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nishimino

にしみの鉄道情報局付属ブログ

東京メトロをゆく

2010-12-08 | 書評



「東京メトロをゆく」、この本は以前紹介した首都高をゆくの東京メトロ版です。
東京の地下鉄のうち、旧営団地下鉄の戦後の建設の歴史で、表紙は初のシールド工法によって作られた駅である、東西線の木場駅のようです。

この中に興味深いデータがあって、各路線の開削工法(オープンカット)とシールド工法の割合がありました。

銀座線  開削97% シールド2% 地上1%
(東京地下鉄道施工の新橋渋谷間の詳細不明)
丸ノ内線 開削92% シールド1% 地上7%
日比谷線 開削86% 地上14%
東西線  開削51% シールド6% 地上43%
千代田線 開削62% シールド18% 地上20%
有楽町線 開削62% シールド30% 地上8%
半蔵門線 開削31% シールド69%
南北線  開削24% シールド76%
副都心線 開削26% シールド74%

年々シールド工法の割合が増えていますが、駅部分は開削工法で作らないと難しいため、100%シールド工法というのは無いようです。
それ以外で目立っているのが、荒川より東はすべて高架区間の東西線で、地上部分の43%となっています。

さて、戦前に作られた銀座線や、戦後すぐに作られた丸ノ内線はともかく、1970年代に主に建設された、千代田線や有楽町線も開削工法の割合が意外と高く、約60%は開削工法によって作られています。建設が、本格的にシールド工法に移行したのは半蔵門線以降ということがわかります。その半蔵門線も首都高の下に後から地下鉄を作った所があり、その工事の制約から開削工法を選択した区間もあるようです。
銀座線や丸ノ内線でも川の下を通るところなどで、シールド工法が採用さており、シールド工法自体は結構昔からあった工法でした。驚いたのが日比谷線で、結構深いところを走っていますが、すべて開削工法で作られていました。

もう一つ注目したのが、東西線と千代田線のシールド工法区間の違いで、東西線6%に対して、千代田線が18%に増えています。東西線と千代田線には国鉄の103系が乗り入れていましたが、単線トンネル区間が多い千代田線では抵抗器の排熱がかなりの問題になりました。結局10年程度で203系に置き換えられ、103系は地上に転用される事になりました。東西線の方は103系と301系が寿命で廃車になるまで使われましたが、シールド工法が少なく、複線トンネルが多かったため、同じ抵抗制御の営団5000系の存在もあり、大きな問題にならなかったと言われています。


さて、この本でもう一つ注目したのが、地下鉄の普段公開されていない空間が紹介されています。
現在、東京の地下鉄には3つの廃駅があります。いずれも銀座線で、一番有名なのが新橋駅で、これは各メディアに紹介されています。あと表参道駅で、こちらは、半蔵門線を作ったときに、ホームの位置が浅草側に180m移動しています。

もう一つ有名なのが万世橋仮駅で、銀座線が上野から神田まで延長するときに、神田川の下を潜る工事に時間がかかったため、暫定的に万世橋に仮の駅を設けたものです。この駅は、1930年1月から1931年11月までのわずか2年弱しか営業されなかった幻の駅で、廃駅になってからは一度も公開されたことがないとされています。その幻の万世橋駅の現在の写真が掲載されています。
仮駅のため片側の線路を封鎖してホームにしていたため、現在残っている地下空間は、結構狭いスペースとなっています。

ちなみに余談ですけど、地下区間の廃駅は、この三駅と京成本線の上野の山のトンネル区間の博物館動物園駅、寛永寺坂駅、京王本線の初台駅(京王新線に移転)、東京モノレールの旧羽田駅があります。

というわけで、この本はどちらかというと、建設の歴史の本ですが、鉄道ファンが読んでも十分面白い内容の本です。


はやぶさ 宇宙研の物語

2010-11-24 | 書評
はやぶさが持ち帰った、微粒子の中には小惑星イトカワの物質が含まれていて、世界初の快挙が達成されることになりました。

今回はそのはやぶさと、はやぶさを作った宇宙研についての本、「はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語」幻冬舎新書刊、吉田武著です。

