令和5年1月9日
SDGs意識「里海米」販売好調
カキ殻使い育成、資源の循環売り
瀬戸内海のカキ殻を使って育てた岡山県産の「里海米(さとうみまい)」の販売が好調だ。
多くのブランド米が食味を前面に打ち出すのに対し、売りはSDGs(持続可能な開発目標)を意識したストーリー性。
推進するJAグループ岡山によると、生産量は発売から7年で100倍以上に急伸し、
2022年産は既に全量の取引先が決まっているという。
コメ余りが進む中、全国でも珍しい“足りないコメ”になっている。
「農業と水産業が手を携えて陸や海の環境を守るというプラスアルファの価値をのせたコメ」。
生活協同組合おかやまコープ(岡山市北区奉還町)の担当者はそう評価する。
里海米はカキ殻を加工した土壌改良材を水田10アール当たり60~100キロ以上使って育てる。
JA全農おかやま(同磨屋町)が農家や漁協、飼肥料メーカーなどに協力を呼びかけて仕組みをつくり、16年に市場投入した。
コープでは棚田やアマモ場の保全を通じ、里山、里海を守る活動に取り組んできた経緯もあって、発売当初から採用。
今では主力のコシヒカリの里海米は売り出して半年以内に完売するという。
別の路線
里海米誕生の背景には、18年のコメの生産調整(減反)廃止がある。
供給過剰に伴う産地間競争の激化を見据え、全国各地で続々とブランド米が売り出されたが、
JAグループ岡山は「おいしいお米」とは別の路線を選択した。
着目したのは主に漁業系廃棄物として処理されているカキ殻を活用した資源循環型農業。
カキ殻にはカルシウムやミネラルが含まれており、試験栽培でイネの根張りが良くなり、
品質を高めたり、倒伏被害を軽減させたりする効果が認められた。
土壌中の微生物を増殖させることも確認された。
発案した全農おかやまの小原久典次長は「岡山を含む瀬戸内海沿岸部は国内水揚げ量の約8割を占めるカキの産地。
それだけに、海から陸へと資源を循環させるストーリーが納得感を持って消費者に受け入れられ、
コメに価値が加えられると考えた」と振り返る。
土壌中に残った栄養成分は、やがて雨で流されて海に注ぎ、豊かな海洋環境をつくる―。
そんな循環への思いを込め、里海米と名付けた。
供給追いつかず
販売戦略でもブランド米とは一線を画している。
18年に農家や漁業関係者、スーパー、食品メーカーなどを交えて「瀬戸内かきがらアグリ推進協議会」(事務局・全農おかやま)を設立し、
生産と販売の両面で普及策について協議。
価格は一般的なコメとほぼ同額に据え置き、高く売ることよりも購入しやすさを重視した。
結果、需要に応じる形で生産量が年々伸び、16年に420俵(約25トン)から始まった里海米は22年産は約4万7千俵(約2850トン)まで拡大した。
品種はコシヒカリやきぬむすめ、朝日などの米飯用だけでなく、雄町や山田錦といった酒造好適米、
もち米のヒメノモチにも広がっている。
全国的なマーケットで一つの銘柄が存在感を発揮する目安は10万俵(6千トン)ともいわれる。
小原次長は「供給が需要に追いついていない状況でもあり、さらに生産を後押しする態勢を整える。
茶わん一杯の里海米が、消費者が生産現場や環境に目を向けるきっかけになり、
農漁業や地域の持続可能性につながっていけばうれしい」と力を込める。