やっと」3年遅れの2022年度末ぎりぎりの、
2月17日に種子島宇宙センターでの初打ち上げにこぎつけた。
H3ロケット1号機は「試験機」ではあるが、質量約3トンの大型衛星を搭載し、高度669km(太陽同期準回帰軌道)へと運ぶ。
その初荷は「だいち3号」だ。
「だいち(ALOS)」は2006年に1号機が打ち上げた陸域観測技術衛星で、全世界の2万5000分の1の地図も作成した実績をもつ。
アフリカなど地図が整備されていなかった地域の貢献ははかりしれない。
災害の状況把握などいわば地球のあらゆる状態を精密に知るインフラとしても欠かせない役割を担ってきた。
3種の高機能センサーを搭載しており、そのひとつ、高性能の合成開口レーダー「PALSAR」は雲で覆われた、
あるいは夜間でも地表の姿を捉えることができるからだ。
2009年9月、私はロシアやブラジル各地で外務省による環境に関する講演ツアーを行ったが、
ブラジルのアマゾンにあるパラー州立農牧大学の講演会場の内外にはこの講演に合わせて「だいち」によるアマゾンの森林画像が多く展示されており驚いた。
ブラジル・アマゾンではで、森林の違法伐採の監視に「だいち」の観測画像が大きな役割を担っており、関係者から感謝の言葉を受けた。
2011年3月の東日本大震災でも津波などによる被災状況を把握する多くの画像データを国や自治体に提供した。
だが残念なことに災害発生から約1ヶ月後、「だいち」は電力異常が発生、5月12日に運用を終了せざるを得なかった。
東日本大震災という経験したことのない巨大災害の直後の運用停止に、「だいち」のプロジェクトを担ってきたJAXAの担当者が見せた悔しさの表情が忘れられない。
後継機「だいち2号」がH-IIAロケット24号機で打ち上げられたのは2014年5月だった。つまり、「だいち2号」が打ち上げられるまで、
約3年間にわたり「だいち」のデータ収集は途絶えていたのだ。
こういう空白期間がないよう、「だいち3号」は「だいち2号」の5年という設計寿命(目標は7年)に達しないうちの打ち上げることにして準備が進んでいたが、
「だいち2号」の設計寿命は2022年なのだ。
「だいち3号」の2023年2月の打ち上げは「だいち2号」の設計寿命後となるので、
H3ロケットの「やっと、やっと」の打ち上げを「だいち」の担当チームはハラハラした思いで待っていたのに違いない。
現物を見て触れる最初で最後の機会
H3ロケットの開発が始まったのは、2014年だ。私はその直後から、断片的ではあるが開発の状態の取材をしてはいたが、
JAXAの筑波宇宙センターにH3ロケットチームを訪ね、まる1日かけて話を聞いたのは2019年の秋だった。
プロジェクトマネージャ(JAXAでは「マネージャー」ではなく「マネージャ」と表記)の岡田匡史(まさし)さんは、
H3ロケットの初打ち上げは「2020年度中」で、「山頂が見え隠れする山の8号目まできている」と表情は明るかった。
2020年9月に開催された「JAXAメディア向け勉強会」でも、初号機の打ち上げは「2020年度中が目標」に変りはなかった。
だがその後、思いがけない、厳しい問題にいくつも直面し打ち上げは延期されてきたのだ。
そして、「いよいよか」とわくわくする日が来た。
2021年1月23日に 、H3ロケットを報道公開するという通知が届いたのだ。
三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所、飛島工場で組み立てを進めていたH3ロケットがほぼ完成、
種子島宇宙センターへ「出荷」することになったため、公開はその出発直前という。
「種子島でさまざまなテストを行った上で」の打ち上げになるが、試験に時間がかかったとしても、打ち上げは遅くとも2021年度中だと誰も受け止めた。
飛島工場での報道公開は、H3ロケット1号機を間近で見ることができる最初で最後のチャンスなので、私も飛島工場へ駆けつけた。
H3ロケットはの印象は、とにかく「でかい!」
これまで私は、種子島でのH-IIロケット、H-IIAロケットの打ち上げを何度も見てきたが、
国産大型ロケットを間近で見るのは初めてだった(小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げた固体ロケット、
M-Vロケット5号機は、打ち上げ直前に間近で見て触れることもできたが.)。