さて宇宙研、JAXAの宇宙科学研究所は、1964年に設立された東京大学宇宙航空研究所を母体とし、1981年に東大から独立し旧文部省所管の宇宙科学研究所となりました。
2003年に宇宙開発事業団(NASDA)、航空宇宙技術研究所(NAL)と統合され、JAXA宇宙航空研究開発機構の宇宙科学研究本部となりました。そして今年の4月に宇宙科学研究本部から、もとの宇宙科学研究所に名称が戻されています。

この宇宙研の創始者といえる人物が糸川英夫で、一式戦闘機隼の設計に関わった技術者です。戦後、一時期音響学の研究を行った後、1954年に東大生産技術研究所内にAVSAを設立しています。このAVSAが1955年に有名なペンシルロケットの実験を行い、宇宙研の母体となるわけです。
こののち、カッパーラムダなどの固体燃料ロケットの開発や、日本初の人工衛星おおすみにかかわり、1967年に東大を退官しています。
このはやぶさが向かうことになった、小惑星「1998SF36」に付けられた名称「イトカワ」はこの糸川教授に由来しています。

すっかり有名になった小惑星探査機はやぶさですが、その名前の由来は、糸川教授がかって中島飛行機時代に開発した戦闘機「隼」に敬意を表すと共に、ロケット発射場がある鹿児島県内之浦へ向かうときに最高の贅沢だった寝台特急はやぶさへの郷愁もあると言われています。

この小惑星探査には太陽系の起源を探る目的とともに、地球と全人類の未来がかかった重要な役割が課せられていると言われています。恐竜絶滅の原因は小惑星の衝突が有力視されていますが、その小惑星の探査は今後の宇宙開発における資源面の確保を含めて重要になってくると思われます。


この本では、宇宙研の歴史からそのシステム、さらにはやぶさで用いられたイオンエンジン等の革新的な技術などを十二分に紹介しています。

農協月へ行く

2010-09-01 | 書評
筒井康隆の代表作というと「時をかける少女」がよく知られていますが、内容としてはかなりまともな方に入ります。

多くの作品はナンセンス、ブラックユーモアに分類され、このあたりの代表的なところだと「日本以外全部沈没」(小松左京の日本沈没のパロディ)や、「最後の喫煙者」などがあります。

そのナンセンスなSF作品の一つに「農協月へ行く」というものがあります。
地球外知的生命体、有り体に言うと宇宙人と人類との最初の出会い、いわゆるファーストコンタクトを扱った作品ですが、そのファーストコンタクトした人々がなんと日本の農協だったという作品です。舞台は月の開発が開始された時期で、農協が団体旅行として月へ行くことになります。

さて作中ではこんなことが書かれています。

「その異星人と接触したというのは、どこの国の宇宙船ですか」招集に応じ、ホワイト・ハウスの緊急会議室へ顔色をなくして飛び込んできた国連事務総長が大声で訊ねた。
「日本の観光船だよ」正面のディスクにいる大統領が額を抑えながら、呻くように言った。「しばらく前から月面に観光客を送り込んでいたらしい。無茶をやる国だ」

(中略)

「乗客はどうなんだね。乗客は」救いを求めるような眼で大統領がいった。「乗客のなかに人はおらんのか。そのう、医者とか科学者とか、つまり異星人と交渉できるようん人物は」
「学者はいないようですね」科学省長官が、にこやかにうなずいた。「一種の団体客のようです。農協という、農民の団体です」
「農協ですと」いったん椅子に腰をおろしてた国連事務総長が、感電したような勢いで立ちあがった。「その農協というのは、まさか例の、悪名高い日本の農協のことではないでしょうな」
「農協です」なぜそんなに驚くのか理解できないといった怪訝そうな表情で、科学省長官はうなずいた。「悪名うんぬんはともかく、まさにその、日本の農協なのです」
大統領と国連事務総長と国防省長官は、口を半開きにしたまましばらく互いの顔をぼんやりと見つめ合っていた。
がたん、と音を立てて腰をおろした国連事務総長が泣きそうな顔であたりを見まわし、おろおろ声を出した。「えらいことになったぞ。えらいことに」
「破滅だ」国防省長官が溜息をつき、投げやりにいった。「もう、地球は破滅だ」


この後には農協らしいオチがあるのですが、まあそれは読んでみてのお楽しみということで。

生命の星・エウロパ

2010-08-29 | 書評
20世紀最高のSF小説作家、アーサー・C・クラークの2010年宇宙の旅の一説にはこんな記述があります。

これらの世界はすべて、あなた達のものだ。
ただしエウロパは除く。決して着陸してはならない。


木星のガリレオ衛星の一つ、エウロパ。太陽系の中では最も地球外生命体の存在する可能性の高い天体と言われています。エウロパの表面は氷で覆われており、その下には海と火山活動があることは確実視されています。
そのエウロパについて書かれた本、「生命の星・エウロパ」長沼毅著NHK出版刊が今回のテーマです。


エウロパ(木星探査機ガリレオ撮影)


さて近年、深海の海洋生物の調査研究が進み、太陽光の達しない深い海で、光合成を必要せず、海底火山からの熱や硫化水素を栄養源とする生物が発見されています。
これらの生物は、体内に特殊なバクテリアを持っており、それとの共生関係を持っています。このバクテリアは酸素を必要としており、その酸素は地球上では太陽光による光合成由来のため、この点ではまだ太陽の恵みからは脱したわけではありません。だだこのバクテリアの近縁のバクテリア(共生関係は無い)には、酸素を必要としないものあり、完全に太陽の呪縛から外れた生物といえます。


太陽系でもかなり巨大な部類に入る、木星のガリレオ衛星、イオ、カリスト、ガニメデ、エウロパ。
イオには火山があることが広く知られていますが、これは木星や他のガリレオ衛星からの潮汐力(ちょうせきりょく)によるものです。月の潮汐力によって地球は潮の満ち引きが発生し、12時間ごとに地球は20cmほど伸び縮みしているそうです。
イオの場合、この潮汐力がさらに強く、直径が地球の30%程度にもかかわらず、約200mも伸び縮みします。これだけの潮汐力があると、それだけで岩盤が摩擦で熱せられ、これがイオの火山の熱源になっています。
木星探査機によるイオの火山発見後から、想像力のある人は、同じ現象がエウロパでも発生していて、エウロパの氷の下には海があり、そして海底火山が存在するのではと考えました。つまり地球上で言うところの、南極ではなく北極のような状態ではないかと。実際に木星探査機からのデータによると、エウロパの氷の下に海があることはほぼ確実なようです。そしてその海には生物が存在するのではないかと。

3年後に生き残るクルマ

2010-07-19 | 書評
今回は「3年後に生き残るクルマ」舘内端著、宝島社新書刊を紹介します。

この本の内容は舘内端氏が日経ネットに連載したコラムを新書にまとめたものです。

ディーゼル車とハイブリット車の比較や、欧州の自動車メーカーがなぜディーゼルに固執するのかということが、書かれています。
その中で一つ興味深かったのが、アメリカの政権交代以降の環境自動車政策についてです。

メキシコ湾の原油流出事故が今問題になっていますが、アメリカは世界有数の石油産出国です。20世紀前半までは世界一で、その後ソ連が世界一になりましたが、それでも2位か3位あたりだったと思います。
しかし、アメリカ国内で消費される石油は、国内の産出量を上回っており、世界最大の石油輸入国でもあります。そのため主に中東から、かなりの石油を輸入しています。
そのため、アメリカは湾岸戦争以来、中東にちょっかいを出し続けています。これは中東に軍隊を派遣することはアメリカの財政にとってかなり大きな負担になっています。

さて、アメリカ国内で消費される石油の大半は自動車とされています。もしアメリカ国内で走る自動車の大半が、電気自動車やハイブリット車、燃料電池車などに置き関わったら、国内での石油の消費が大幅に減ることになります。いわゆるグリーン・ニューディール政策ですが、これが実現されると、アメリカは石油の輸入国から輸出国に転じ、国際的な影響力はさらに強くなると予想されます。
そのため、アメリカ国内のエネルギー政策の転換は安全保障上の大きな意味を持つと同氏は指摘しています。

同氏は次世代の電気自動車が普及する過程で、生き残ることができるメーカーは電池の技術を持っているメーカーが有利と指摘しています。まあ言うまでもないことなのかもしれませんが、これから先、電池が最重要技術になることは間違いないのは同感できるところです。