H3ロケットは6.5トン以上、フル搭載の大型のバスを運ぶことを目標に開発してきたが、これがそのロケットかと感動した。
大型バス1台を静止軌道に運べるパワー
H3ロケットの「スケール」については、H3プロジェクトチームのエンジン担当エンジニアの一人、
ファンクションマネージャの黒須明英さんから聞いてはいた。
「H3ロケットはコアロケットの直径が約5.2m、高さは約63m。
H-IIAロケットが約53mなので10m高く、22階建ての高層ビルに匹敵します。このH3ロケットのために新開発するLE-9エンジンの推力は、
H-IIAロケットの主エンジン、LE-9の1.4倍、150トンです。このエンジンを搭載衛星に応じて2〜3基搭載します」
推力150トンはジャンボジェット機のエンジン5基分なので、最大でジャンボのエンジン15基分のパワーになる。
地球の重力(引力)はきわめて大きく、私たち人間は自らの「推力」では最大でも1.2〜1.4mしか跳び上がれない。
大型貨物機、B-777F型機は100トンもの荷物を運べるが、翼による揚力が働く大気圏、高度1万m(10km)ちょっとが限界だ。
だがロケットは空気のない宇宙空間に突き進み、高度3万6000 kmの静止遷移軌道まで数トンの荷物、人工衛星などを運ばなくてはならない。
月の距離までの10分の1とはいえ、地球の重力をふりきるにはとてつもないパワーが必要なのだ。
黒須さんは、「H3ロケットの打ち上げ時の最大組み合わせは、
2基のLE-9エンジンと第1段ロケットの底部に装着する平均推力220トンの固体ロケットブースター(SRB−3、直径約2.5m)4基の組み合わせだと説明した。
LE-9エンジン✕2=平均推力 300トン
SRB−3 ✕4=平均推力 880トン
最大推力1180トン
静止遷移軌道とは、人工衛星がジェットを吹いて地球の自転速度に合わせて地球を周回する静止軌道に移動できる軌道を指す。
静止軌道に移動した人工衛星は地球からは静止しているように見えるため、衛星は地球上のある地域をぶれることなく補足し続けるので、
途切れない衛星通信や衛星テレビ中継、地球環境のデータ収集が可能になる。
その静止軌道(高度3万6000km)にどれほど重量が大きい荷物(人工衛星)を届けられるかが大型ロケットの「国際競争」の勝負どころなのである。
コロナで閉塞した地球をよそに宇宙は熱い時代に突入
5〜6年前から世界の人工衛星需要は急激に増大を始めている。地球上ではこの数年、
新型コロナウイルス感染症で閉塞した日々が続いてきたが、宇宙への進出は月着陸や月探査を目指すいくつものミッションがスタートする賑わいをみせ、
民間企業によるロケット打ち上げや宇宙投資も急増。
2040年には宇宙産業の市場は160兆円になるという予測まで目にするようになった。
日本の基幹ロケット、H-IIAは、つい先日、1月26日に打ち上げた46号機の打ち上げ成功で、
「40機連続打ち上げ成功」を果たし「成功率97.82%」 という世界でも屈指の信頼性を誇っている。
だが、日本の宇宙力は貧しい。
世界各国の人工衛星の打ち上げ数ランキングで日本は第5位だ。5位といっても、
4位までの国とは大きな隔たりがあり、米国の約6000機、ロシアの約3600機、中国の800機と比べ、日本はやっと300機を超えたにすぎないのである。
日本の人工衛星打ち上げでは欧米のロケットを利用することもあり、「ロケット」の実績は脆弱なままだった。
一方、国益や安全保障の面からも国産の高性能ロケットは基本インフラとして必須であり、かつ、世界の衛星打ち上げ需要に応えられる国際競争力の実現も課題だ。
そこでH3は、標準仕様で約50億円という低コストを可能にする設計を行っている。
また、JAXAはあくまでもプロデューサー役に徹し、三菱重工やIHIエアロスペースなど数社からなる「キー技術関連事業者」が開発を請け負う体制をとり、宇宙民間力の増強をはかっている。
報道公開されたH3ロケットは名古屋から種子島に運ばれ、やっと迎える打ち上げ日を心待ちにしていたが、「打ち上げ日」の知らせは1年過ぎても届かなかった。
名古屋での公開から2年、「やっと、やっと」2023年2月17日以降の打ち上げ日を迎えるまで、
開発チームは幾多の想定外のトラブルに直面し、血のにじむような日々を続けていたのである。